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綾なす燈花が歩む途  作者: トカゲの尻尾
第四章 解放の鬨
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 今、モニターには、このテーマパークにいる全ての人間が映し出されている。ニュウスエリアへ向かうリーシャ、サウスエリアとウエストエリアに辿り着き、そこから大きく迂回するようにして入場者ゲートへ秘密裏に向かう零余とカティ、そして、そうとは知らずにリーシャへ向かうヴァンと――リアム。その姿を見つめ、雄輝は目を閉じ、過去を思い出す。

 あの男に言われ、どことも知れない四方を山々に覆われた訓練施設に連れて行かれたあの日。そこで出会ったのは、宝石のように目を輝かせた誰よりも希望に満ちる少年だった。そこで彼は数ヶ月を少年と共に過ごし、技を競い、術を磨いた。厳しくも辛い訓練の中、彼との日々だけが救いだったと言っていい。そして同時に、雄輝は彼らの背負う運命を知ってしまった。天上寺と言う家に纏わる深い闇と、その穴倉に潜む何者かのことも。

 思い出の風景から頭を振って抜け出し、雄輝は入場者ゲートへ向かう零余を目で追いかける。

「分断した敵を監視カメラの映像で確認した後、その分かれ方次第でその後の展開は変わる。零余が予想していた分かれ方は三通り。一つ、リアム、セリア、ヴァンの三人一組で行動すること。二つ、リアム、ヴァンがリーシャを追い、セリアが車内で待機か、あるいは別行動で身を隠すこと。三つ、セリアにリアムかヴァンを付け、残り一人がリーシャを追う」

 一つ一つ指を折って順に確認していきながら、その可能性の大小も零余が同様に話していたことを思い出す。

「そもそもが彼らの目には今、リーシャとは異なる複数の目標が見えている。おそらく、リーシャの姿は正確に捉えているだろうが、急に地図上に現れた目標とその意味を判断し、大勢で動くことによる一点撃破を警戒するはず――ゆえに二人一組、分かれて行動する可能性が最も高い」

 急に地図上に点が現れれば、当然、ルプスの思考はこうなる――どれが本物のリーシャであるか。しかし、これはすでに解が示されている。リーシャの姿をセリアが常に追いかけている以上、撹乱することは難しい。一方で零余は、セリアの能力から正確な地図を得られないだろうことも予測した上でこの術具による目標の増大を行い、ルプスの思考の方向性を変えた。

 このテーマパークを訪れた時点で、零余はルプスに「打って出る」と言う闘争の意思を叩きつけている。何か策を講じ、その上でルプスを直接倒すだろうと言う思考を植えつけたのだ。その上で追跡者を撹乱するような真似をして見せれば、当然、敵は罠を警戒する。分かり易い目標の存在は囮と言う発想となり、その囮と言う発想から敵の一点撃破と言う思考へ至らせる。それを警戒した敵は、仲間を分断して行動するようになる。一人が罠にかかっても他が対処できるようにそれぞれのルートを行き、集まらないことで集中攻撃を回避する。これが零余の第一段階。

 しかし、零余の目的はあくまで敵の分断であり、リーシャを囮にしている事実はあるが、彼女を守る者は誰もいない。そう、今、リーシャは一人でニュウスエリアの迷路に入り込み、敵が迫る恐怖と戦っているのだ。

(零余も思い切ったことをする。普通、守るべき対象を放置してしまうなんて思わない)

 物事には、勝利条件と敗北条件と言うものが存在する。囲碁、将棋、チェスなどなど、それらには絶対的な勝つための条件と対比し、負ける条件も同じく存在するのは誰しもが知る事実だ。それは当然、日常の中にも等しく存在している。

 零余の中に特筆すべき才があるとすれば、その頭脳――それを支えているこの勝利条件の明確化する能力にある。リーシャの話を聞き、雄輝の教えた情報を踏まえた零余が即座にセリアの撃破を最優先目標へ置き、そのためにこの天上寺テーマパークを舞台に置いたことからもそれは分かる。彼にとってリーシャを救うと言うことは、そのままそれが勝利条件とは成りえない。そんな曖昧とした条件は端から目標として定めておらず、彼はただ一点、セリアの排除だけを見据えていた。

