23話:推しを襲ったりしません。
満足? ぐっすり眠れる?
そんなわけがない!
ゲームでは好感度がUPするまでやり込むことができた。
攻略失敗はないゲームだった。
だがここに来て、推しにヒロインではない意中の女性がいることが判明。
これは正直、ショックなこと!
とはいえ。
幼い頃の短い出会いをのぞき、推しにとって私の印象は、最悪だったと思う。
出自を持ち出し、脅すようにして潜伏生活と証人捜しに協力させたのだ。
いくら推しが気に入っていた頃の私に戻れたとしても、印象最悪からは、そう簡単には脱することができないだろう。そしてここは乙女ゲームの世界だけど、私はヒロインではない。攻略対象をゲームのように振り向かせるなんて……無理なこと。
脅すことはできた。でも「私を好きになってください!」なんて言えるわけがない。
ゆえに。
推しに想い人がいて、恋愛アドバイスをして、勝手に私が失恋することになっても……仕方ないと思う。こうなる運命だったんだ。
「はあ……」
つい大きな声でため息をついてしまった時。
ふわりと優しく抱きしめられ、アクアの香りに包まれる。
こ、これは……。
心臓が爆発しそうだが、推し……エリダヌスは何も言わない。
ということは。
寝惚けているというか、寝ていて、何となく抱き枕的に私を抱き寄せてしまったのだろう……。
だって今朝だってそうだった。
気づいたら向き合って寝ていたのだ。
つまりここに余計な感情は介在していない。
三カ月。
エリダヌスの休暇は三カ月あると言ったが、この騒動は明日で解決する。
そうなったらこんな風に推しである彼に抱きしめられることは……ない。
それならば。
推しが片想いしている令嬢には申し訳ないと思う。
でも今だけは。
襲ったりしません。
寝顔にキスなんてしないので、許してください。
こみ上げるのは嬉しさと悲しさ。
相反する感情の中、私は目をつむった。
◇
翌朝。
緊張して眠れないと思ったが、眠れた。
それは多分、勝手に失恋して涙を流した結果だ。
泣いた後、なぜ眠くなるのか。
調べてみたことがある。
そもそも泣くという強い感情は、エネルギーを消耗するという。かつ泣くことで溜まっていた感情を発露できる。それは一種のストレス解消になり、緊張状態が緩和されるわけだ。さらに体温にも変化がある。泣くことで体温は上昇し、その状態が落ち着けば、体温が下がるのだ。お風呂に入っても体温が下がったところで眠くなるのと同じ原理が、泣いた後に起きている。さらには泣くことで、ストレス物質も排出されるのだから……。
眠くなって当然だった。
ということでグッスリ眠り、目が覚めたのは……。
ひんやりした濡れタオルが瞼に置かれたから。
驚いてタオルをずらし、目を開けようとして、腫れぼったいことに気付く。
「そのまましばらく目をつむっていてください。準備ができたら声をかけます。それにしても一体、どんな怖い夢を見たのですか?」
エリダヌスの言葉に「実は団長に失恋して、泣き過ぎてしまいました」とは言えるわけもなく。「……ありがとうございます」とそのままタオルを戻し、目を閉じる。
推しの優しさに再度、泣きそうになった。
でもこれ以上腫れるのは問題だ。
何か別のことを……!
「!」
視界が閉ざされると、聴覚が敏感になるのだろうか。
エリダヌスとマルシクの会話がぼんやり聞こえ、二人とも身支度を整えているのが分かる。
何気ない二人の会話を聞き、この二人が会話するのも、今日が最後かしらと思う。
公爵邸に戻ったら、両親はビックリするだろうな。
私の姿を見たら。
今日も男装する予定だし、まさか髪を……と。
でも理由を聞いたら納得してくれるはずだ。
扉のノックの音がする。
「「おはようございます~」」
ラサとラナだ。
朝食の時間!
私も着替えないと!
起き上がると、セレストブルーのセットアップを着て、例の銀髪ロングのかつらを着用したエリダヌスがベッドに座り、私を見ていた。
これにはドキッとする。
「準備したら声をかけると言ったのに」
そう言うとエリダヌスは腕を伸ばし、私の手の平に自身の手の平を重ね、ぎゅっと指を絡める。ドキッとした瞬間、その整った顔が私に近づき「!」と驚き、そのままぽすっとベッドに沈み込む。
「朝食は寝間着のままで構わないです。瞼の腫れ、冷やしてください」
そう言ったエリダヌスの顔がさらに近づくので、思わず目を閉じると……。














