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22話:推しと距離が近いっ!

 ふわりと抱きかかえられ、バスタブに座った状態になった。

 だが、この姿勢、落ち着けるわけがない。

 だって!

 言ってみれば体育座りした状態で、後ろからエリダヌスに、私が抱きしめられるような状況なのだ。


 とはいえエリダヌスは今、私を抱きしめるようなことはしていない。自身の背をバスタブに預けているだけだ。だがしかし。


 とにかく距離が近い!


 もう私は可能な限り背を丸め、小さくなりながら、必死に声をあげる。


「ア、アドバイス、助言、なんでもします! 何かお困りごとがあるのですか!?」


 同じベッドで横になっているより、ドキドキしている気がする。


「そうですね……。とても鈍感で、ひたむき。自らの力で運命を切り拓こうとする令嬢レディが気になって仕方ないのですが、この気持ち、どうしたらいいのでしょう」


 え、まさかの恋バナ!?

 推しから恋愛相談されているの、私!?

 それは……嬉しいような、残念なような。

 というか、相手は!?

 ヒロインが第二王子を攻略した後だから、エリダヌスが誰と恋愛しようと構わないのだろうけど……。とてもモヤモヤする。


 落ち着いて、私。


 ひたむきで自らの力で運命を切り拓こうとしている令嬢レディ……ということは、頑張り屋で性格が良さそうな気がする。一切容姿に触れていないから、きっとエリダヌスは人間性を見て、その女性を好きになったということよね。


 そんな女性に敵いっこないわ。


 違う、そうではなく。


 人として好ましそうだけど、ネックが鈍感なのか。

 鈍感……天然ボケなのかな。その子。

 でも自ら何かしているような女性なら、強いタイプを想像してしまう。

 強い女性は、それはそれでかっこいいけど、隙がないと男性からすると近寄りがたい……と思ったりしない? 少しとぼけているところがあるくらいが、可愛いのでは?


 その点を確認してしまう。


「とても鈍感なところ、ウェリントン団長は見ていて頭に来るのですか? イライラしてしまうとか」


 するとランタンの淡い光に照らされたエリダヌスは、柔和な笑みを浮かべる。


「愛らしいと思いますよ。どうしてここまで鈍感なのだろうと。可愛くて、たまりません」


「馬鹿な子ほど可愛い……という心理ですね。……そんなに好きなんですね、その令嬢レディのことが」


 つい後半、本音を漏らしてしまい、ハッとする。

 だが……。


「ええ、好きですよ。ずっと片想いをして、気持ちを募らせていました」


 衝撃だった。

 ヒロインの攻略対象なのに!

 もしヒロインがエリダヌス攻略をしていたら、どうなっていたの!?

 ゲームクリアできなかったのでは!?


 というか、いいな、その女性。


 そこで気が付く。


 そんなに好きな女性がいるのに、私に脅され、娼館のバスタブで私とこうしているエリダヌス……推しは、可哀そう過ぎる!と。


 でも大丈夫。

 明日にはエリダヌスの三つ目のタウンハウスのメイド長が、彫刻家ラスペルバが待っている初恋の人、セフィナと同一人物なのかが判明する。もしイコールであれば、ラスペルバは保護を受け入れ、彼女と話したいと思うはずだ。


 私の無実を証明できる人を保護できたら、もう逃げ隠れはせず、堂々と「私はここにいます!」と手を上げていいと思う。そして第二王子とヒロイン相手に裁判を起こし、後は争うだけだ。


 つまり明日にはここを出て、公爵邸に戻れるのでは?


 そう思った瞬間。


 私はバスタブから立ち上がり、ひょいと浴槽から出ていた。そして両手を伸ばし、推しの手をとる。


「鈍感なところも含め、好きなのでしたら、それは真実の愛ですよ。間違いなくその令嬢レディとうまく行くと思います。婚約者がいない方なら、告白されればいいではないですか。ウェリントン団長は文武両道で素敵な方です。告白されて断る令嬢レディ……いないと思います。思い出に残るような美味しいレストラン。二人きりになれるボート。舞踏会でダンスを終えて二人だけの時。とにかくムードある時に告白すれば、成功します、絶対に!」


 私のアドバイスを聞いたエリダヌスは一瞬かたまり、でもクスクス笑い「そうですね。ありがとうございます」と言い、私の手の甲にキスをする。


「告白というのは、印象的な演出があった方がいいのですね。よく分かりました。アドバイスいただけて、わたしはスッキリしましたよ。……アンブローズ公爵令嬢は、どうですか? 眠れそうですか」


「はい、私も役目を果たせて満足です。ぐっすり眠ることができそうです」


「それはよかったです」


 そう会話してベッドへ戻ったけれど。


 満足? ぐっすり眠れる?

 そんなわけがない!

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