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綾なす燈花が歩む途  作者: トカゲの尻尾
第八章 叡智の蔵より出でし至宝
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 その様を眺め、東堂は己に反省を課す。油断はしていなかった。だが、舐めていたのも事実だ。目の前で零余が開闢に至った瞬間、歓喜に打ち震え、求めるように相手の攻撃を迎え撃ってしまった。その特性や力も見極めず、ポシュシオンが最も相手の攻撃に弱い状態で戦いへ挑んでしまったのだ。

(僕のミスだな)

 淡々とそう内心で呟き、立ち所に対処法を導き出す。東堂が取ったのは、実に単純な手段だ。煙の状態で固めていた魔力結合を解き、元の煙へと戻す。それでもアルの持つジェラルドに触れれば分断の効果は免れないが、人間体のポシュシオンに比べてその効果は薄くなる。アルがジェラルドを振るうたびに、その効果が発揮されるより先に彼女の魔力に押しのけられ、ポシュシオンの煙は周囲へと逃れていく。これでは、効率良く応身(おうじん)を攻撃することは難しくなる。

 しかし、零余はこの展開を読んでいた。東堂の行動を先読みし、それに応じた策を取る。

 アルは、数度ジェラルドを振るうと、零余の指示も無く後ろに飛んだ。二人の間に言葉は必要とせず、その意思に従い、行動する。

「――トラヴィアータ」

 次の瞬間、怒涛の剣の雨が降り注いだ。それは、エドガーの放つ断罪の雨とはまるで違う。膨大な魔力は、無尽蔵に剣の形のままトラヴィアータを東堂の上空に生み出し、問答無用で振り下ろす。その発生、発動の全ては東堂に感知のできないものだった。だが、東堂を覆うようにして溢れ出した煙の防御壁がその攻撃を弾き飛ばしてしまう。相手の防御力に関係なく魔力を分断できるジェラルドに比べると、やはりトラヴィアータでは単純な威力に欠ける。さらに言えば、ポシュシオンとはそれだけの密度を誇る応身のようだ。

 それを確認し、零余はさらにトラヴィアータを放つ。そうしている間は、東堂は一歩も動くことが出来ない。守りに徹し、その攻撃に耐えるしかなかった。その隙に零余はミュールの中でジッとしている四人の下へ向かう。

「椿、恋、カティさん、エドガー」

 それぞれの名を呼び、真剣な面持ちで向かい合う。椿は嬉しそうに、恋は困惑したように、カティは目を瞬かせ、エドガーは変わらない済ました表情を浮かべ、四者四様の態度で応じた。そんな彼ら彼女らを見回し、零余はこの部屋の出入り口の方を指差し、告げる。

「皆、今の内に逃げてくれ。ここから、どれだけ激しい戦いになるか分からない。ここにいると危険だ」

 その言葉に真っ先に反応したのは、兄を心配する椿だ。途端にその瞳は不安げに揺れ、気遣わしげに零余を見つめる。だが、声に出してその言葉を否定しないのは、零余の戦う意思を尊重してのことだろう。それに何より、彼女の中にも少なからず戦う兄を見ていたいと言う思いもある。その相反する感情がぶつかり合い、結果何かを言うことが出来なかった。

 そんな椿とは異なり、恋は眉を吊り上げ、零余に挑むように立ち上がる。その目からは、闘争の意思が如実に見て取れた。

「ざっけんな、お前一人に任せられるかよ。この件にお前ら巻き込んだのはアタシだろーが」

 それは、恋なりに責任を感じてのことなのだろう。その恋を抑えるようにカティが立ち上がってその身体を制し、しばし迷った末に言葉を紡ぐ。

「柊くん……その、全然状況を理解できてないんだけど……大丈夫なの?」

 カティには、零余に起こった異変も、開闢と言う力も理解できていなかった。あの時、エドガーが必殺の間合いへと入り込んだとき、突如として時間が停滞し始め、その中で東堂の詠うような荘厳な声だけが響いた。その直後、彼のポシュシオンが変質を始め、それは一瞬の間に巨大な人の姿を取り始めると、エドガーを椿たちのいる場所にまで吹き飛ばし、ミュールを叩き割ってその先にいるカティ諸共叩き潰した。そのため、その圧倒的な力に対する畏怖だけが残り、どうしてそれほどの力を獲得するに至ったか、まるで理解できていない。何故、零余がそれほどの力を解放したのかも分からない。だからこそ、何を言うことも出来ず、ただそう確認することしか出来なかった。

