バラの花束と桃缶 答え合わせ
「ここさ、門も住人が鍵で開けるから、それ以外の人って結局、門も入れないよね」
「うん」
「まず、彼女はバラを外に落としていないとなると、門の外から投げ入れられた可能性がある。その夜は雪が降ってたんだから、たぶん、二五日の朝だろな。で、全部投げたところで彼女に連絡した。プロポーズだと思う」
「バラは 門の外から、投げ込まれたんだ。そうかぁ」
「で、桃缶は部屋から落とされた」
「桃缶は相田さんが落としたんだ」
ここでやっと、翔は顔から手を離し、満足そうな表情をして、首をかしげる私の方に向いた。
「桃缶、とプロポーズってリンクするの」
「イブにふたりに何があったかわからないけど、なんとなく、彼女が意地はっている感じだね。バラの花束を男が抱えるのって結構、勇気がいるよ。赤いバラなんて、特に、ね」
「それの持つ意味が一目瞭然だもんね」
「渡せなかったのか、イブになんかあって必要になったか、彼女が直接受け取らない、受け取れない事情があったんだろうね」
翔から窓の方に視線を流して、問う。
「花束ごと、投げられなかったのかな。撒くなんて」
「朝陽も見ただろ、結構なカサだぜ? いくら下が雪でも、ちょっと、あの門の中に放るのは超えられなかった場合も含めて、花にダメージがありそうじゃないかな」
納得して、うなずく。
一本、一本、確実に綺麗なまま、贈るため。
ん? ちょっと、待て。
「いや、そもそも、手渡しすればいいのに」
「最悪、彼女が部屋にいないことだってあるし、寒い雪の中、彼女に出てきてもらうのが忍びないと思ったか、OKくれるか、わからない不安、だね。連絡のツールは、きっと、電話じゃなくて、メールだったろうね」
直接、連絡しないで、いつ見つけてもいいように、か。たぶん、そうだろうな。
〝不安″は、前日に叱られてるから、ね。
彼女との会話を浮かべながら、うんうん、と何回もうなずいた。
「あと、結構、朝早かったんじゃないか? その日はそこしか時間が取れなくて、すでに時間の余裕が無い状況だったんじゃないかな」
はっとして、思わず一回、手を叩いた。
あの日、相田さんがバラを抱えながら、言っていたことを思い出した。
「で、桃缶は?」
翔はくすっ笑った。
「うん、普通に言葉で返事すればいいのに、桃缶って。素直に返事したくなかったんだろうな。こっちの方が、きわどいけど。彼女、聡い人だね」
自分だけ納得して、じらして答えをくれない。
イラッとして翔から瞳をそらすと頬に彼の声があたる。
「自分の身の回りに、らしいのが桃缶しかなかったんだよ。バラの花言葉に対するね」
花言葉? 桃缶、ではなく! 桃のか。
きわどいって言ったよね。どんな花言葉なの?
「あとで調べてみればいい。結婚するんだろう? その彼氏、さっきのピアノのひとだろ」
うん、とうなずく。
「そう。でもさ、なんで、花言葉なんてくわしいの?」
翔はおっと、とでもいうように、瞳を見開いた。
そしてすぐに表情を戻し、ほんのりと微笑んだ。
優しい表情、さっきの不機嫌が嘘のようだ。
「ちょっと調べものしてて、偶然にね」
わかったというには説明が足りないと思う。
納得いかない風に少し頬をふくらませたら、彼は仕方がないといった感じで肩をすくめた。
「課題というか研究? で桃を調べた時に、なんとなく、だよ」
「最初から、そう言えばいいのに」
そんな理由ならしつこく聞かなかったのにと今度はすねた顔をする。
とたんに翔は力が入っていない弱々しい表情になった。
「そうだね」
責めてしまったようで、バツが悪くて、彼から視線をドライフラワーに移す。




