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綾なす燈花が歩む途  作者: トカゲの尻尾
第四章 解放の鬨
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「不思議かな?」

 そんな俺の考えを呼んだかのように、リアムはそう口にする。何を、とは聞くまでも無い。セリアを助けたことを俺が訝しんでいることについてだろう。

「いや、別にそうでもないさ」

 しかし、その疑問を長らく持ち続けるのであれば、おそらく俺はこんな作戦を立てたりは出来なかっただろう。リアムの思惑を読み取り、その先を看破し、唇を強く噛む。奴がここを訪れた理由、そこにあるのは、必ずしもセリアを助けるためだけではない。それが第一前提であると言うことは間違いないだろうが、一方でそれを為すと言うことは、奴にとっても賭けに出たことと同義だ。最も確実なリーシャの追撃を諦め、勝利条件の方向性を変更してみせた。

 巡る思考の中で奴が導き出した勝利条件の悪辣さを考え、それを希望に変えて仲間を救いに来た奴を思い、俺は分からなくなる。何故、それほど仲間想いの奴がこんな思考を取る。こんな人の感情を利用するような勝利の論理を作り上げる。そこには何か、俺が持ち得ない確かな強さと異質さがあった。

「そうか。なら、答え合わせはいらないね?」

 その瞬間、リアムが雰囲気をがらりと変えた。その手に魔力が集中し、シュトラーフェを顕現する。それを見やりながら、俺はポケットから取り出したそれに魔力を込めて叫ぶ。一週間前に先輩から受け取ったことでその存在を知り、雄輝を経由して集めてもらった代物。魔力を込めることで事前に魔力を込めていた者と遠距離でも意思疎通を可能とする術具。先輩から聞いた名前は、『木魂響』と言う。そこに魔力を込めることで事前に魔力を込めていたリーシャの意思と繋ぐ。

『ここ……そっか、わたし、一人なんだ……。やっぱり、一人は寂しいな……。お兄さん、無事かな』

「リーシャ!」

 聞こえてくるリーシャの意思を気にかけている暇もなく、俺は大声で呼びかける。その声にリーシャは驚いたようではあったが、すぐに俺だと気づいたのか、慌てたような声が返ってきた。

『ひゃ、ひゃい、お兄さん! な、ほ、本当に繋がってる。やった、お兄さんの声が聞こえた――ってあぁ!? こ、こんなこと思ってたら筒抜けに、あわわわ』

「リーシャ、よく聞け。プラン変更だ。君はそのまま、『逃げろ』」

『…………! あ、あの、それって……』

「ああ、リアムがこっちに来た。セリアもいる今、多少誤差は生じるが、計画を早める。君は雄輝と一緒に……いや、リアムのことが事前に伝わって来なかった以上、雄輝を頼ることは危険か。リーシャ、事前に雄輝に行き先は叩き込んでもらったな? 一人でいけるな?」

 返事は、すぐには返ってこなかった。思考の返事が来ないと言うことは、そのまま思考が止まっていることを意味する。まさか、敵のもう一人――ヴァンがそちらへ向かったのか。いや、それなら時間的に見て、雄輝の連絡が来ていないことが説明できない。リアムが俺たちの方に来ることを監視システムであいつは捉えていたはずだ。その上で伝えられなかったと言うことは、ヴァンによる襲撃を受けたと考えるのが妥当だろう。であれば、雄輝がすでにやられたとしても、まだリーシャの下へ行くには時間が掛かるはずだ。

 そう俺が危惧していると、ようやくリーシャが答えた。

『お兄さんは……戦ってるんですか?』

「これから、な」

 目の前の敵を見る。そこには、両手に同じ形態のシュトラーフェを生み出したリアムがいる。その手にあるそれは、現代科学が生み出した殺傷兵器。秒速四百メートルを超え、遠方の敵を穿つことで剣や槍の支配する戦場の在り方を変えた武器――拳銃だ。この距離でははっきりとは分からないが、銃の中でも大口径の殺傷力の高い代物であり、左右で黒と白に色分けされたそれは、男心をくすぐる格好良さと同時、洗練された殺傷兵器の威容を見せつけている。

 あれが、リアムのシュトラーフェ。その容姿に反してずいぶんと物騒な物を出してくる。

『お兄さん……わたし、わたし……ッ!』

「いいか、リーシャ。自分の命を最優先しろ。この状況でリアムが何を狙ってるか、もう言っておいたから分かるな? 俺たちの勝利条件は――リーシャが生き残って、安全に暮らせることなんだ」

『嘘です! お、お兄さんが、そんな曖昧なこと――』

 全く、格好付けた言葉ぐらいは素直に受け取ってほしいものだ。だが、俺はリーシャのその言葉を聞き続けることが出来なかった。不意に視線の先にいるリアムが後方に向けて両手の銃を構え、そこから弾丸が射出されたことで轟音が鳴り響いたからだ。

 耳を(つんざ)く砲火の音に眉を顰めながら、リアムの意図を探るために“識者の叡智(アルヴィスナハイト)”に目を落とす。だが、それこそが俺の失敗だった。視線を落とした先に、こちらへ強く踏み抜く右足が見えた。

 おい……嘘だろ。五メートル以上はリアムと離れてたんだぞ。

 俺がリアムから目を話したのは、一秒にも満たない時間だ。そんな中で、何をどうすればこれほど早く接近することが出来る。

「君のシュトラーフェ、変わってるね」

 そんな中で響いたのは、リアムのどこか愉しむような口ぶりだった。

 もはや眼前にあるリアムの攻撃を避けるすべも無ければ、“識者の叡智”を盾にして受けるような反射速度も無い。ただ俺に出来ることは身を固め、衝撃に備えることだった。だが、衝撃はいつまで経ってもやってこない。代わりに訪れたのは、頼もしいあの時以来となるタッグを組んだパートナーの声。

