4.能力(との)バトル ラウンド2
【対策実施後のユウマ】
こうして俺は、ギルマスのアドバイスに従って完璧な防寒……じゃなくて「NTR防具セット」を身にまとった。
•頭部: 深々と被った目隠しレベルの黒フード
•首元・胸元: 喉元までピッタリ締めたハイネック(シルバーチェーンは封印)
•体臭対策: 1日3回の銭湯+「異世界の激臭ハーブコロン(※ドリアンと湿布を混ぜたような匂い)」
「よし……これで俺はただの『匂いのキツイ怪しいフード男』だ! 誰の性癖も刺激しないはず……!」
意気揚々とギルドの掲示板前に向かった俺。
そこへ、偶然通りかかったのは――先ほどの親切なイケメン・クリスだった。
「あ、君はさっきの……ユウマかい?」
クリスは鼻をクシャッとさせながらも、優しく声をかけてくれた。
よし! クリスにはこの激臭コロンが効いている! ガングロも胸元も見えていない!
「あぁ、クリス! さっきは急に逃げ出して悪かったな。実はちょっと体に持病があって……」
「ううん、大丈夫だよ。それより、うちの姉さんとリアが……なんだか急に『あの人が気になる』って雰囲気が変わっちゃってね。探し回ってたぞ」
「(ヒエッ……)そ、そうなんだ……」
その時、クリスの後ろから、先ほどの義姉と幼馴染のリアちゃんが歩み寄ってきた。
俺は思わずフードを深めに被り直す。
ふたりは俺の凄まじい激臭コロンの匂いに一瞬「うっ……」と顔を顰めた。
(勝った! ギルマスのアドバイス最高!! これでNTRフラグは折れ――)
「……待って」
義姉が突然、ハッと目を見開いた。
「この……周囲を顧みない独特で強烈な異臭……! そして、素顔を隠す不遜な立ち振る舞い……なんだか面白い人ね」
「え?」
幼馴染のリアちゃんも、頬を染めて胸元をぎゅっと握りしめる。
「普通の人なら気を使ってつけないような酷い匂いを堂々とさせているなんて……なんて『自分を貫く強い意志』なの……なんだか気になる人・…」
『ピコン♪ 属性変換を検知。【ギャップ萌え】および【フェロモンの暴走】により、NTR好感度がさらに+10%されたベー!』
「なんでだよおおおおおおお
全然効いてないどころか別の扉が開きかけてる!!
「ちょっと急用をおもいだしましたぁぁぁぁぁ!!」
俺は激臭コロンの匂いを撒き散らしながら、本日四度目の全力ダッシュでギルドを飛び出していくのだった。
「もうダメだ、この街の女子は全員脳内フィルターが壊れてやがる……っ!」
激臭コロンを撒き散らしながら路地裏沿いにコソコソと移動する俺は、ゼェゼェと肩で息をついていた。
(ギルマスのアドバイスは的確だったはずなのに! なんで『悪の魅力』とかポジティブ変換されてんだよ! 異世界の乙女フィルター恐るべし……!)
頭を抱えて落ち込んでいると、ふと近くの小広場から声が聞こえてきた。
「もうっ! ルーカスたら世話が焼けるんだから! ボクが一緒にじゃない時に危ないことしちゃダメでしょ?」
「あはは……ごめんね、エル。でも薬草採取くらい一人で大丈夫だよ」
見ると、そこには異世界転移したばかりの時に出会った目隠れ剣士ルーカス君の姿があった。
そしてその隣には、ルーカスの腕に抱きつくようにしてぷんぷんと怒っている、盗賊風の装備のボクっ子美少女がいた。
サラサラの長いポニーテールの黒髪に、キュートなリボン。くりっくりの目元、ショートパンツから伸びるスラリとした美脚。
まさにアニメのメインヒロイン枠みたいな可愛さだ。
(げぇっ!? またNTR被害に会いそうな新しい美少女が……!?)
俺は即座に壁の陰に隠れ、息を殺した。
(やばい、また俺の【NTRガングロ男能力】が発動して、あの可愛い子まで俺に落ちたらルーカス君が余を儚んで崖から身を投げちゃう……!)
冷や汗をダラダラ流しながら必死に気配を消そうとした――その時。
ポキッ。
「ん? 誰かいるの?」
しまっ……! 足元の小枝を踏んでしまった!
黒髪の美少女――エルと呼ばれた少女がクルッと振り返り、俺の方へ歩いてくる。
「ひっ……!」
俺は恐怖で目を瞑った。
来る……! ガングロと激臭コロンのダブルコンボで「なんて危険でワイルドな人なの……っ!」って頬を染めて寄ってくる未来が見える……!
「……なにこの人。フード被ってめちゃくちゃ変な匂いさせてるんだけど。変な人、ルーカス、知り合い?」
「………………え?」
俺はゆっくりと目を開けた。
美少女・エルは、訝しむような冷ややかな目で、俺(と俺の激臭コロン)をじーっと見下ろしていた。
頬の赤らみもなければ、潤んだ瞳もない。あるのは純粋な「不審者を見る目」だけだった。
「ちょっ、エル! 失礼だよ!」
ルーカス君が慌てて駆け寄ってくる。
「だって本当のことじゃん! ルーカス、こんな怪しい人と一緒にいない方がよくない?」
エルはぷいっと横を向くと、ルーカスの手を引っ張って歩き去ろうとした。
(……反応しない!?)
今まで出会った女子(僧侶、幼馴染、義姉、ギルマスの後妻)全員を無条件で狂わせてきた俺の呪われし能力が……一切発動していない!?
『ピコン♪ 【NTRガングロ男能力】対象外を検知したベー。効果は発動しないベー』
「えっ、なんで!? なんであの可愛い子には効かないの!?」
俺が頭の上でハテナを浮かべていると、脳内のベロ出しパーが呆れたように教えてくれた。
『何を言ってるんだベー。相手は*【男の娘】*だベー。外見は完璧な超絶美少女だが、肉体スペックは完全な男(雄)だベー。NTR男能力は「女性」にしか作用しないベー』
「な、男の娘ぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
俺は思わず叫びそうになる口を全力で手で押さえた。
マジで!? あんなに可愛くて、サラサラロングで、美脚で、声も可憐なのに……男なのか!?
異世界、層が厚すぎるだろ!!
しかし――俺の絶望に満ちた異世界生活に、一筋の巨大な光明が差し込んだ。
「肉体が男性なら……能力が発動しない……?」
俺は震える手で自分の胸元を掴んだ。
つまり、エルくん(男)となら!
俺は【NTR男能力】を一切気にせず、純粋な「友達」として会話ができる!
彼を寝取ることもなければ、彼の好感度が謎のバグで爆上がりして修羅場になることもない!
「か……神様……! ワールドデベロッパーのクソ野郎……! 初めて感謝するぞ……!」
俺はボロボロと涙を流した。
闘病生活十数年。異世界に来てからも女子から逃げ回るだけだった俺に、ついに「普通に話せる同世代の友達(※見た目は超絶美少女)」ができるかもしれないのだ!
「待ってくれ、エルくん!!ルーカス!」
俺は嬉しさのあまり、激臭コロンを撒き散らしながら、訝し気な二人のもとへ感動の嵐とともに駆け出していくのだった。




