【番外編】願い事~秋の休日(1/3)~
秋晴れのこの日。
エリダヌスは王都にある公爵邸の一つ、セフィナがメイド長を務め、ラスペルバも滞在していたあのウェリントン公爵家のタウンハウスに私を招いた。
王立騎士団ルミナスの団長として、エリダヌスは仕事の鬼として知られていたが。
最近は“プライベート重視の騎士団長”“オンとオフも充実の騎士団長”とささやかれている。
どういうことか。
それはこれまで休日返上で働き続けたが、休日や祝日はしっかり休む。
休暇はもれなく取得する。
不必要な残業は一切しなくなったのだ。
つまりワーカホリックから一転、オフタイム重視派に様変わりしてしまった。
これには国王陛下は驚くが、エリダヌスはきっちりすべきことはこなしている。
さらに部下の失敗のフォローも完璧。
秒単位を惜しみながら動きつつも、各種武術の訓練は、自主的に早起きしてこなしている。
それに要請があったり、必要があれば、休日勤務も行う。
ただし、代休はしっかりとる。そしてそれは当然の権利だった。
つまり“プライベート重視の騎士団長”になっても、エリダヌスに非の打ち所はなかった。
むしろメリハリのある働きぶりを目の当たりにした部下達は、襟を正すことになる。要するに騎士団全体で残業が減ったのだ。その分、各自がアフターファイブを充実させ、騎士達の幸福度指数は急上昇。騎士志望者も増え、騎士の人気も過熱、王都内では婚約式ラッシュになっていた。
そこまでエリダヌスがノー残業、ノー休日出勤になったのは他でもない。
婚約者である私と会うためだ……!
そして秋晴れのこの日は土曜日で、午前中は来賓の警護についていたが、午後は副団長と交代。私とテラスで優雅にティータイムを過ごしていた。
澄んだ瞳は秋晴れの空と同じ碧さ。
サラサラのブロンドは陽光を受け、黄金色に輝いていた。
アイスブルーのセットアップは、無駄を削ぎ落した体躯に見事フィットしている。
「メリディアナ」
凛としている中に甘さを秘めた声で呼ばれ、私は全身から力が抜けそうになるのをなんとか堪える。
「何でしょうか、エリダヌスさ……エリダヌス」
推しの眼福な姿を拝む度に、つい“様”をつけそうになってしまう。
「本当に。君は何度言っても“様”をつけたくなるのですね」
「そ、それは……」
「わざと、ですか?」
わざとではない。わざとでは!
“様”をつけたら罰として、××をされるが、それが目的では……
「!」
ソーサーをテーブルに置いたと思ったら、エリダヌスは既に席を立ち、私の所へ移動していた。
そしてテーブルにトンと手を置くと、前屈みになる。
「“様”を使おうとした罰です」
「!」
エリダヌスの顔が近づき、私は息を呑む。
“様”をつけたら罰として、唇を甘噛みされる……というおしおきを受けるルールになっているのだけど。
普通にキスのバリエーションに思え、全然罰になっていないと思う。
ただ、この罰を受ける時は……。
メイド、バトラー、そして……護衛騎士であるマルシクもいるのに、罰は遂行されてしまうのだ!
甘噛みはいい。
でもみんなの前はダメ!
ということで、“様”をつけたらダメと決意するが、エリダヌスはそんな私を見て、実に秀麗に微笑む。それを見ると、決意が揺らぎそうになるが……。
そうではなく!
首をぶんぶん振り、邪念を払っている間に、エリダヌスは着席し、その長い脚を組む。
「話の続きです」
「はいっ!」
背筋をピンと伸ばす私を見て、エリダヌスはフッと口元に笑みを浮かべる。
多分、私が罰と喜びの狭間で揺れていること……バレていると思う!
だがすぐに口元の笑みを収め、涼し気な表情で静かに告げる。
「来週の半ばから、秋の休日です」
「あ……国の一週間の祝日ですね。エリダヌス……は、全日お休みできるのですか?」
“様”を呑み込み、なんとか言葉を続けることができた。
一瞬、エリダヌスが残念そうな表情になり、離れた場所にいるメイド、バトラー、そして……マルシクが安堵している。
それは、そうよね。
主のキスを目の前で何度も見るのは……。
!
エリダヌスの視線を感じ、慌てて彼に目線を戻す。
「当然の権利として、全日休みます」
ゲームで知る推しとは別人だ。
やはり脱・ワーカホリックだった。
「メリディアナが約束を果たしてくれるのに、丁度いいですよね」
「約束……ですか?」
反芻すると、エリダヌスの片眉がくいっと上がる。
これには「あっ」と思うが遅い。
「メリディアナ、こちらへ来てください」
「! ……はい……」
私が近づくと、エリダヌスが私の腰をふわりと抱き寄せた。
次の瞬間、私は彼の膝に、ちょこんと座っている。
「約束を忘れるなんて。ヒドイですね」
「ごめんなさい、エリダヌス! 私、忘れっぽくて。それで何の……」
「湖水地方。古い城。秋。雲海」
「!」
エリダヌスが並べるキーワードで思い出す。
私はいろいろと協力してくれたエリダヌスに対し、どんな願いも叶えると約束していた。
こんな約束をしたら、相応の金品を要求したり、鉱山の一つでも譲渡して欲しいと言い出してもおかしくないのに……。
エリダヌスが願ったのは、私をファーストネームで呼ぶことだった。
あの時はその意味を理解できず、私はエリダヌスがプライスレスな体験を望んでいると勘違いしたのだ。そしてこう告げている。
――「つまりプライスレスなものが欲しかったのですね! それならば……アンブローズ公爵家の領地に、湖水地方があります。そこには古い城が丘に建っているのですが、秋になると雲海が広がり、まるで空に浮かぶ城のように見えるんです! これはお金で買うものではなく、自分の目で見て体験するもの。ご案内しましょうか!?」
そうだ。
秋に空に浮かぶ城を見せると約束していたんだわ、私……!
お読みいただき、ありがとうございます!
読み切り番外編、お楽しみいただけると幸いです☆彡


















