43話:どうして本人を目の前にして、想像してしまったのだろう!
「そうですか。でもホリデーシーズンまで時間がありますからね。その頃には君から一緒に入りたいという言葉を……引き出す自信はありますよ?」
私の推しは何を言い出しているの!?
でもそこで気が付く。
男女の入浴は別々。
そこの禁忌を破ること、それこそ、そう簡単には体験できないこと。
お金で……買えそうな気もするが、それは騎士団長としての高潔な精神が許さない!?
だからお金ではなく、私が願いを叶えるという形で、一緒に入浴したい……?
ち、違うわ、絶対にそうではない!
そもそも誇り高き騎士団長が、男女での入浴を望むなんて、そんな破廉恥あるわけがない。
そうなると……。
「空に浮かぶ城、氷の洞窟、そしてスパ。すべて君と一緒がいいとわたしは言っているのです。その前提で、君の名前を呼ぶ許可を願っているのですが。その意味、理解していますよね?」
「え、えーと、はい。分かっています。お金では手に入れることが難しい体験を求めているのですよね? ウェリントン団長は、普通にしていたら体験できないことを、経験したい。それが団長の願いですよね?」
そこで最後の締めとして、珈琲と焼き菓子が到着した。
「何だか誤解されているようなので、ひとまず珈琲を飲んだら、庭園を散歩しましょうか」
誤解……!
空に浮かぶ城、氷の洞窟、そしてスパ……では足りないと言うことね。
それぐらいなら、まだ私の名前を呼ぶ方がいいと。
で、でも男女での入浴は……。
あれ?
でも一緒に入りたいと私に言わせるとか、言っていたような……。
気持ちを静めるため、珈琲を口に運ぶ。
そこで目の前にいるエリダヌスの、推しの入浴姿を想像してしまう。
結果、盛大にむせる。
「どうしたというのです!? お水を飲んで」
「すみません!」
どうして本人を目の前にして、想像してしまったのだろう!
ゲームでは脱いだことがない。
でもプレイヤーなら一度は……いや一度以上は、想像しているはず!
だって。
どう考えたって。
エリダヌスの……。
再度、想像しそうになり、それは無理矢理焼き菓子を食べ、我慢する。
それよりも一体どんな体験なら、エリダヌスを満足させられるのだろう!?
そんなことを考え、珈琲を飲み終えると、庭園を散歩することになる。
夜の庭園であるが、レストランで食事を終えた客が何組も散歩をしていた。
意外とにぎわっているし、そして広々としている。
「王立騎士団ルミナスの団長、エリダヌス・ロイド・ウェリントンの名にかけ、メリディアナ・リズ・アンブローズ公爵令嬢のことはお守りします。よって二人きりで庭園を散歩させて欲しいのですが」
私とマルシクに対し、エリダヌスがそう言った時は、もうビックリ。
その名にかけてって……!
そう簡単に名をかけていいわけがない!
それにこの国において、武術の頂点に立つのが、王立騎士団の団長。
あ、あとは近衛騎士団の隊長もいるが、彼が守るのは王族オンリーだからそこは別として。
エリダヌスがその名をかけ、守ると言っているのに、「いえ、それは」と言えるわけが……。
「お嬢様は、自分が命を賭してでも守りたいお方です。団長はその名だけではなく、命を賭けるお覚悟もあるのですか?」
マルシク!
なんてことを聞いているの!と思ったが、エリダヌスは「勿論です」とあっさり答える。
たかがレストランの庭園を散歩するだけなのに!
命を賭してとか、大仰過ぎる!
だがこれで二人は合意したようで、私はエリダヌスにエスコートされ、歩き出す。
しばらくは大勢の人々に紛れ、噴水のある広場まで、歩くことになった。
その噴水のある広場は、トーチで照らされており、とても明るくなっている。
しかも楽器を手にした人々が音楽を奏で、ダンスを楽しむ人までいた。
「ここの庭園は、レストランを利用しなくても、入場料を払えば観覧できるのです。ご覧ください。そちらには飲み物と軽食を売っているスタンドショップもあるでしょう」
「そうですね。こんなレストランと庭園があること、知りませんでした」
「オープンしたのは、わたし達が裁判で忙しくしていた時期です。知らなくても当然ですよ」
そこで丁度、曲が終わったようだ。
拍手が起こり、一旦ブレイクした。
だがすぐに男性一人が声をかけ、お金を渡している。
すると軽やかなメロディが流れ始めた。
エリダヌスがすっと手を差し出す。
「きちんとした舞踏会ではありませんが、ダンス、いかがですか?」























































