【番外編】彼の想い(2/4)
お嬢様の言葉は自分の心に響いた。
まずは諦めないことだ。
次に今のままでは、大切なものを見失う――父親の期待に答え、騎士になることを諦めれば、自分の中の何か大切なものを失うことになる。そう、気付くことができた。
だがここで父親に真っ向から歯向かうのは、得策ではない。まさに“一度落ち着き、無理はしない”ことだ。父親を説得する必要がある。
そこで考えた。
騎士団へ見習い騎士として入団すると、それは事務官として仕官するに等しい。ただ仕官するのが、文官になるか武官になるかの違いなだけ。ただ有事があれば、武官は戦場へ送られる。命を落とす危険もあった。
対していずれかの上位貴族の私設騎士団へ、見習い騎士として雇ってもらう。これは腕次第で、高額待遇が期待できた。かつ有事があっても、戦場へ送られる可能性は低い。どちらかというと、仕える貴族の私財を守ることがメインとなる。
しかも男爵家より高位な貴族に仕えることで、その家門との特別なつながりを持つことができた。もし腕を認められれば、実家への支援も心置きなくしてくれるだろう。
そして今回、自分が仕えたいと願うのは、アンブローズ公爵家。
公爵家はこの国に五つしかない。
自分の家門と公爵家のつながりなんて、あるわけがなかった。
ゆえにアンブローズ公爵家の私設騎士団で見習い騎士として雇ってもらいたい――そう父親に話せば、納得してもらえるかもしれない。
「……絶対に成功するわ」
アンブローズ公爵令嬢……お嬢様の言葉が脳裏に浮かんだ。
決意した自分は、父親にこの考えを伝えた。
これまでイエスマンに徹してきた自分が、初めて明確に意思を伝えたのだ。
父親は驚いたが、ちゃんと話を聞いてくれた。
「公爵家とつながりを持てる、またとないチャンスとなるだろう。それにお前が自分から何かやりたいと言うのは、本当に幼い頃以来。やってみるといい」
父親は、アンブローズ公爵家で見習い騎士として雇ってもらうことに、反対しなかった。
父親を説得できたのは、冷静に考えた戦略の末に、自分が動いたからだろう。自分がそうやって動けたのは……お嬢様のおかげだ。
こうしてアンブローズ公爵家で見習い騎士となり、そこで自分の剣術の腕だけではなく、馬術や槍、弓についても訓練を重ねた。その成果により、自分はお嬢様の護衛騎士に抜擢されたのだ。
同じ敷地内であっても、見習い騎士達の住まいは、母屋にはない。お嬢様の護衛騎士に抜擢されるまで、そのお姿を遠くで稀に見かけることしかなかった。それでも構わないと思えていた。
いつか必ずお側で仕えると決めていたので、それまでは訓練に集中するつもりだった。今は接点がゼロでも、その時までの我慢だと、自分自身に言い聞かせて。
よって護衛騎士となり、お嬢様と会った時は、感動でいっぱいだった。
だが――。
お嬢様は……なんというか人が変わっていた。
誰かを励ますような言葉を、口にすることはない。
きっと自分と接点のない期間に、何かお嬢様を変えるような出来事があったのだろう。
もしもその時、自分がそばにいることができていたら……。
お嬢様がこんな風に変わってしまうことは、なかったのでは?
もっと早く、自分の腕が認められていたら……。
強い後悔は、変わってしまったお嬢様に対する不平ではなく、自分自身を罰する気持ちへと向かう。その結果、誓うことになった。どんなお嬢様であろうと、自分は真心を込めて仕えると。
だがやがて、お嬢様が変わってしまった原因に気付く。
ご自身の婚約者が浮気をしている――それを知ることで、お嬢様は性格が変わってしまったのではないかと。


















