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21話:推しの意外な姿

「つまりわたしを異性として強烈に意識している……ということですか?」


 「はうっ」と言いそうになり、それは呑み込む。

 こんな姿でその言葉は刺激的。

 敢えて聞くなんて、なんと罪な!

 意識しまくりだから眠れないんです!

 分かっていますよね!


「顔が赤いですよ、アンブローズ公爵令嬢。本当に。君は変わりましたね。まるであの時の君に戻ったようです」


 そう言うとエリダヌスの細い指が私の髪に触れた。

 その指で流すようにして、私の耳へ髪をかける。


「諦めないで。焦っている時ほど、大切なことを見失いがち。自棄にならないで。一度落ち着き、無理はしない。そうすれば絶対に成功するわ」


 エリダヌスの言葉に、心臓がドクンと反応する。


 今の推しの言葉。


 それは私が覚醒してすぐ、絶体絶命の時に思い浮かんだ言葉と一致している。そしてこんな言葉、悪役令嬢メリディアナが口にすることはない……その時はそう思ったが、いろいろあり、この件について深く考えることはなかった。そして今のこの瞬間まで、忘れていた。


 でもこの言葉をエリダヌスが口にしたということは。言葉と共に見えたブロンドで碧眼の美少年は、エリダヌスだったことになる。


 推しの幼少時代だったのか、あれは!


 ゲームでも見たことがない姿を見ることが出来たことに、つい嬉しくなってしまう。


「君と初めて会ったのは、とても珍しい場所でした。騎士団の剣術訓練場。君は護身術を学ぶため、その訓練場に来たと言っていました」


 そうなの!?


 そんな記憶……。でも幼い頃のことだ。

 全部を全部、覚えているわけではない。


 でもメリディアナは乗馬と剣術も嗜んでいたので、騎士団の剣術訓練場に足を運んでいてもおかしくない。でもその事情を知らないエリダヌスからすると、公爵令嬢なのに珍しい場所にいる――になったのだろう。


 その時、エリダヌスがどんな表情をしたのか。


 想像するだけで楽しくなる。


 一方のエリダヌスは静かに昔語りを始める。


「その頃のわたしは、基本の剣術を覚えたものの、そこでスランプ状態だったのです。目指すべき剣術の方向性が、定まっていませんでした。そこで手当たり次第にいろいろと試し、とても中途半端な状態。焦燥感に駆られていました」


 意外。

 推しは完璧なイメージが強く、焦燥感を抱くイメージがなかった。

 いや、でも……。

 覚醒後、知ることになったエリダヌスは、最初こそ、冷たかった。

 でも徐々に彼の感情が見えてきて……。


 多分、私はこれまでのメリディアナとは違っていたから、エリダヌスの態度も変わったのだろう。何度となく推しから「これまでとは違う」と言われているのだから、きっとそうだ。


 様々な感情を見せてくれるエリダヌス。

 ゲーム知識で知る彼とは違い、焦燥感に駆られることも……あったのだろう。


「せっかく公爵家の養子に迎えてもらえたのに。結果を出さないと、残念だと思われてしまう。……孤児院に戻されてしまうと焦っていました」


 推しが自身の出自を認めた……!

 突然、どうしたの!?

 私が脅した時は、結局最後まで認めなかったのに……!


「そんなわたしの心を見透かすように、君から言われた言葉に、驚きました。驚き、でもとても心に響く言葉だったのです。感動したわたしは君に『友達になって欲しい。これからも助言して欲しい』と頼みました。すると君は『私なんかでよければ、いくらでも助言する』と答えてくれたのです。それなのに……」


 私はその約束の後、剣術の訓練を受けていたが、足を滑らせ……。

 そこで私の表情が変わった。

 心配したエリダヌスは、自身の訓練を止め、私に駆け寄ったが、私は別人のようだったと言う。


 思うに、もしかすると。

 私は幼い頃に一度覚醒していたのではないか?

 でも足を滑らせたその時。

 その覚醒した私は再び眠りについてしまった。


「でも今はあの時の君に戻ってくれました。正直。もう二度と人生の羅針盤になるような助言をくれた君には、会えないだろうと思っていたのです。それでも……。君を見かける機会があれば、見守りたい気持ちを抑えられませんでした。例え婚約者ができようとも。卒業記念舞踏会も、久しぶりに君の姿を見られると思い、会場を少しだけ、覗きに行こうとして……」


「え、陛下との謁見の帰り、偶然通りかかったわけでは」


「これでも王立騎士団ルミナスの団長です。暇人ではありません」


「そう、ですよね。えーと……ずっと今の私に会いたかった……何か助言を欲しかったのですか?」


 するとエリダヌスが自身の顔を私に近づけるので、私はバランスを崩し、後ろへ倒れそうになる。でもエリダヌスが支えてくれたので、バスタブに落ちる事態は回避できた。代わりにアクアの香りを認識し、ドキドキが加速する。


「バスタブの縁に座って、公爵令嬢と騎士団の団長が話をしている……。おかしな状況です。せめてこうしましょうか」


 ふわりと抱きかかえられ、そして……。

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