 そんなカティの心情を知らない零余は、ただ彼女が自身を心配してくれているだけだと想い、強く頷く。それからエドガーに目を向け、彼にある物を放り渡した。それは、先ほどアルが創ってみせたのと同じ、メスの形をしたシュトラーフェ、アスクレーピオスだ。

「これはなんだ?」

「一種の回復剤と思ってくれ。俺の魔力を分けて創った。数人分しかないが、身体に刺すことでどんな大怪我でも一瞬で治すことが出来る」

 エドガーはアスクレーピオスを受け取ると、興味深げに眺めた後、懐に仕舞い込んだ。他の三人に渡すことも考えたが、この中で最も生き残る確率の高いのがエドガーだと考え、零余はそれを渡したのだ。万が一、自分でメスを刺せなくなる状況を想定してのことだった。

 エドガーがそれを受け取ったのを確認し、その高い肩に手を伸ばす。

「エドガー、椿を――皆を頼む。他の失踪者もだ。あんたが無事に、地上へ送り届けてくれ」

「ああ」

 零余の真摯な頼みに、エドガーは茶化すことなく頷いた。それから右手を振り上げる仕草を取る。その意味するところに気づいた零余は、同じように右手を上げ、力強く二人の手を合わせた。固く握り締め、離してから拳同士を打ち付ける。

「必ず勝て、零余」

「あ――ったく、盛り上がるような真似してんじゃねーよ」

 笑って、零余は拳を離す。次に椿を視線を向けると、その何とも言えない表情にどう接するかを迷い、思い出したようにポケットからそれを取り出す。彼が先輩に託された、口頭に頼らずに意思を託す何か。それを見つめ、椿に渡す。

「これは……?」

「俺にも使い方が分からないけど、もしかしたら何かの役に立つかもしれない。持って行け」

「あの、でも……いえ、分かりました。兄様、勝ちますよね?」

 不安を宿す声音に、零余はさも当然と言わんばかりに答えを返す。

「当たり前だ」

 そう言うと、最後にこの場に残る意思を持ち続ける恋に向かい合う。恋は強い瞳を向けて零余を見つめており、一歩も引く気が無いことは明らかだ。だが、零余と視線をぶつけ合わせると、根負けしたように目を伏せる。苛立ったように咥えていたキャンディーを噛み砕くと、ぷっと吹き出して棒を零余にぶち当てた。

「なにすんだよ?」

 笑って非難する零余に、恋は拗ねたように何も言わなかった。その代わりしっかりと自分の飛ばした棒を広い、ティッシュに包んでポケットに仕舞い込む。結局、そのまま言葉を交わすことは無く、最後にもう一度だけ視線を交し合うだけだったが、その瞳が若干、零余を心配するように揺れるのを眺め見て、彼は確信する。

(やっぱり、あいつは友達想いの良い奴だな)

 そのことを再確認し、巻き込まれたと言う思いの何もかもが完全に溶けて消えていく。端から気にしていなかったことだが、それでも椿のことで多少の責を預けていた部分もあるのだろう。それが今、完全に消え去った。

 急いで部屋を出て行く四人を見送り、彼らが完全に出て行ったところで零余はアルを止める。一連の行動の中、怒涛の剣の嵐を降り注ぎ続けていたアルは一っ飛びで零余の下まで舞い戻ると、主を守るように前に立ち、前方の敵を見据えた。

