51話:男と女の駆け引きのような会話
私と二人きりで話したいという、美貌の貴公子。
ダンスを終えると、彼と一緒に天幕の一角に向かう。
既に先客がいるが、私達が行くと、遠慮してその場から立ち去る。
空気を読まない男女が、天幕の端に二人で残っていた。だが距離もあるし、気にする必要なし。これはもう二人きりと考えて構わないだろう。
ちなみに従者には既に距離をとるように言っている。天幕の中には入らない。天幕の中の様子を伺わない――つまり見ないでと伝えてあった。
だから実質、二人きりも同然!
これには、くすぐったい気持ちでいっぱいだ。
イイ男を連れている女は格が上がる。
その女が私であると、みんなが分かればいいのに!
これが仮面舞踏会であることが、悔やまれてならない。
ソファに並んで座ると、すぐに給仕の男性が飲み物を届けてくれる。
貴公子はシャンパンをとり、私に赤ワインを勧めてくれたが、まだ飲めない年齢であると告げると……。
「大人っぽく見えるから、ついお酒を飲める年齢かと思いましたよ」
「まあ。まだ19歳になったばかりなんです」
「とてもそうは見えないね。もう完全に成熟し、お酒をたしなむレディにしか見えない」
男と女の駆け引きのような会話に、ゾクゾクしてしまう。
「レディの名前を知りたいところですが、仮面舞踏会では名乗ることも名を聞くことも禁止されていますからね。残念だ」
そう言う場合に備え、私は紋章を刺繍したハンカチを複数枚持参していた。
気になる令息がいたら配るためだった。
「良かったらこちらのハンカチをどうぞ」
さりげなくそのハンカチを渡す。
貴公子は恭しく私からハンカチを受け取り「なるほど」と微笑む。
「有名人ですね」
この言葉にギクリとする。
すっかり気持ちは昨年の仮面舞踏会の私になっていたが、そうではない。
私の名は“悪女”として連日ニュースペーパーを賑わせていたのだ。
「私は……悪女なんかではないのです」
「そうでしょうね。わたしも君が悪女には思えません」
この言葉だけで、私のハートはこの貴公子に鷲掴みにされていると思う。
同時に。
彼が何者であるか……名前も家門も分からない。
ただ、とんでもなく高貴な身分であることが分かる。
だから……私はこの素敵な貴公子に好かれたい一心で、全てを打ち明けた。
世間で悪女と言われているが、本当はそんなことないと。
公爵令嬢メリディアナは、爵位の低い私を見下している。
リギル殿下が私を好きになったということは、メリディアナには魅力がないということ。
彼女は人として劣っているのにそれを棚に上げ、私を貶めたことなどだ。
「なるほど。君の話を聞くに、その公爵令嬢が性悪に思えてきた。ところで君は、第二王子殿下のことがよほど好きなんだろうね。別れてもなお、君の心は殿下にあるのかな?」
これにはドキドキだわ。この美しい貴公子は、私に好意を間違いなく持っている。そしてリギル殿下にジェラシーを感じているのだわ!
リギル殿下のこと、最初は純粋に好きだった……と思う。
ただ、すぐに婚約破棄すると思ったら、そうではなかった。私との婚約に積極的ではないと分かってからは……。
気持ちは冷めていた。もはや王族と結婚するというゴールに向けてだけ、動いていた気がする。愛情なんて……なくなっていたと思う。
ということを全て赤裸々に打ち明けた。
「つまりリギル殿下が、公爵令嬢との婚約破棄に積極的ではないことで、気持ちが冷めたのか。それでも相手は王族。結婚すればロイヤルファミリーになれる。だから愛情が冷めても付き合い続けたと?」
「その通りです。よってリギル殿下への愛情なんて、遠い昔になくなっています!」
だから安心して、貴公子様。
私を好きになっていいですから。
「第二王子殿下とは、残念なことになった。でも第三王子もいるのでは? 君より5つ下で、まだ婚約者はいない」
あ……。そうだった。
そうね……。
第三王子を狙うのも手かもしれない。
この貴公子はとても素敵だ。
でもあくまで貴族だろう。
対して第三王子は王家の一員。
とっとと今抱えている裁判を終わらせ、裸一貫でやり直し、第三王子が私に惚れてくれれば……。やり直しができるかもしれない。王族になれるかもしれないのだ。
「第三王子。そうですね。いつかお会いし、ゆっくり話したいですね」
「いつか、でいいのですか? 本当はすぐにでも会い、お近づきになりたいのでは?」
もしやこの品のある貴公子、第三王子と知り合いなのかしら!?
それなら……今、紹介してもらった方がいいかもしれない。
「そうですね。お会いできるなら、話したいです!」
リギル殿下の婚約者に内定したということで、近々、王族の皆々様方と食事を予定していた。もしそれが実現できていたら、第三王子に会えたのに……。あ、食事会が実現していたら、私は殿下の婚約者だわ。第三王子と会えても、どうにもならない。
そんな考えごとをしていたら。
突然、こんな声が聞こえてきた。
「なるほど。実に腹黒い女ということが、よく分かった」


















