朝陽と翔、いつものココロのこと
「いつも一緒に、側にいられなくて、朝陽の寂しくて、置いてきぼりの不安、俺だって、こんなだよ、朝陽が手の届かないとこ、行っちゃうかもって」
見つめる翔の瞳が陰って、少し潤んでるように見えて、慌てて言葉を繋ぐ。
「私が不安にさせること、あったってこと? いつも、話し、おかしいのかな」
「朝陽は、話してくれてると思う。俺が、聞けないだけだ。その先をいつも気がついても、怖くて」
「その先が、怖い?」
「焦ってた。朝陽が男の話しをするようになって、興味を持ち始めてたから」
「普通なこと、じゃない」
そんなこと、この年で遅いくらいだ。
翔は、私の手を離し、椅子に座りなおして正面を見た。
「母さんに理想の男なんて、わかんないって言ったって? でも、俺はハッキリわかることあるよ」
「私の理想、わかるっていうの? 翔が」
「察すること、勘がいい奴、だ。自分と同じような、ね」
翔は、前髪をかき上げて、そのまま、頭を抱えるようにうつむいた。
「朝陽が、よく気がついて鋭いことを勘違いしてた。多く語らなくても、何気に気がついてくれることを待ってる。だから、他人の事も敏感になるんだ。気づいてくれたか、気にしてね」
膝の上で、拳を握り、口元をぎゅっと閉めた。
何かを言いたい。けど、出てこない。
「ごめん。朝陽は俺や母さんとモニタ越しでしか会えないから、ほんの少しの違和感や変化に敏感になってる。必死で気づこうとしてるんだ、いつからか」
拳に力が入って、かすかに体が震えてる。
翔が言っていることは、すべて、だから。
モニタの四角の中、日本で一緒に過ごしてる間、一挙一動を見逃さないように追う。
なにかあった? 私に言えないようなことはない?
どこ見てる? 私、ヘンなとこないよね?
途中で表情が変わると不安だし、会話が止まると怖い。
私、不愉快な話ししてないよね? 今までの話しで、ダメなところあったんだろうか、って。
いつも、こんなことばかり考えて、モニタを見てる。
だって、私、ひとりなんだもの。