バラの花束と桃缶
心が折れそうになるのを踏ん張るように声を出す。
「あのね、クリスマスの朝ね、窓の外から、ボンって音がしたの。何かが落ちたような。で窓の下を見たら、前の晩に雪が降ったのね、ここの庭にバラがたくさん広がっていたの。空が白みがかったばかりの中で真っ白な雪の上に赤いバラ、綺麗だった」
「バラが庭に落ちてたの?」
うん、とうなずいて、
「それで、なんとなくバラの数を数えてたら、その中に丸い穴があって、そういえば、さっき、何か落ちた音がしたなと思って、外に出たの」
その穴にあったのは桃の缶詰。
なぜ、桃缶。
「そしたら、隣の部屋のあの相田さんがバラを拾いに来てて、それを手伝ったの。で、おすそ分けって言ってくれたの」
〝あげる〟ではなくて〝おすそ分け〟今、思えば、この方がしっくりくる。
彼女はもうすぐ結婚する。
彼からのプレゼントのバラだったから、幸せのおすそ分け。
「あ、桃缶も彼女が拾って部屋に戻っていったっけ。なんでバラや桃缶、落としたのかな」
ふいに翔は顔を手で覆い、はーっと大きく息を吐き、ゴシゴシと顔をこする。
もしかして、と思い、
「時差ボケ、しんどいの?」
彼は顔を覆ったまま、首を振る。
「いや、桃……うん。で、バラ何本あったの」
「え? あぁ、ちょうど三十だったかな」
「相田さん、それぐらいの年なんだ。キリがいいね。バラが三十、大きい花束だったろうね」
「そう、だった。あれ?」
全部、拾うと両手で抱えて結構な大きさの花束になった。
彼女は嬉しそうだったけど、思いのほか、驚いていたのだ。
ということは、あのとき、あの花束を初めて手にしたことになる。
「相田さんがバラを庭に落としたんじゃない、わ」
うん、というように、彼は一回うなずいた。




