42話:そんな願いでいいの!?
何をリクエストされるのだろう……?
「わたしの願いを申し上げます」
「はいっ!」
「これからはアンブローズ公爵令嬢ではなく、名前でお呼びしても?」
「え、な、名前ですか……?」
この世界では親しい間柄の場合、ファーストネームで呼び合う。
特に男女間では、婚約者や恋人でないと、相手をファーストネームで呼ぶことはない。
ゆえに「君のことをファーストネームで呼ぶ関係になりたい」は、告白と捉えられてもおかしくない。
だがどう考えてもエリダヌスは意中の令嬢がいるため、告白は本人的には意図していないはず。ではなぜここに来てファーストネームで私を呼びたいのか。
……。
……。……。
……。……。……。
分からない。いくら考えても答えなどでない。
ただ、私はエリダヌスのどんな願いでもかなえると約束したのだ。
それに名前を呼ぶことぐらい……というか。そんな願いでいいの!?
「ウェリントン団長。私を名前で呼ぶのは構いませんが、そんな願いでいいのですか? 例えば我がアンブローズ公爵家に伝わる名剣が欲しいとか、商会を一つ寄越せとか」
「あいにくそういったものは、自分の力で手に入れることができます。でも君をその名で呼ぶことは……簡単にできることではないですからね」
「……! つまりプライスレスなものが欲しかったのですね! それならば……アンブローズ公爵家の領地に、湖水地方があります。そこには古い城が丘に建っているのですが、秋になると雲海が広がり、まるで空に浮かぶ城のように見えるんです! これはお金で買うものではなく、自分の目で見て体験するもの。ご案内しましょうか!?」
レモンタルトを口に運び、エリダヌスは美麗な笑みと共に応じる。
「ええ、ぜひ。君と一緒に行けるのでしたら、願ったり叶ったりです」
「ちゃんとご案内しますよ! でも……これでいいのですか、願いは?」
「いいわけないです。わたしの願いは先に伝えた通りですから」
これは……。
空に浮かぶ城を見るぐらいでは満足しない……ということ!?
それなら私の名前を呼ぶ方がいいと。
そうなると……。
「こ、湖水地方もいいですが、アンブローズ公爵家の領地には水晶がとれる鉱山があります。その近くには、氷の洞窟と呼ばれる場所もあるんです。そこは夏でもひんやりして、アイスブルーの幻想的な空間が広がっています。そちらへご案内するのでどうですか!? 王都からは少し遠いので、もしバカンスシーズンにまとまった休暇がとれるようでしたら、忘れられない体験をお約束します!」
レモンティーをゆったり口に運び、エリダヌスは優美に微笑み、答える。
「湖水地方に続き、氷の洞窟に案内いただけるのですね。わたしは願いごと、一つでいいと思っていたのに。大サービスですね。ですが、君がわたしを案内してくれるなら、休暇でも何でもとりますよ」
あ、あれ……?
湖水地方の空に浮かぶ城を見るのでも、良かったということ?
というかいつの間にか私、領地を二か所も案内することになっているけど……。
確かに願いごとは一つだったはず。
どうして……。というか……。
「で、では湖水地方と氷の洞窟で決定ですね。もう私の名前など」
「君の名前を呼ぶことが、一番の願いです。お忘れなく」
な……!
空に浮かぶ城、氷の洞窟。
それでもダメということ!?
かくなる上は……。
「スパが、我が家の領地には温かい湯が沸き出る場所があります。その湯を使い、スパ施設を建てました。そちらへご招待します。ホ、ホリデーシーズン、お休み、取りますよね、さすがに騎士団でも。その時にご案内します。これでどうですか?」
「それは気持ちが良さそうですね。ではわたしと一緒に入りましょう、ホリデーシーズンに」
「ええ、ぜひ一緒に入りま……は、入りませんよ! だ、男女別の入浴です!」
するとエリダヌスはクスリと艶めいた笑いを浮かべる。
「そうですか。でもホリデーシーズンまで時間がありますからね。その頃には君から一緒に入りたいという言葉を……引き出す自信はありますよ?」
「!?」


















