そのクリスマスの日のこと 朝陽
クリスマスの朝、バラを抱えた彼女。脇に桃缶、挟んで。
さすがに気になった。
余計なことだけど。
「どんな、イブだったんですか」
相田さんは何かを振り払うように、ぶんぶんと音がしそうなくらいの勢いで首を振る。
「お互い仕事で、夜、食事でもって。そしたら、昨日の朝、届いたの。なんだと思う?」
「わかりません、そんなん」
わかるのは、相田さんにとって、予想外の物。
たぶん、私も想像がつかないんだろう。
そもそも、イブに会う予定のカップルが、その日に相手の家に何を贈ってるんだか。
「胡蝶蘭、ピンクの」
意外、過ぎてとっさに言葉が出ないから、確認の意味で、復唱してみる。
「こ、ちょーらん」
そりゃ、その場で手渡しっていうわけには、いかないなって。
違う! うわぁ、やっぱ、あのひと、無神経な人だぁ、一生懸命、考えたんだろうけど。
私の反応を見て、彼女はうなずいて、バラをぎゅっと抱きしめた。
「一応、意味あることだと思って、調べたわよ。花言葉」
なるほど、そういうことか。赤いバラ以外で、伝えたいということ。
まだ、バラ苦手なんだ、こんなときまで。
「嬉しいことでしたか」
「そうね」
ちらっと、彼女の手の内のバラを見る。
「なら、よかったですね。で、バラも貰ったんですね」
また、彼女は首を振り、キッと睨むように正面を向いた。
「いくらバラが苦手でもこういう時は私が好きなバラでしょ! 赤の。花言葉だって、変わんないのに。年の数とまでは言わないけど!」
そりゃ、そうだ。
私は肯定の意味でうなずいて、相田さんに聞こえないように、薄くため息をついた。
「って言ったからなんですね、そのバラ」
相田さんは、うつむいて、花束にくちづけた。
「バラくれなきゃ、返事しないって付け足した」
「ご希望通り、届きましたね」
「今日なんて、朝イチの飛行機でどこぞのクリスマスコンサートでピアノ弾くんだって」
昨日は、夜しか会えなくて、今日は、早朝から出かけると。
「仕事、なら、仕方ないですね」
彼女は、首をこくんと折って、うなずいて、ふぅと短いため息。
「バラを届けてくれて、返事したら、嬉しそうに手を振りながら、すぐ行っちゃうような、ひと」
彼女は抱えたバラを持ち上げて、見上げる。
それは眼鏡をかけた童顔で細身で背が高い彼の瞳の位置くらいかも。
無神経だし、頼りないけど、ひとの想いに敏感な優しいひと。
「そんな、変なひと、なのよ」
「でも、素直なひと、ですよ」
「そう、いい恋人、なのよ」
そして、花束をその恋人を抱くかのように、胸に収めた。
「いい恋人」というセリフがいつか使いたかったのです。そういうシーンが出てきたから、さっそく。




