翔の帰国
それを壊してくれたのは、私のバックの中の携帯端末の着信。
ホッとして慌てて端末を出して見る。亜紀からだ。
すがるように通話にする。
「もしもし」
「あー、おはよう。昨日はありがとね。あのさ、弟さんいつまでいるの?」
「え? あ、そうね」
なんでか、聞くのを忘れていたこと。
翔に聞くと今日、午後の便で、帰ると言う。
「今日、帰るって、午後」
「あ? なんだぁ、んー」
「どうかした?」
「わかった。またね」
訳も言わず、一方的に締めて通話を切られた。何なんだろう? とじっと手のひらの端末を見る。
「何だったの、亜紀さん?」
「亜紀だけど、なんかわかんない」
端末をバックにしまい、ふっと息を吐く。
「も、帰るのね」
翔はベットの上で着ているTシャツを脱ぎ、サイドテーブルに置いてあったシャツに着替えている。
なんとなく、彼に背を向けて、ベットに座った。
「ん、学校あるから、……そっちもだろ」
お母さんの事、ちゃんと伝えに来ただけだったんだ。
日本にわざわざ来なくても伝えるツールは他にもあったのに。
私ひとりで悩んだり、悲しませないようにずっと家族だよって伝えるために、翔がひとりでも来てくれた。
「お母さんに言うわ、おめでとうって私から。当分、直接、会えなくなっちゃうね」
「だね、子供生まれたら、しばらくは一緒に日本に来れないから。俺だけ、来るよ」
日本に四人で住んでいたのは賃貸だったから母と彼はここに帰ってくる家がない。
だから、アメリカに行きたくない私とは年に何回も会えない。
あちらの長期の休みくらいしか来れないから。会えないのは、私のせいでもある。
座っているベットがきしんで、スプリングが後ろに傾いた。
それに合わせて、私の体も動くと背中に固い感触、首に腕が巻きついてきて耳元に熱い息がかかる。




