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49話:男爵令嬢の私が、こんな風に歩くなんて!

 初夏のこの季節。


 王都では舞踏会が盛んに行われている。

 連日、舞踏会が開催されていた。

 これまでの私であれば、学校が翌日から休みになる金曜日の夜から、日曜日の夜は、必ず舞踏会へ足を運んでいたものだ。それが今年は……。


 裁判が始まる前後から、招待状がピタリと届かなくなった。

 それまでは「未来の第二王子妃に舞踏会へ来ていただけるなんて、光栄ですわ」と、皆、私に擦り寄って来たのに。それが手の平を返したように、知らんぷり。


 正直。


 裁判の件はあるが、私ができることはほとんどない。弁護士が必死に頭を巡らせてくれている。私は……屋敷で軟禁状態で、息苦しく感じていた。


 舞踏会に行きたい。気晴らしをしたい。


 そう思っていたら……。


「お嬢様!」


 専属侍女が少し興奮した様子で部屋に来た。


「どうしたの。ベイリー」


「毎年この時期に開かれる舞踏会、お嬢様はお忘れですか?」


「えーと……」


「国立サンヒル庭園で、国王陛下主催で仮面舞踏会が開かれますよね? 第一会場と第二会場に分かれて。第一会場は王族もいて、会場に入るには招待状が必要です。高位貴族の限られた方しか入場できません。ですが第二会場は招待状なしで、ドレスコードを守っていれば、庶民でも入場可能です!」


 忘れていたわ!

 そんな素敵なイベント。

 これなら招待状なしでも入れる。

 庶民と一緒……といっても、一応庶民もその日は礼儀正しくしているから、問題ないわ。


「行くわ、行きたいわ。ドレスと仮面の準備をお願い!」

「お任せくださいませ、お嬢様」

「あ、でも……お父様が外出させてくれないかもしれないわ」


 そこで専属侍女のベイリーが、私は部屋にいると偽装してくれることになった。

 屋敷の馬車は使わず、従者に手配させる。

 夕ご飯は、気分が優れないから部屋で摂ることにすればいい。

 今、両親は私と距離をとろうとしている。よって部屋に引きこもる私に、干渉はしてこないだろう。外出は止めるだろうけど。


 こうして専属侍女と従者の協力を得て、私は仮面舞踏会の日を迎えた。


 オフホワイトに、赤い薔薇が散りばめられたドレスを着て、薔薇の色に合わせ、赤毛のかつらを被った。さらに黒のフード付きロングローブを羽織る。もし屋敷内で誰かに見られても、私とバレないよう工夫をした。そして目元を飾るアイマスクをフードのポケットに忍ばせ、従者の先導で裏口から屋敷を出る。


「お嬢様、この通りの先に馬車を止めていますので、そこまで徒歩でお願いします」


 普段は馬車で通る道を徒歩で急ぐ。

 男爵令嬢の私がこんな風に歩くなんて!


 普段よりヒールの低い赤のパンプスを選んで良かったと思いながら、馬車が待つ通りに向かった。ようやく馬車が見え、従者と御者の手を借り、乗り込んだ。


 仮面舞踏会では庶民ではなく、貴族の令息を捕まえる。そして食事をご馳走してもらい、帰りは馬車で絶対に送ってもらうわ。親が厳しいからと、裏門の近くで降ろしてもらえば、こんなに歩かなくて済むはずだから!


 そう決意し、国立サンヒル庭園近くの馬車の停車場へと向かう。

 馬車の中で着ていたローブを脱ぎ、仮面をつける。


 混雑しているので、通常の馬車乗降じょうこう所で乗り降りはできない。結局、また歩くことになる。


 もう、歩いてばかりだわ!

 しかもエスコートしてくれる令息もいない。

 仕方ないので従者にエスコートさせているが……。

 従者は庶民出身。

 屈辱だわ。


 だが。


 神様は私に微笑んでくれる。

 なぜなら。


「美しいレディ。従者にエスコートされているということは、正式な同伴者はいないのかな? よければ君をエスコートしてもいいかな?」


 銀髪のストレートの長髪を後ろで一本にまとめ、銀細工で飾られたアイマスクタイプの仮面をつけている。着ているのは、仕立てのいいパールシルバーのテールコート。


 どう見ても高位貴族の令息が、私に声をかけてくれたのだ!

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