7.光のNTRガングロ男
ある日、家の扉がバァンと開く。
「お、お前は……タツヤ!?おまえも異世界転移してたのか?!」
扉を粉砕する勢いで飛び込んできたやつれた男。 よく見れば、病院で「退院したら一緒にマック行こうな!」と約束した、あのぽっちゃりして優しかった親切な友人のタツヤだった。
「ユウマ氏……ユウマ氏ぃぃぃぃぃっ!!」
タツヤは床に膝をつき、ゴーグルをかけた俺の足元にしがみついて号泣した。
「拙者、あの後トラックに跳ねられて異世界転移したでござる! ここでは定番の冒険者として、女神のような恋人『セリーナたん』とささやかな幸せを掴むはずだったのに……っ!」
「タツヤ……」
「先週! 街の権力者である悪徳貴族『フシダラン子爵』が拙者の家に押し込んできて! 金と権力でセリーナたんを強引に連れ去り、自分の愛人にしやがったのでござるうぅぅぅ!!」
「な、なんだと……!?」
俺の隣でエプロン姿のマグダレナさんが「まあ……なんて酷い貴族様でしょう……」と胸痛め、お茶を差し出している。
タツヤは血走った目で俺を見上げた。
「ギルドで『どこからともなく現れた凄腕の冒険者「ユウマ」が、クズ男から女を奪い取って改心(?)させた』という噂を聞き、もしやと思って来てみれば……やはりユウマ氏だったとは! 金なら拙者の生涯の蓄えをすべて差し出す! 頼む……っ!」
タツヤは床に額を擦り付け、絞り出すような声で叫んだ。
「貴殿のその……『NTR能力』で! 拙者のセリーナたんを奪った悪党フシダラン子爵を……制裁してくだされ!!」
「………………」
俺は静かにメカニック(?)ゴーグルをずらし、鋭い眼光をタツヤに向けた。 首のシルバーチェーンがジャラリと重い音を立てる。
(タツヤ……お前、病室で動けなかった俺にいつもアニメの雑誌を持ってきてくれたよな。退院したら秋葉原に行こうって、笑い合ってくれたよな……)
そんな親切な友達の夢と幸せを踏みにじり、鬱ルートに叩き落としたクズ貴族。
絶対に許さねえ。
「金なんて要らねえよ、タツヤ」
俺はハイネックの胸元をバッと開き、ガングロの胸板を露出させた。
『ピコン♪ 友人の復讐依頼を検知!【光のNTR男】覚醒モード突入だベー! 対象【フシダラン子爵】への特大補正が乗るベー!』
「俺のNTR能力はな……こういう『調子に乗った権力者のクズ』を地獄に叩き落とすためにあるんだよ。任せろ、お前の『セリーナたん』……俺が完璧に寝取って(救出して)みせる!!」
「ユウマ氏ぃぃぃぃ!!(歓喜の涙)」
「ちょっと待ってユウマ様!? 救出するのはいいですけど、寝取った後そのセリーナちゃんはどうするおつもりですの!?」 マグダレナさんが焦って割り込んでくる。
「大丈夫だマグダレナさん! 今回は『友人の依頼』だからな! 寝取った後はタツヤとしっかり純愛し直してもらう!! 俺はただの『悪徳貴族の鼻を明かす噛ませ犬(極上ヤンキー風)』に徹する!!」
「(それ絶対にまた属性が上書きされてユウマ氏に惚れるパターンでは……?)」マグダレナが引きつった顔で呟いたが、俺の耳には届いていなかった。
「行くぞタツヤ! 今夜、フシダラン子爵の館へ乗り込みだぁぁぁぁっ!!」
こうして、かつての親友の「嫁」を取り戻すため、光のNTR男・ユウマの悪徳貴族成敗編が幕を開けたのだった!