「仲間を逃がしたか。まぁ、いいさ。どうせ僕の興味は君に向いている。それで零余くん、もう一度尋ねてもいいかな?」

 ポシュシオンの煙を吹き払い、その中から狂気の瞳を覗かせ、東堂が問いかける。零余には枯れ木のように見えたその姿も、今や生命力を取り戻した不動の大木だ。研究と言う確かな大地に根を張り、その養分を吸い取って力に変える彼は、目の前に現れた最高の研究素体を逃がしはしない。

「君が、天魔なのかな?」

「ああ、そうだ」

 零余の答えには、一切の迷いが無かった。その言葉で、堂々と宣言して見せたのだ。自分こそ、三年前に多くの人間を殺し、町を破壊せしめた最悪の化け物だと。

 それを受け、東堂は声を上げて笑う。愉悦と喜悦で表情を歪に歪ませ、何が嬉しいのか両手を広げて天を仰ぐ。

「素晴らしい」

 狂ったような見世物の締めは、そんな心からの賛辞だった。

 戦いの中で訪れた僅かな沈黙。それは数秒と経たずに戦禍の巻き起こす騒音によって包まれ、激化していく戦いの流れに伴い、さらにその音量を増していく。

 床が削れ、壁が吹き飛び、天井に傷が走る。両者の応身による激突は、その余波で部屋全体に常軌を逸した大破壊を撒き散らしていく。先ほどの戦いが人間的思考による攻防であるとすれば、今の戦いはまるで違う。ただ純然たる武を振るい、破壊力もそのままに叩き付ける。

 開闢域に立つ者同士の戦いに、小細工は通用しない。圧巻の力を振るい、それで以って敵を打ち崩す。角を持つ獣が互いの角をただぶつけ合うように、応身の持てる力の全てを振るい、全霊をぶつけ合うのだ。その結果として起こるのは、その威力に耐え切れない周辺の空間の破壊だ。強過ぎる応身の力に、戦うフィールドの方が保てなくなるのである。

 だからこそ、零余は四人を先に逃がした。こんな力のぶつかり合いが続けば、いくら椿のミュールであったとしても耐えられなかっただろうことは想像に難くなかったからだ。

 激突を繰り返す応身同士を見据えながら、零余は淡々と分析を行っていく。

(力は互角……だが、ジェラルドを警戒してポシュシオンの実体を極力解いてるせいで、有効打を与え切れていない。その代わり、東堂にも所々隙がある)

 東堂は、アルの四方八方からの三次元的な攻撃に対し、部分的にポシュシオンを生み出すことで対抗している。だが、それではとても間に合わず、躱し切れなかった一撃がその身体に傷をつけていく。そんな中、東堂もポシュシオンを巧みに駆使してアルの動きを拘束しようと煙を伸ばし、いくつかの反撃を成功させている。開闢域に達した者にとって応身とは、自身の分身だ。その身体がいくら傷つこうがさしたるダメージは無いが、万が一消失させられれば、それに伴って多大な心的疲労を負うことになる。

「アル!」

「はい、マスター」

 このままでは埒が明かないと判断し、零余は再びアルを手元に引き寄せた。同時に右手を振るって宙に浮かぶ書冊を捲り、そこに書かれたある一項目を読み上げる。

「卑賤無き我が御名において、ここに果てる武士(もののふ)へ武勲を与えん」

 それは、かつてクラティアと呼ばれる以前に魔法使いが使っていた魔術。シュトラーフェによる魔力の放出を利用した簡易的な魔術の発動ではなく、詠唱を用いることによって奇跡を起こす古の力。応身にとってそれは、普通の人間よりも相性が良く、発揮される力はかつての魔法使いが放った魔術とは比べ物にならないほどの威力を誇る。

