41話:私に襲われると思っている!?
あの娼館で過ごした時。
エリダヌスと当たり前のように二人きりになる時間があった。
でも通常の貴族の生活に戻ると、お互いの立場から二人きりになるのは難しいこと。今だって完全に二人きり――というわけではない。マルシク達が見ているし、半個室ではあるが、同じフロアに他の客もいるのだから。
そこでサービスドリンクとフードを載せたトレンチを手に、給仕の男性がやってきた。そしてコース料理の説明をしてくれる。
アラカルトではなく、複数あるコースから一つを選び、あとは前菜からデザートまで、いくつかのメニューから一つずつを選んでいく。例えばスープなら、コンソメ、ポタージュ、冷製から一つを選ぶ、というように。
エリダヌスは季節のコース料理を選び、私もそれをお願いすることにした。すると選べるメニューの珍しい食材について、当たり前のようにエリダヌスが私に説明してくれる。
「ウェリントン団長は……食についても詳しいのですね」
感嘆する私にエリダヌスは、こんな種明かしをしてくれる。
「今はかつてより落ち着きました。ですが一時、令嬢に何かと絡まれることが多かったのです。そう言う時は食の話をひたすらして、わたしの趣味や好きな異性のタイプについて、答えないで済むようにしていました」
つまり女性避けのため、食材について詳しくなったのだ!
推しが女性避けすることになったのは……ヒロインの攻略対象として独身である必要があったからだろう。そう思ったが、すぐに彼には意中の女性がいることを思い出す。
そこで飲み物が到着し、乾杯になる。
エリダヌスはてっきりワインでも頼むのかと思ったら、そうではない。
ザクロジュースを頼んでいた。
でもエリダヌスがそのグラスを持つと、ワインを持っているように見える。
「今日は、ワインを召し上がらないのですか?」
「ええ。今日は酔っている場合ではないので」
「!?」
まさか酔った推しに、私が何かすると思われている!?
そう思ったところで、早速前菜が到着した。
「まずは召し上がってください」
「ありがとうございます!」
アスパラガスの生春巻きは、程よい生ハムの塩気がアスパラガスによく合う!
エリダヌスとも「塩コショウのシンプルな味付けですが、素材の味が生きて美味しいですね」と話すことになる。そこへ黄金色に輝く、コンソメスープが到着。こちらは沢山の野菜や肉をじっくり煮込んで作られただけあり、深みのある味わい。一緒に到着した焼き立てパンと共に、あっという間に飲み干してしまう。
続けて登場したマスのポワレ、レモンバターソースは、この季節にぴったりだ。爽やかでちょうどいい酸味が、バターの濃厚さの程よいアクセントになっていた。
「今の季節、レモンの風味が食欲を刺激してくれますよね」
「はい! さっぱりしてこのお魚料理も、美味しくいただけています」
「騎士団でもこれくらいの季節から、訓練や仕事終わりに、白ワインにジンジャエールを加え、レモンをぎゅっと絞ったカクテルを楽しんでいます。皆、ジュースのようにぐびぐび飲んでいるのですよ」
食事がスタートしてからの会話は、他愛のないものばかり。
紳士服店に向かう馬車では、直近どうしていたかの近況報告だった。それも終わり、通常の会話を楽しめる状態になっていた。
肉料理、そして軽いサラダが出てチーズを食べ終えた時も、完全に寛いでいる。
その話題は、メレンゲを使ったレモンタルトが登場した時、エリダヌスが口にした。
「アンブローズ公爵令嬢」
「はい」
「以前、どんな願いも叶えてくれると、約束しましたよね」
「!」
ここでこの話が出ると思わず、改めてシャキーンと背筋を伸ばすことになる。
何をリクエストされるのだろう。


