「柊くん、彼の力を教えて!!」

 炎が瞬き、それによってリアムを牽制して俺への攻撃を防ぎながら、白銀の剣を握ったカティさんが俺の前へと飛び出してくる。リアムの動きにいち早く気づき、俺を守るために備えてくれていたのだ。

 全く、男の俺より頼りになるってどうよ。

 とは思うが、そんなことはもはや周知の事実だ。一々悔しがっていたら話にならない。その代わり、俺に出来ることで最善を尽くす。

 手元にある本型のそれを見る。捲ったページに記述されているのは、かつての魔法使いが用いた暗号文字。それを事細かに紐解きながら、対象の魔力の流れを感知し、その発生源となるリアムの力の詳細を()る。それこそが俺のハイリヒトゥム、“識者の叡智”の力だ。あらゆる魔術、シュトラーフェ、ハイリヒトゥムの別なく何であれ俺に開示するこの力は、リアムの持つ銃のシュトラーフェの詳細も教えてくれる。

 リアム・ガルシア、奴のシュトラーフェの力は――

「弾丸に乗せた引力と斥力の自由な操作。それが僕のシュトラーフェ、愛する女性の名を冠する『セリア』の能力だよ」

 俺が答えを言うよりも先に、自らリアムはネタ晴らしをする。その声の方向、炎によって覆われた視界の先には、銃を構えるリアムの姿が見える。その姿に悪寒を覚え、俺は咄嗟にカティさんに叫んだ。

「カティさん、射線から離れろ!!」

 その言葉に、カティさんは迷うことなく動いてくれる。それほどの信頼を勝ち得ていたことに驚きつつ、同時に俺が安堵するのも束の間、それは起こった。

 膨大な熱量を魔力でコーティングし、それなりの防御力を誇るカティさんの炎の壁を、一瞬にして弾丸が突き抜けたのだ。そのことに驚きながら、カティさんの兄であるエドガーのシュトラーフェを思い出し、その力と比較することでその威力を知る。今の弾丸は、威力だけなら厚さ数十センチの壁すらも易々と貫通する威力を秘めている考えになる。

 いや、それより何より、俺は“識者の叡智”に描かれた情報を読み取り、リアムの起こした現象に驚いた。クイックドロウ、いわゆる早撃ちと呼ばれるそれは、一発の銃声の合間に数発の弾丸を撃ちだすとされる。リアムはそれを今、体現してみせたのだが、ならば何故、銃弾が一発しか飛んでこなかったのか。簡単な話だ。奴は同一射線上に二つの弾丸を乗せ、そこに瞬間的に斥力を発生させることで最初の弾丸を斥力反発によって加速させて打ち出した。ゆえに加速装置として逆方向の力を受けた弾丸は勢いを失い、地に落ちた。

「リプルシオン・ブレット。僕の仲間が名前をつけてくれたんだけど、中々のものだとは思わないかい?」

 急激に加速された弾丸が生み出した衝撃によって炎が吹き散らされ、それによって空いた炎の壁の穴から、リアムが顔を覗かせる。ふざけた言動とは裏腹に、その実力が本物であることは疑いようも無い。

 地面に身を伏せたカティさんと視線を合わせる。その瞳に宿る強い色、笑みさえ浮かべた様子にどこか懐かしいものを覚えながら、俺は恐れる己の心を叱咤し、彼女に応じるように不恰好に笑ってみせた。

 全く、カティさんはやはり根っからの戦闘脳と言うわけだ。忘れていたが、元々クラティア・コロッセオに憧れたような女の子だ。手応え十分な相手を目の前にして、戦意は上々と言ったところだろう。

「柊くん、指示をくれるかしら? 私一人で勝てるかどうか、武器の相性としても少し不安かも」

「分かってる。けど、俺もそう簡単に手助けできないと思ってくれ。相手が遠距離武器を使う以上、エドガーの時みたいにはいかない」

 エドガーの時は、俺が後ろで極力控えることで指示を出していたが、先の振る舞いを見る限り、リアムに前後の隙は無い。俺に接近したことを思えば、近距離で戦うすべを持ち合わせつつ、遠距離でも効果を発揮する銃で戦うのだろう。それにあの圧倒的な加速。今だからこそ分かるが、あれもまた、リアムの持つシュトラーフェの能力に起因している。弾丸を後方に撃ちだすことで、銃内部の弾丸と反発させ、自身の身体を押しのけたのだろう。

 俺たちが話し合っている間、リアムとセリアは何かを話し合っているようだった。必死でありながらもどこか不甲斐なさそうに俯くセリアに、リアムは何事かを言ってその肩を叩き、ワゴン車の影に隠れるように促している。つまり、リアムは俺たち二人を一人で相手取ろうと言うことか。どうせ俺は戦力にならない。であれば、相手の戦力が少しでも減ることは望ましかった。しかし問題なのは、あの車でセリアが逃げてしまわないかと言うこと。そうなれば途端に俺たちは不利になる

 だから――

「カティさん!!」

「ええ、これだけ広ければ、何の躊躇も無く使える――」

 この天上寺テーマパークの入場者ゲートの前は、広大な敷地となっている。およそ四方百メートルに渡って駐車用のスペースが設けられ、そこまで全てが天上寺テーマパークの敷地だ。となれば、現在、そこには誰もおらず、カティさんがそれを使うことに何の心配も要らない。精々心配することがあるとすれば、彼らが死なないかと言う点。それは俺もカティさんも少しだけ憂慮しているが、この瞬間においてはそれを無視させてもらう。敵の命を気に掛ける余り、リーシャを守れなかったなんて間抜けは、それこそ死んだほうがマシだ。

次話、カティさんのあれが解放されます。

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