【番外編】願い事~バカンスシーズン(14)~
「団長は……つけていた救命胴衣を自分に渡し、浮き輪も持つように言ってくれた。そして救命ボートに乗り込むのも手伝ってくれたんだ。でもその後、少し高めの波が来て……。団長の姿を見失ってしまった」
救命胴衣をつけていない。
浮き輪もない。
そんな状態で高波に飲み込まれ、姿が見えなくなった……。
その事実に、体から力が抜けそうになり、「お嬢様」とマルシクが私の体を支える。
「何やっているのよ! 何でどちらかをウェリントン団長様に持たせなかったの!? あなた自分一人で助かるつもりだったの? 団長様はせっかく助けに来てくれたのよ。浮き輪があれば十分だったのでは!? 何で救命胴衣まで奪っているのよ!」
ルジマール子爵令嬢は、パニックになっているのだろう。エリダヌスが高波に飲まれ、姿を消したことを知って。言っていることが、おかしくなっている。
なぜ、浮き輪と救命胴衣の二つを、ドミナント男爵令息に渡したのか。エリダヌスの真意は分からない。でも間違いなく、エリダヌスから奪ったわけではないと思うのだ。ゆえにルジマール子爵令嬢を止めなければならない。ドミナント男爵令息を責めるのは、お門違いだ。
「落ち着いてください、ルジマール子爵令嬢」
「落ち着く!? 落ち着けるわけがないわ! ウェリントン団長様は、浮き輪も救命胴衣もないのに、高波に呑まれたのよ! しかも夜の海よ! アンブローズ公爵令嬢は、団長様の婚約者ですよね? どうしてそんなに冷静でいられるんですか? 心配ではないのですか?」
この言葉に対し、いろいろ思うことがある。
なぜならエリダヌスの今の状況。
浮き輪も救命胴衣もない。
それはドミナント男爵令息だって、そうだったのだ。
だがその時は、ここまで取り乱すことはなかったのだ、ルジマール子爵令嬢は。
それを思うとこの反応は……。
チラリとドミナント男爵令息を見る。
彼は唇を噛み締め、俯いており、何を考えているか分からない。
ただ、彼は知らないのだ。自身が海に飛び込んだ後、ルジマール子爵令嬢がどんな様子だったのかを。今のようにパニックになったと思っているのだろうか。
実際のところ。
ルジマール子爵令嬢は、自身の婚約者が何も持たずに夜の海へ飛び込んだのに、取り乱すことはなかった。エリダヌスが救助に向かうと知ってから、大騒ぎしたのだ。
ドミナント男爵令息とルジマール子爵令嬢が抱き合った時。
やはり愛し合う二人、心配していたのね、と思った。
でもこの様子だと……。
あの抱擁は、ポーズだったのではと思ってしまう。
「……ダメかもしれません、団長は。実は自分も飛び込んだ後に気がついたのですが、この海域にはどうやらサメがいるようなんです」
ドミナント男爵令息の言葉に、血の気が引きそうになる。
「しかもなんというか……群れでした。沢山の」
既にマルシクに支えられているから、崩れ落ちることはない。
でもあまりにもショックで息苦しくなる。
「あ、あなた、何でサメがいると分かっているのに、自分だけ……探しに行きなさいよ! 今、船員が捜索しているんでしょう! 行きなさいよ、スカル!」
「待ってください」と声を発したつもりだった。でも息苦しく、実際は「待って……ください」と弱々しい声しか出せていない。するとマルシクが私の気持ちを代弁してくれる。
「ドミナント様は、海から引き上げられたばかりです。まずは医師の診察を受けるべきでしょう。それに海の捜索は、慣れている船員に任せた方が」
そこで「パンッ」と音がしたが、一瞬何が起きたのか分からなかった。
「あなた、たかが護衛騎士のくせに生意気よ! というかあなこそ、捜索に加わりなさいよ! 護衛騎士のくせに、ウェリントン団長様のことを守れていないじゃない! 一人だけ服を濡らすことなく、のうのうとデッキにいるなんて! 恥を知りなさい!」
「ソーラ!」
ドミナント男爵令息が、大声でルジマール子爵令嬢の名を呼び、その手を掴んだ。
「謝罪するんだ! 君はこちらの護衛騎士を叱責できる立場ではない。ましてや手を挙げるなんて! 彼はアンブローズ公爵令嬢を護衛しているんだ。勝手なことをするんじゃない!」
「何よ! たかが男爵家の息子のくせに、私に意見をするの!? そもそもあなたは海の藻屑となって消えればよかったのよ! それがのうのうと生き延びて、ウェリントン団長様が命を落とすことになるなんて。こんなの私の計画じゃないっ!」
そこでいきなりルジマール子爵令嬢は絶叫する。
「スカルのせいで、ウェリントン団長様は死んでしまった! どうしてくれるのよ! 死ぬのはあなたのはずだったのに! ついでにこのおっとり公爵令嬢にも消えてもらい、私が団長様と……全部、ダメになったわ! お終いよ! あなたなんかと結婚なんてしないわ。スカル、あなたとの婚約、破棄するわ!」
吐き捨てるように言うと、ルジマール子爵令嬢は手すりに駆け寄り、身を乗り出す。
「ウェリントン団長様、今すぐおそばに参ります! あなたを一人になんかしません! お慕いしています。愛しています。あの世であなたの妻にしてください!」
お読みいただき、ありがとうございます!
更新時間をまたも間違えごめんなさい。
予告更新は控えることにします凹
【お知らせ】
昨年の今頃も「冷やし中華始めました」ならぬ
「新作始めました」と言っていましたが。
はい!今年も新作スタートです☆彡
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~ 』
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実の父親を毒殺したという罪で処刑される主人公。
大好きな父親を殺すはずがない。
真犯人は別にいる――!
そんな主人公に転生した私の運命やいかに!?
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