襲撃の英気を養うべくマグダレナの手料理で腹ごしらえをしていたユウマはふと浮かんだ疑問を口にした。
「……なあタツヤ。お前が復讐したいってのはわかった。だが一つ確認していいか?」
「なんでござる?」
ユウマはメカニックゴーグルを指で押し上げ、真剣な面持ちで尋ねた。
「お前の嫁って……その、多分もう処女じゃないよな? それはいいのか?」
相手は街の権力者の悪徳貴族だ。連れていかれて一週間……悲しいかな、NTRものの文脈で言えばもう「そういうこと」になっている可能性は限りなく高い。オタクにとってそこは重大なデッドラインのはずだ。
だが、タツヤは涙を拭い、力強い眼光で言い放った。
「拙者、母性系熟女ヒロイン派でござる! 膜の有無など些事!!」
「そっちかよ!!」
ユウマは間髪入れずにツッコんだ。
「お前高校生だろ! どんだけ包容力に飢えてたんだよ! だからセリーナ『たん』なのに『熟女』なんだな! 納得いったわ!」
「セリーナたんの母性溢れる包み込み(物理)こそ至高! 中古だろうが何だろうが、彼女の愛の価値は1ミリも変わらんのでござる!」
(まあ……本人が納得してるなら一番いいか。中古だの何だのでグチグチ悩まれるより、よっぽど潔くて男らしいわ)
ユウマは呆れつつも、ふと疑問に思っていたことを口にした。
「そういえば……お前、異世界転移のチートは何もらったんだよ? トラック跳ねられ組なら、なんか凄いの持ってんだろ?」
「大魔道でござる」
「かっけえなおい! 火力全振りってやつか! だったら悪党とか一発で吹っ飛ばせよ! お前の魔法で子爵家ごとドカンとやれば一発解決だろ!」
「それが……火力だけでは、権力の前では無力だったのでござる……っ(泣)」
タツヤは再び床に突伏し、惨めそうに床を拳で叩いた。
「拙者、怒りに任せて子爵の館に乗り込もうとしたでござるよ! だが……あやつ、セリーナたんを盾にして『魔法を撃ってみろ、この女が最初に弾け飛ぶぞ』とゲス笑い! さらに『私を殺せばこの街の治安維持組織が総出でお前を国家犯罪者として指名手配する』と……っ!」
「あー……」
俺は痛いほど納得した。
そうだ。RPGの主人公みたいな単細胞なら「知るかー!」で吹き飛ばすかもしれないが、ユウマやタツヤはもともと病室で悶々と過ごしていた「ごく普通のオタク高校生」だ。
人質を取られたり、社会的に追い詰められたりするリアルな圧力には、純粋な攻撃力(火力)だけじゃ対抗できない。
「大魔法じゃ、人質を傷つけずに救出することはできん……。法律や権力という『人としてのルール』を守ろうとすればするほど、悪党の汚い手口には勝てないのでござる……っ!」
「なるほどな……」
俺はガングロの胸板をポンと叩き、ジャラッと首のシルバーチェーンを鳴らした。
「だからこそ、俺の出番ってわけだ」
「ユウマ氏……!」
「物理的な破壊(魔法)じゃダメでも、相手の『男としてのプライド』と『所有権(女)』を内側からぐちゃぐちゃにして崩壊させるのが……俺の【NTR男能力】だからな」
ルール無用のクズ貴族には、ルール無用の精神攻撃(NTR)をお見舞いしてやる。
『ピコン♪ 【大魔道士の絶望】を糧に、NTR男レベルの特効補正が乗ったベー! 子爵のメンタルを粉砕する準備は万全だベー!』
「よし、作戦決定だタツヤ! お前は外で大魔法の待機(見せしめの威嚇用)をしておけ。俺が子爵の館に忍び込んで(堂々と正門からオラついて入って)、セリーナたんを完璧に『寝取って』連れ戻してやる!」
「頼んだでござる、ユウマ氏ぃぃぃっ! セリーナたんの包容力を拙者に取り戻してくれぇぇぇっ!!」
「任せろ! 光のNTR男、出陣だ!!」
(※なお、『寝取られたセリーナさんがユウマにガチ惚れしてタツヤのもとに戻らなくなるリスク』がプンプン匂っているが、ユウマはまだその恐怖に気づいていないのであった――)




