バラの花束と朝陽と翔
花言葉に花言葉で返す。彼女らしいといえば、らしいな。
意地を張る彼女に素直な彼、ホント、お似合いだ。
「バラの花束かぁ。ん、綺麗だったなー」
指先で、バラをちょいとつつく。翔も、私を真似るように、指先でちょん。
そして、私の方を見て、
「貰ったことある? これ以外で」
「ないわよ」
即答すると、翔は、ふっと、笑いを含んだ、ため息のような息を出す。
「朝陽も欲しい? 年の数の赤いバラ」
「あんだけあると結構、重そうだなとか高いんだよなーとかどこに置こうかとか……、欲しい? んー」
首をひねって話す私を翔は眉間にシワをよせ、瞳を薄くさせて眺める。
「朝陽……ん、ま、いいや」
その表情は、このまえのお母さんが見せた、私を気の毒そうに見てたのに似てる。
こういう表情も、ふたりは似てるんだな。
「なによ、翔こそ、誰かに贈ったことあるの? バラ、花束とか? 赤いの」
「ないよ。まだ」
〝まだ〟なんて、わざわざ、付け足されると、もう予定があるみたいに聞こえるよ?
なんて言えない。
答えが怖い問いはしない。
置いてきぼりは、怖いから。
「貰ったこと、は」
彼は、はっと一笑いした。
「……それはカンベンだなー。でも、そうかぁ、その可能性もあるか」
「そうね、私だって、想いを込めてバラを贈ることがあるかもしれない。いつか」
言葉では、口には出せない想いを何か別の方法で伝えること。
「いつか、ね。それは、どういう想いを込めるって思ってんの、朝陽」
「え? そりゃあ、好きとかプロポーズ的な? あい……」
続けての〝……してる〟が言えなかった。
翔が瞳を細めて、ゆっくりと微笑んだから。
それを見たら、なぜか、急に照れくさくなって、口が閉じてしまった。
「そこは、わかってるんだ」
「そりゃ、ま、ね」
声が、だんだん小さくなってしまう。
話題を変えたくて、キッチンを見る。
そして、あっと思い出して、
「そうだ、チョコレート。待ってて」




