17話:再会を願い……
未亡人マダムと酩酊状態で関係を持ってしまったこと。
それは一夜の過ちだったが、ラスペルバは自分自身を許せなかった。そして淡い恋心を抱いていたセフィナに、顔向けできないと思ってしまう。
以降、セフィナが会いに来てもそれを拒み、一年が経つ。
その間、セフィナは諦めずに手紙をラスペルバに書き続けていた。手紙の最後にはいつも「今も頑張って貯金をしています。また会いに行きますね、あなたのアトリエに」と書かれていた。だがその手紙を読んでも、ラスペルバは返事を書くことができなかった。
未亡人マダムは結局、その年の冬、流行り病で亡くなった。
そしてラスペルバの初めてを自身が奪ったことへのお詫びを込めて、相当な遺産を彼に渡す遺言状を用意していた。亡くなったマダムに子供はいない。ゆえにその遺言状通りとなり、ラスペルバは贅沢さえしなければ、一生暮らせるお金を手に入れることになった。
ここでラスペルバは気持ちに一区切りがつき、セフィナに会うことを決意する。
そこで彼女が行儀見習いをしている貴族の屋敷へ向かった。
直接、これまでの非礼を詫び、自分の素直な気持ちを伝えようと思ったのだが……。
「セフィナというメイドは、もうここにおりませんが」
そう言われてしまったのだ。
地方領の領主の三女。
ということは行儀見習いの期間を終え、帰郷した可能性が高い。
さらにセフィナは美しく、そして年齢的に結婚話が出てもおかしくなかった。
「ラスペルバは、セフィナは親元に戻り、もう誰かと結婚しているかもしれないと、一度は彼女を諦めました。でも諦めきれていないんですよ。そしてその初恋をこじらせた結果。あのアトリエで延々と彼女をモチーフにした彫刻を、一日中彫り続けている。毎日、毎日。そして私には『俺の死後、全ての作品は任せる。売るなり壊すなり、好きにしていい。だが今は、全てそのままにしてくれ。彼女が買いに来てくれるかもしれない。その時、彼女に好きなだけ選んで欲しいから……』なんて、子供みたいなことを言っているんですよ」
画廊のオーナーは大きくため息をつき、マルシクは尋ねる。
「もしやあの場所から頑なに動かないのは、セフィナさんが会いに来るかもしれないと思っているからですか?」
「その通りです。日中はよほどのことがない限り、アトリエから出て来ません。日没後、暗くなるとようやく一階の自室へ向かいますが、それ以外は……」
なるほど。この理由があるから、公爵邸での保護にも同意してくれないんだ。
「そのセフィナという方が、結局どうなったのかは、分かっているのですか?」
すると画廊のオーナーは首を振る。
「ラスペルバは、セフィナの詳しい情報を教えてくれないんですよ。私も考えました。セフィナという女性の消息を調べようと。見つかれば直接会い、このこじれた初恋をどうにかして欲しいと。働く必要がないお金はあるのですが、せっかくの才能が中途半端になっています。彼の作品を欲しいという貴族もいるのに……。死後有名になっても、もう新たな作品は生み出せないじゃないですか。本当にもう、そのセフィナという女性のことは忘れ、前に進んで欲しいものですよ」
「あの、それで結局、セフィナという女性は見つからないのですか?」
遠慮がちに私は質問する。すると画廊のオーナーは頷く。
「この王都には、相当数の貴族の屋敷があります。まずどこの屋敷でメイドをしていたのか。そこから分からないんですよ。どの貴族も自身の屋敷で働く使用人の情報なんて、開示していないですからね。それに使用人の情報を探ると、怪しまれます。スパイと思われるんですよ。貴族も商会運営しているような方も多いので、機密情報を盗もうとしているのではと、敏感なんです」
しかもセフィナが王都でメイドをしていたのは、五十年近く前。
そんな古い情報だと、ますます見つけるのが難しそうだ。
「騎士ということは、貴族にお仕えしているんですよね!? お知り合いでもいいので、もしセフィナという女性について、何か情報があったら、ぜひ教えてください。私の画廊は、この店の三軒隣なんで!」
最後は画廊のオーナーに、マルシクが拝まれて終了だった。
「少なくとも公爵家に、セフィナという名の使用人はいないわ。年齢もかなり高齢でしょう。いたら絶対に覚えているもの」
洋食屋を出て、マルシクと馬車乗り場に向け歩きながら、話を始める。
「そうですね。自分の記憶でも、公爵邸にセフィナという名の使用人に思い当たりません。ただ、王都に貴族は多いですが、行儀見習いで貴族の令嬢令息を受け入れるとなると、伯爵家でも上位の方々。あとは公爵家と侯爵家ぐらいでしょうか。そしてその数は、王都の貴族の頂点ですから、数は絞り込まれます」
「そうよね。しらみつぶしで当たるしかないのかしら」
「もしお茶会でも開ければ、招待した令嬢に世間話のノリで『セフィナという名の使用人を探しているのだけど、ご存知ないかしら?』と聞くこともできるでしょうが……。今は難しいですよね。そうなると……でも屋敷を一軒一軒訪ねるのは……」
しばらくは無言で二人とも考え込むことになる。
そこで私は「あっ!」と気分転換になるものを見つけてしまう。


















