5.ダメンズマニアの女
俺の熱意が伝わったのか、エルくんは「ふーん、匂いは最悪だけど、意外と根は良い奴じゃん」と、少しだけ見直してくれたようだった。
そして、ルーカス君と達一緒に街のカフェ(俺はテラス席の風下)で話を聞くことになったのだが――
「【NTRガングロ男能力】……何とも厄介で危険な能力だね……だからあの時エリアーヌが変になったんだ……」
「そうだ!」
エルくんは何か思いついたように話始める。
「じゃあユウマ。君に助けてほしい人がいるんだ。ボクの友達のマグダレナを……彼女、すっごい綺麗な人なんだけど……筋金入りのダメンズ好き体質でさ。今は歓楽街で娼婦をしながら、ろくでもない屑男に全財産を貢いでるんだよ。ボクやルーカスがいくら『あんな奴とは別れろ!』って説得しても、全然なしのつぶてで……」
「そうなんだ……! マグダレナさんは『彼には私がいなきゃダメなの』の一点張りで、騙されてることにすら気づいてないんだ……!」
ルーカスも悔しそうに拳を握りしめている。
なるほど。典型的な「ヒモのクズ男にハマって人生を狂わせている不幸な女性」のパターンだ。
普通なら警察なりギルドの介入なりが必要な案件だが、本人の意思で貢いでいるとなると手出しが難しい。
しかし――俺の脳内で、今まで呪いだとしか思っていなかった【NTR男能力】のピースが、ガチッと音を立てて噛み合った。
「……待てよ?」
俺の能力は何だ?
『パートナー持ちの女性からの好感度を強制的に奪い取る能力』だ。
そして相手の男は?
『女性に集かる最低最悪のクズヒモ男』。
俺は勢いよく立ち上がった!
首のシルバーチェーンがジャラッと鳴り、フードの奥の瞳が怪しい光を放つ。
「やるよ! 俺、引き受ける!!」
「えっ!? 本当かいユウマ!?」
ルーカスが目を輝かせる。
「あぁ! 今まで俺はこの能力を『人を不幸にする呪い』だと思って逃げ回っていた……。だけど、クズ男に囚われた哀れな女性を救い出すためなら……この悪魔の力、いくらでも使ってやる!!」
俺は空に向かって拳を突き上げた。
「見てろよクズ野郎……! 俺は今日から、悪を挫き、不幸な乙女をクズ男の手から寝取って救い出す――『光のNTR男』になるっっ!!」
「光の……NTR男……??」
エルくんとクリスが、見たこともない珍妙な単語に盛大に首を傾げた。
「行くぞルーカスくん! エルくん! 歓楽街へ殴り込みだ!!」
「お、おう!!」
「絶対そのネーミングセンスはおかしいと思うけど……まあ、頼んだよ!!」
こうして、己の意思で初めて【NTRガングロ男能力】を行使することを決意したユウマ。
「純愛派」の少年が歩む、絶対に間違っているがどこか正しい異世界救済の道が、今ここに幕を開けたのだった―!
「ここが……マグダレナさんのいる店か」
歓楽街の路地裏。薄暗い一角にある酒場兼娼館の前に、俺たちはやってきていた。
店内の奥からは、粗暴な男の大声と、それをなだめる女性の悲痛な声が聞こえてくる。
「おいマグダレナァ! 今日の稼ぎはこれだけかよ!? 舐めてんのかオラッ!」
「ご、ごめんなさいレイモンド……今日は体調が悪くて、あまりお客さんが取れなくて……」
「知るかバカ野郎! 俺の賭場のツケはどうすんだよ! いいか、明日の朝までにあと金貨3枚作ってこい!!」
見ると、店内では酒瓶を片手に胸ぐらを掴む暴力男――レイモンドと、頬を腫らしながら涙を浮かべて必死に謝る、くすんだ金髪の女性・マグダレナさんの姿があった。
「ひどい……! またマグダレナさんを叩いて……!」
エル君が憤慨し、腰の剣に手をかける。
「待つんだ、エル君」
俺はエルの肩を制した。
「暴力で解決しても、マグダレナさんの心があのクズに依存してる限り、また同じことの繰り返しになる。ここは――俺の出番だ」
俺は深々と被っていたフードを脱ぎ捨てる。
喉元まで閉めていたハイネックのボタンを三つ目までバッと開け、首のシルバーチェーンをジャラリと鳴らす。
夕闇の歓楽街に、眩い金髪メッシュと小麦色の肌が浮かび上がった。
『ピコン♪ 【光のNTR男】モード起動。パッシブスキル【NTRガングロ男のオーラ】を全開出力するベー』
「おい、そこまでにしときな……シケた面したチンピラさんがよぉ!」
ドォン!!