「勇猛なる獅子たちよ、栄華極めし我が国土の礎となれ」

 続けるようにアルが詠い、その二つで以って魔術は完成する。

 二人は、声を揃え、同時にその術を説く。

「「――一輝当千」」 

 次の瞬間、アルの身体を纏っていた魔力がさらに爆発的に増幅される。一輝当千、その術による効果だ。その力は、一時的に対象の魔力を強化し、身体能力を一気に引き上げる。普段、零余や他のクラティアたちが使っている身体強化とはわけが違う。あれは、身体の内部から魔力を流して身体能力を強化する技だが、この術は内外に魔力で身体を覆うことによって身体能力を上げる。反面、身体への負担が大きいと言うデメリットはあるが、応身であるアルには関係の無いことだった。

 床を一歩進むごとに陥没させ、音速を超えた速度でアルは東堂へと迫る。そんなアルに対し、さすがに東堂もポシュシオンを引かせてばかりはいられなかった。すぐに煙を実体化させ、向かい打たせる。

 両者は激突し、音速で叩きつけられたアルの拳がポシュシオンの身体を僅かに吹き飛ばす。その余波で床は捲れ、突き抜けた衝撃波がそれを巻き上げる。だが、ポシュシオン本体の傷は浅い。その尋常ならざる硬さに感心しながら、零余はさらにアルに攻撃を続けさせる。東堂もまた、ポシュシオンを受身には回さず、結果として互いの拳が連続で叩きつけられた。数と質、速度で上回るアルに対し、ポシュシオンは一発一発の威力が桁外れに大きい。両者の力は拮抗し、決着の瞬間は未だ見えない。そんな中、不意にポシュシオンの身体が崩れた。そこを好機と捉え、アルがさらに一歩踏み込んで拳を叩き込む。

 その光景を眺め、東堂がニヤリと笑んだ。それを裏付けるように崩れていたポシュシオンの身体が大きく球を描くようにアルの身体を包み込み、一気に閉じ込めてしまう。

「――ジェラルド」

 咄嗟に零余はアルの手元にジェラルドを呼ぶが、わずかに遅かった。ジェラルドが顕現されるよりも早く、アルの身体にポシュシオンが纏わりつき、その身動きを封じてしまう。その煙としての性質を色濃く持つポシュシオンだからこそ出来る芸当に、零余は大きく舌打ちする。ポシュシオンの性質は理解していたにもかかわらず、接近戦で攻め過ぎたのだ。

「おや、捕まってしまったね。さて、どうする。零余くん?」

 楽しげに笑う東堂に、しかし零余もまた笑う。確かに接近戦で攻め過ぎ、その身体を封じられたのは大きい。だが、同時にそれは、東堂にとっても零余にチャンスを与えたのと同義だ。あの煙は、全てがポシュシオンによるもの。そんなものの体内にアルを入れると言うことがどう言うことか、まだ東堂は気づいていない。

 零余は、右手で再度ページを捲り、その項目を読み上げる。そこに詠唱はなく、ただ名を読み上げるだけでよかった。

 言葉無き零余の指示に従い、アルが押さえられた手を天井へと向ける。それを確認し、零余はその名を叫んだ。

「広域殲滅魔砲――グラン・カノン!」

 光が収束する。膨大な白光する魔力がアルの掲げた掌を中心に集まり始め、それは一つの陣を描くと、陣は二つ、三つと分かれ始め、都合五つの陣がアルの手首辺りまでも覆い始める。その中で一番最初に現れた掌大の陣が大きさを増し、それは強引にポシュシオンを押しのけ、さらにアルの全身を覆うほどにまで拡大する。これら一連の現象を、正しく認識できた者は皆無だろう。発生から拡大までは一秒と経たずに終わり、そこに集まった膨大な魔力が五つの特性に従い、一気に開放された。

 放たれたのは、常軌を逸した光の奔流。それは一瞬にしてポシュシオンの胴体部から頭頂部にかけてまで貫いたばかりか、その先にある天井を穿ち、奔り抜けたそれが地上にまで穴を開く。それは崩れる瓦礫の一つも残さず、一瞬にして天井を消滅させ、そこから月明かりの光に包まれた夜の空へと立ち昇っていった。

