【番外編】願い事~バカンスシーズン(16)~
「マルシクが推測したこと、教えて欲しいわ」
「お嬢様の置手紙を、ウェリントン様に届けました。それを見て動き出したウェリントン様は、こうおっしゃったのです。『偶然が三度重なったら、それは必然ですよ、マルシク』と」
「それはつまり……」
三度も重なる偶然は必然、それすなわち作為的なこと。
仕組まれているということだ。
ルジマール子爵令嬢との出会い。
それは船内の演奏会の会場、ホールだった。
その後のレストランでは隣のテーブルに登場。
さらにオペラでも隣の席だった。
これで三度、さらに四度目でペット探しをするルジマール子爵令嬢にばったり会う。
四度の遭遇、それが仕組まれたということ……?
「ウェリントン様は、ペット探しに何か裏があると感じたようです。スタッフに部屋をもう一度くまなく探すようにと、お願いしました。部屋にいる前提で、小動物が隠れるような場所を探すよう、提案したのです。ベッドやソファの下などの物陰に隠れている可能性を、示唆していました」
そこはもうさすがエリダヌスだった。
「さらにこうも言われていました。『ドミナント男爵令息が、ルジマール子爵令嬢と婚約したのは、意外だったのですよ。彼の同僚である騎士から聞いていたのです。ドミナント男爵令息は、ずっと片想いをしている幼なじみに、間もなくプロポーズするつもりだった。それが突然、ルジマール子爵令嬢と婚約するとなり、驚いた――そう、彼の同僚の騎士は言っていたのですよ』と」
表向きは、舞踏会での出会いをきっかけに恋に落ち、婚約に至ったことになっている。でもそこにもまた作為があるかもしれないと、エリダヌスは感じていたという。
「それらの状況を踏まえ、さらに船尾のデッキから男性が海に飛び込んだと聞くと……ウェリントン様は『これは……風向きが変わりました。嵐が起きるかもしれません。これから何が起きてもマルシク。君はメリディアナのそばにいて、必ず彼女を守ってください。なんとしても、ね。頼みますよ』と言われて……」
エリダヌスはもうこの時、ルジマール子爵令嬢の本性に気付いていたのね。
そして何よりも私を守るようマルシクに命じてくれた……。
推しの気遣いにさらに想いが募る。
「ドミナント様が一人で戻り、ウェリントン様が高波に呑まれたと聞いても、自分は不安になりませんでした。あのウェリントン様が、意図なく浮き輪と救命胴衣の二つを手放すはずがないと。何か意味があってそうしたと思いました」
さらにマルシクはこんなことも言い出す。
「それにサメの話を聞いても、ウェリントン様は生きていると思ったのです」
「そうなの!? でもエリダヌスは武器も持たずに海へ飛び込んだのよ」
「ウェリントン様から聞いていたのです。『この海域はデッドゾーンと呼ばれ、海の生物が少ない。貨物船、客船、漁船が頻繁に行き交うことが原因と言われていますが、真相は不明です』と。つまりサメを含む海洋生物が少ない海域を通過しているのに、サメの大群なんているわけがない。あれはドミナント様が一芝居打っているのではないと思ったのです」
そこで扉がノックされ、エリダヌスが戻って来た。
「エリダヌス!」
抱きつこうとすると、エリダヌスはまさかの待ったをかけた。
「メリディアナ、わたしは着替えをしましたが、入浴はしていません。海水を浴び、タオルで拭いたに過ぎない状態。せっかく入浴したき」
もう有無を言わさず抱きついてしまう。
「メリディアナ……」
「私の願い事、まだ叶えてもらっていませんよね? 今すぐ、私を抱きしめてください。これが私の」
ぎゅっと抱きしめられ、続きを話すことができない。
「君は本当に。わたしを動かすことの重み、ちゃんと理解できていますか?」
答えたいけれど、こんなにぎゅっと抱きしめられては無理!
「メリディアナを抱きしめる――それを願い事にするなんて、愚かすぎます。なぜなら言われなくても、わたしは常に君をこうして抱きしめたいと、思っているのですから」
これは私をメロメロにする言葉だった。
膝から崩れ落ちないよう、私もさらにぎゅっとエリダヌスを抱きしめることになる。
「さて。時間も遅いですが、メリディアナは何が起きているか気になっているでしょう」
エリダヌスが抱きしめる力を弱め、私は推しの胸にぺたりと顔をつけたまま、こくこくと頷く。
「では一緒に入浴をしましょう」「!?」
ガバッと胸から顔をあげると、エリダヌスが口元に笑みを浮かべる。
これはまた私の勘違いだと思ったが、遅い。
「まさか一緒に湯船に入るつもりだったのですか? まだ婚姻前なのに。メリディアナは大胆ですね」
「ウェリントン様、たとえお嬢様が望んでも、応えないでください!」
「ち、違うわよ、マルシク! 私はそんな破廉恥なことは望んでいないわ!」
こうなるといつも通りに戻り、そして。
広いバスルームに丸椅子を置き、私はそこに座る。
そしてシャワーカーテン代わりの布で仕切られ、入浴するエリダヌスと話すことになった。マルシクは落ち着かない様子で、扉の前で待機している。夜も更けており、時短のため、こうなったが……。
一枚布を隔てた向こうに、一糸まとわぬエリダヌスがいると思うと……落ち着かないことはない。なぜなら推しのその姿は完璧過ぎて、芸術作品の域。もはや美術館や博物館に飾られた彫像を眺める気持ちとなり、興奮はしない。むしろ上半身裸とか、中途半端に胸板が見えている方が、エロティックに感じる!
「メリディアナ」
ちゃぽんと音がして、エリダヌスが湯船につかっていることが伝わって来る。
「はい、エリダヌス」
「これから真相を話しますが、まさか見るなら上半身裸か、胸板が少しのぞくぐらいが色っぽい……なんて思っていませんか?」
「な、なんで分かるんですか!?」
「考えていたのですね。かまをかけたのですが」
もう全身が熱くなり、今の私はアツアツのグラタンのような状態だ。
「ルジマール子爵令嬢が白状しましたよ。自身の婚約者であるドミナント男爵令息と、メリディアナ、君を害そうとしたと」
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