 だが、と雄輝は思う。それはまた、彼も同じなのだ。

 リアム・ガルシア。彼もまた、勝利条件と敗北条件の明確化に特化した知恵者であることに相違ない。

(零余は今、リーシャを完全な一人にすることで自由に行動する時間を獲得している。しかしそれは、同時に彼の敗北条件を敵に曝け出していることに他ならない)

 零余の勝利条件がセリアの排除とするなら、ルプスの勝利条件はリーシャだ。しかし、零余の敗北条件がリーシャの喪失だとしても、ルプスの敗北条件は、セリアの喪失ではない。敵の敗北条件は、その先、セリアが討たれることによって訪れるリーシャの行方を見失うことだ。

 零余は今、大きな賭けに出ている。自身の弱点を眼前に曝け出し、同時に勝利条件に王手をかけている。雄輝も出来ることならリーシャを救いに行ってやりたいところだが、ここで監視映像を確認し、零余と密に連絡を取る必要がある以上、それは難しい。ここで見た情報によって、零余は行動を大幅に変更する必要もあるのだ。

「しかしリアム……もしや零余の読みまで含め、その上で行動しているのかな?」

 雄輝には、リアムがどこまで零余と読み比べているのかが分からない。零余の行動に合わせたようにまんまとセリアをワゴン車に放置し、ヴァンとも別れて行動している。リアムは、リーシャの下へ向かい、ヴァンはノースエリアを経由して回り込むようにニュウスエリアへ――

(なっ、違う!? これは――)

 監視カメラに映った映像に慌て、雄輝が携帯を取り出して零余に連絡を入れようとした時、雄輝の身体が凄まじい衝撃によって崩れ落ちた。

 地面を揺さぶるほどの激しい震動と、それに続く轟音。この雄輝のいる地下全体を震わせるようなその中で、突如として天井部分が大きく崩落していく。それは一瞬にして室内を埋め尽くし、自身へ迫る大量の瓦礫の中、雄輝は先ほど見たばかりの光景を思い出していた。

(リアムが方向転換して、桁外れの速度で零余たちの方へ向かいだした――いや、それよりもヴァンだ。あの男、ニュウスエリアではなく、あの距離から僕のいるこのアトラクションそのものに攻撃を!!)

 身体能力を高め、咄嗟に『水』と『地』の特性を利用して壁を作れたことは、幼少期に重ねた経験の成し得た業だろう。

 自身に舞い散る大質量の中、ぽっかりと開いたその唯一の空間に身を寄せていた雄輝は、鳴り響く轟音が静まる頃になって同様の魔術で瓦礫を振り払い、外に飛び出した。

 そこに広がるのは、異常な光景だった。山を思わせるアトラクションの半分ほどが崩落し、それによって飛び散った残骸が周囲一体にばら撒かれている。雄輝が飛び出したその場所も同様であり、それ以上に常軌を逸しているのは、ノースエリアからそれなりの距離が離れていたあの場所から放った一撃でこれだけの破壊を起こしたと言う事実。

「ルプス最強のクラティア……ヴァン……!」

 猛然と迫る巨体を見据え、雄輝は頬を伝い落ちる汗を拭う。表情は緊張に彩られ、携帯を握る手がかすかに震えていた。これから対峙する相手は、生半可な実力者ではない。雄輝にもある程度の実戦経験とそれに伴う自信はあるが、それでも過去、何度もなすすべなく打ち倒された記憶が蘇る。

(きっと……あの頃からさらに強くなっているんだろうね)

 これから始まる激闘の予感に唇を舐め、雄輝は一つ息を吸い込むと、戦いの構えを取る。そして数秒と経たず、敵は現れた。その巨躯が雄輝と一定の距離を置いて停止し、その勢いを殺すために踏み抜いた地面が捲れ、陥没する。その圧巻の膂力もさることながら、雄輝は改めてその巨大さを実感し、身震いする。雄輝も男の中では高い方だと自負しているが、それでもこの男はそれを上回る。身長二百三センチ、体重百十キロ。その身を筋肉の鎧で覆ったその姿は、スポーツ選手を思わせるがっしりとした体格であり、身に纏う防護服越しからでもその威容は伝わってくる。毛の一本も見当たらないスキンヘッドは夕暮れに染まり始めた太陽の光を浴びて輝き、その全身はアフリカ系を思わせる黒さを放っていた。

 一先ず本編で登場する色を出し尽くしたので、和色紹介終了です。

 また新しい色が出てくれば紹介したいと思います。

 何やら雄輝の過去も見え始めてきましたね。

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