 その光景に遅れ、衝撃によって地下全体が大震動に見舞われる。そんな中、ポシュシオンを振り払ったアルは、ゆっくりと地に降り立ち、眼前に立つ東堂を見据える。

「は、はは……なんだ、今のは……?」

 茫然自失といった様子で乾いた笑いを漏らす東堂に向け、アルが右手を構える。そこへ再度魔力が集中し始める頃になって、ようやく東堂は自身に迫る脅威を自覚した。咄嗟に残ったポシュシオンの煙を掻き集め、それを上方へ噴出することで空へ舞う。それに遅れ、アルが振り下ろしたとラヴィアータの一撃が地面を深く抉った。

「驚いたよ、零余くん! グラン・カノン、軍の兵器まで持ち出してくるとはね!」

「東堂ッ!!」

 グラン・カノンによって開いた大穴から空へと飛び出す東堂を追いかけ、零余も飛行の魔術で空へ駆け上がる。同時にアルもそれに続き、長い地上までの道のりを駆け抜けた先には、見慣れたコロッセオの闘技場があった。

(闘技場の真下にあったのか)

 闘技場に降り立つ零余に対して、東堂は空へ浮かんだままだ。地下から伸びる煙の上に立ち、楽しげに地上を睥睨している。その東堂の下に地下から香壺(こうご)が舞い上がり、それが音を立てて崩壊した。割れた壺から溢れ出すのは、ポシュシオンの本体そのもの。

 その姿を目で追いかけ、零余は気づく。このコロッセオには、カティの“爆轟の奏歌”によって破壊された箇所を修復している作業員で溢れている。東堂のポシュシオンは、零余を無視し、唐突な出来事に呆然と立ち尽くす彼らを狙っているのだ。

「こ、の……ッ! ――ミュール!!」

 アルの両手が広げられ、すぐに胸元で拍手を大きく打つ。その瞬間、コロッセオで作業に励んでいた作業員たちの身体が不可視の圧力に押し出され、同時にそれら不可視の力が半球を描くように展開し、ポシュシオンの進行を押し止めた。だが、その代わりのようにポシュシオンが進行方向を変え、零余へ向かって押し迫る。

 これこそ、東堂の狙いだった。見ず知らずの一般人を狙えば、零余であれば必ず守りに入るだろうという予測の下、開いた大穴から外へ抜け出し、この闘技場を目指したのだ。先の戦闘から、東堂には零余の開闢が如何な能力を持つのかは、ある程度の目星がついていた。ある意味、その本と言う特殊な形式のハイリヒトゥムから見ても肯ける代物だ。

(“叡智の蔵より(アルヴィスナハイト)()でし至宝(アルマハト)”……なるほど、他者のシュトラーフェを操るだけでなく、あらゆる魔術を高度に洗練化した上で扱うことができるのか)

 そのための本であり、データの収集機関。一度零余が“識者の叡智(アルヴィスナハイト)”で読み込んだ内容は、そのデータを集積され、開闢時に自由自在に扱うことが出来る。それこそ、柊零余――通称、天魔と称されたクラティアの持つ力であり、百を優に超えるクラティアを打ち倒した正体だ。

 それを確信し、東堂は勝つための道筋を描き出す。今、零余は東堂に誘われるようにミュールを展開し、その応身であるアルも動ける状態にない。少しでも力を緩めればポシュシオンが無関係の人間を襲う以上、彼らにそれを防ぐ術は無かった。

(しかし、一つ気になることもある。ゆえに、このポシュシオンの煙の中で心の内を暴かせてもらおうか)

 迫る煙の波を眼前にしながら、零余は抵抗することも無く、その流れに呑まれた。

 二人を包んだポシュシオンが空中へと球状になって浮かび上がり、その中にいる零余が徐々に意識を失うにつれ、アルの姿も徐々にだが姿を失っていく。やがて、零余が完全に瞼を閉じた時、アルが消滅したように消えさり、凄惨な戦いの後にはただ静寂だけが残った。

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