【番外編】彼の想い(1/4)
お嬢様の護衛騎士になろうと決めたきっかけ。
それはあの日に遡る。
父親に連れられ、仕官について相談するため、宮殿にやって来た際。
偶然通りかかることになった騎士団の剣術訓練所。
ここは宮殿の外廊下に面した場所にあった。理由は明白。ここで訓練する騎士達を見て、将来騎士になりたいと考える若者を増やすためだ。令嬢は未来の夫候補を眺めることもできた。
その騎士団の剣術訓練所から、女性の声が聞こえてきたのだ。
「諦めないで」
本来、男たちの声が響き合う場所から聞こえてきた、凛とした女性の声。
まずその一言で、声の主の方を見ることになった。
するとそこには――。
シルバーブロンドにアメシスト色の瞳、そして真珠のように潤い艶のある肌をして、小顔で見るからに高位貴族の令嬢。でもその姿は見習い騎士と同じ、シャツにズボンという姿だ。
模擬剣に描かれた紋章。あれは……アンブローズ公爵家のもの。
彼女は公爵令嬢だ!
なぜ深窓の令嬢がこんな場所に!?
そう思いながら彼女……お嬢様の言葉を聞くことになった。
「焦っている時ほど、大切なことを見失いがち。自棄にならないで。一度落ち着き、無理はしない。そうすれば絶対に成功するわ」
これは……この時の自分の心に一筋の光をもたらす。
自分は男爵家の三男。
兄二人は家門で必要とされる存在だった。
嫡子として期待される長男。
長男同様、英才教育を受ける次男。
自分は……特に何か期待されることもなかった。勉強も運動も、そこそこできればいいと、両親からも兄弟からも使用人達からも、そう思われていた。
その結果。
何かに熱くのめり込む――あえてしないようにしていた。
このまま宮殿で仕官し、下級事務官として生きて行けばいいか……。
それは多くの嫡子ではない、貴族令息が辿る道の一つ。
この選択をして反対されることは、まずないだろう。
安定安全の最善の進路。
これが一番いいのだろう――どこか諦めにも近い気持ち。
どうせ期待されていないのだから、と。
その一方で、比較的得意だった剣術の道に進むこと。
つまり騎士になることを考えたこともあった。
だがその思いを父親に話した時、彼はこう言った。
「騎士になる? やめておけ。他国との戦もない平和な時代に向かいつつある今、騎士になるより、仕官し、上級事務官を目指した方がいい」
父親の言うことは一理ある。
確かに戦乱の世は遠い昔のこと。
どこの国も今は産業の発展に注力し、国力を上げることに重点を置いている。よって仕官し、上級事務官を目指す……男爵家の人間がこの地位に就けるのは稀だ。退職間近で褒美的に任命されることがほとんどだ。それでも数カ月、その地位に就き、そして仕官を終え、退職すると……。退職金は上級事務官として増額される。そう、増えた退職金が最後の褒章みたいなものだ。
そんな事務官になることは、宮殿という巨大な箱に閉じ込められ、黙々と机に向って過ごす――そういう人生を意味していた。
自分としては、もっと体を動かし、自由を感じたいという思いもある。
だがそうすることを父親は望んでいない。
唯一父親が期待したこと、それこそが、自分が仕官することならば――。
その期待に応えるべきだ。
そして道を選ぶべき時が迫っていた。
諦め、でもどこかでもがく気持ちもあった。
そんな自分の気持ちに、お嬢様の言葉は響いた。


