俺が店の扉を蹴破って足を踏み入れた瞬間、店内全体に「圧倒的・他人の女を横取りしに来た男の覇気」が吹き荒れた。
「あぁん!? 誰だテメェは――」
レイモンドがガンを飛ばしながら振り返った。
だが、俺の姿――小麦色の肉体、ギラつくシルバーアクセ、そして『いかにもなオラオラ感』を目にした瞬間、レイモンドの顔色がサーッと青ざめた。
「ひっ……な、なんだこの圧は……!?」
『ピコン♪ 対象【レイモンド】の極度の小心さを検知。マグダレナの好感度補正が+50%に上昇したベー』
マグダレナさんが、涙に濡れた瞳で俺をじっと見つめる。
「な……なに、この方……? レイモンドみたいにただ威張り散らしているだけの男とは違う……圧倒的な『本物の男』の力強さ……胸が、苦しい……っ!」
「よし、かかった!」
俺はレイモンドに一歩近づき、胸元をはだけさせたまま凄んだ。
「おいクズ。女に金貢がせてイキってんじゃねえぞ。その綺麗な姉ちゃんはな、今日から俺の女だ」
(※ウソです! 全然俺の女にする気はありません! でも文脈上こう言わないとNTR能力がフル発動しないんだ!!)
「な、なんだとテメェ!! 俺のマグダレナに手を出す気かよ!!」
窮地に追い詰められたレイモンドが、懐から短剣を取り出し、半狂乱で俺に襲いかかってきた!
「死ねやガングロぉぉぉぉっ!!」
「ユウマ!!」ルーカスとエルが叫ぶ。
だが――俺の体には、ガングロヤンキー化の副作用【DQN化に伴う腕力補正】がみなぎっていた!
「遅ぇんだよ、ダサ男がァ!!」
シュッ!
俺はレイモンドのドス(?)を最低限の動きでかわすと、腰を落とし、体重を乗せた右ストレートを放った!
ドゴォッ!!!
「ぶべらっっ!?」
完璧な顎へのクリーンヒット。
レイモンドの体が宙を舞い、そのまま店のテーブルをぶち壊しながら派手に転倒した。白目を剥いて即気絶である。
「一撃……!? やるじゃん!」
エル君が口を開けて驚いている。
「ふぅ……」
俺は拳から上がる煙(妄想)を吹き消すと、金髪メッシュを掻き揚げながら、震えるマグダレナさんにゆっくりと歩み寄った。
そして、彼女の前にしゃがみ込み、目線を合わせる。
「……大丈夫か、姉ちゃん」
「あ……あ……」
マグダレナさんは顔を真っ赤にし、息を荒くしながら俺の胸板(小麦色)を見つめていた。
「助けて……くれたの……? 私みたいな、クズ男にハマってた愚かな女を……」
「クズにハマる必要なんてねえよ。アンタはもっと大事にされるべきだ。あんな奴のために働くのは、もうやめろ」
俺はそう言うと、彼女の手を優しく握り(※友情の握手のつもり)、しっかりと力強く立ち上がらせた。
『ピコン♪ 【光のNTR(救済)】成功! マグダレナの【ダメンズ依存】が上書き消去されました。NTRルート完全クリアだベー!』
「あぁ……! 私、なんてバカだったんだろう……! レイモンドなんかに囚われて……! あなたのような、強くて優しいお方に出会うためだったのね……っ!」
マグダレナさんの目から、ダメンズ好きの呪いが完全に解けた光が宿った!
よし……! やったぞ!! ひとりの女性をクズ男の沼から救い出したんだ!!
「ありがとう、ユウマ様……! 私、今日からあなたの奴隷として、全身全霊でお仕えしますわ……! さあ、今夜はどちらへ行きましょうか……?」
マグダレナさんが、うっとりとした表情で俺の腕に豊満な胸を押し付けてきた。
「……はい?」
「私、いくらでも働きます! ユウマ様のためなら、どんなことでも……! だから私を、あなたの『お部屋のペット』にしてくださいな……♡」
「依存先が俺にスライドしただけだこれぇぇぇぇぇぇぇっ!!????」
俺の悲鳴が歓楽街の夜空に響き渡る。
「違う! 依存先を変えろって意味じゃない! 自立して!? 自分のために金使ってぇぇぇっ!!」
「嫌ですわ、ユウマ様のお世話がしたいです♡」
「助けてルーカスくん! エルくん!! 全然救済できてない!! 別の意味で重い!!」
「あ、あはは……まあ、クズ男と別れられたから結果オーライ……かな?」
「ボクに振らないでよ! ユウマ、自業自得だよ~!」
結局、俺は「自立させたい光のNTR男」として、新たなストーカー(?)となったマグダレナさんをどうするか苦悶するのだった。




