朝陽が待つ、のは。
彼が乗る飛行機のアナウンスが流れた。
「さて、と、時間だ」
翔が足元のバックを持ち、私を見る。
「亜紀と、高坂さんからの、そういう話しをしていたの?」
すると、彼は少し瞳を泳がせてから、ニコッと笑った。
私が弱い、何も言えなくなってしまう笑顔。
「ん、他イロイロと、ね。亜紀さんは朝陽のこと、よく見ててくれるから助かる。バックに高坂さんがいるのも、安心だね。次、来るときはふたりにも土産もってこないとな」
と、ちらっと後ろに視線を流してボトムのポケットに入れてる携帯端末に触れる。
「朝陽は高坂さんと、なに話してたの」
「イロイロ、よ。翔に頼りなさいとか、最後はフィルタ外して考えなさいって。そしたら、わかることだって、自然に」
翔は、少し驚いた様に瞳を見開いて、ついっと、顎を上げ、亜紀と高坂さんをもういないはずなのに探すように視線を動かした。
そのまま、口元に笑みを浮かべて、瞳をふせて、細くゆっくり息をつくと、不意に私の背に手をまわし、肩を抱いて耳元にささやく。
「例えば、朝陽は年と同じ数の赤いバラをプレゼントされたら、どうする?」
突然、そんなことを言われても、言葉の用意はない。
とっさに口は開いたけれど、やっぱり何も出てこない。
それでも、さっきのミントのタブレットの香りが頬をひんやりとさせて、少し冷静になる。
「わかんない、よっ。どうせ、男っ気ないですから、そんなの」
両手を拳にして彼の体をグイと押す。
翔は私から腕を外し、正面に立つ。
一瞬、瞬きするように瞳をふせてから、見上げた瞳には強い光が走った。
それを追って私も彼から目が離せなくなる。
「いつか、ううん、考えておいて。そのときに、桃缶なんて洒落なくていいように、ね」
「は」
思いもよらない言葉が理解できなくて、息を吐くように間抜けな音みたいな声。
ふっと笑う様な息をついて、翔は瞳をゆるめて柔らかく微笑んだ。
「とりあえず、バースディプレゼント、待ってて」
「あ、うん」
〝待ってて„
翔から何回も言われた言葉。
そのまま、くるりと背を向けて、ボストンバックを肩にかけ搭乗口に向かう。
何か、言わなくちゃと思っても言葉が見つからず、今度は口も開かない。
頭の中をフルスロットルで今日までのことが回転する。
とっくん、とっくんと強い心音が体中に響く。
高坂さんも考えなさいと言ってた。
年と同じ数のバラの花束は、相田さんが恋人から貰ったような、赤いの?
私、貰ったら、どうする? なんて言われなきゃ、考えたことないよ。
でも、誰かから、貰うバラの花束は嬉しい気がする。
〝誰か〟なんて、想像すら、今はできない。
〝いつか„それは、どれくらい先だろう。近い? 遠い?
私がおばあちゃんになる頃かも。それとも何かのお祝い? 記念とか?
色々思いつくのは、照れくさくて嬉しいことばかり。
例えば、もし、翔が私にバラをプレゼントとか?
で、桃缶? ないない。
そのときは、ちゃんと……、なんだろうまだ、はっきりと名前のない気持ちがある。
でも、バースディプレゼントが届くから、今はこれだけは伝えなくちゃ。
「待ってる!」
翔は立ち止まり、肩越しに私を見て、小さくうなずいた。




