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バリスタが異世界転生したら、異世界で『抽出魔術』の真理に辿り着き、世界を救った話  作者: もしものべりすと


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第十四章 カルナの心臓

カルナの心臓までは、馬車で五日、徒歩で二日の道のりだった。


 俺たちは目立たないように商隊に紛れ、夜通し移動を続けた。途中、瘴に侵された村をいくつも通った。人が暗い顔で、家の中で息を潜めていた。子供の声は、もうほとんど聞こえなかった。


 手帳を持っていない代わりに、地面に棒で印をつけ続けた。通過した村ごとに、瘴の濃度。風向き。地脈の歪み具合。それらを、頭の中の別の手帳に書き続けた。


 書く動作を止めなければ、自分でいられた。


 リラエは馬車の荷台で、ほとんどの時間、横になっていた。二時間おきに調合した抽出液を含ませた。彼女の症状は、悪化はしなかったが、回復もしなかった。彼女はぎりぎりの線で、生きていた。


 四日目の夜。遠くの稜線の向こうで、空が紅く燃え始めた。


 バルデスが御者台で舌打ちした。


「奴め、もう始めたか」


「ジョージアが」


「奴は、お前が王都を出た時点で、最終抽出を始めていたのだろう。今、大陸全土の魔脈に、彼の流派の〈過抽出〉が流し込まれている」


 馬車を降りた。地面に手をついた。地脈の震えがはっきりと伝わってきた。異常な高圧、異常な高温。典型的な、過抽出の前兆。


 舌の上で、苦味が勝手に広がるような感覚があった。


 馬車に戻る。


「飛ばしてください。山頂までは、あと、どれくらい」


「強行軍で、半日」


「やってください」


 夜中、馬を換えながら、山を登り続けた。高度が上がるにつれ、空気が薄くなる。代わりに、苦い匂いが濃くなった。


 夜明け前、麓に着いた。


 岩で組まれた円形の祭壇があり、その中心に覚星石の巨大な結晶が屹立していた。巨大なドリッパーの芯のような場所だった。


 頂上の方を見上げると、紅の光が立ち上っていた。ジョージアが、もう登っていた。


「彼は頂で」


「ああ。だが、本当の制御点はここだ」


 バルデスが麓の祭壇を指した。


「ここで、湯量と流速と温度を決められる。彼が頂上で〈過抽出〉を始めても、ここで〈希釈〉と〈停止〉を合わせれば、止められる」


「やります」


 祭壇の中央に立った。


 仲間たちが、それぞれの拠点に散った。覚星石の鉱夫は結晶の根元へ。水脈の魔導士は地下水路の制御点へ。地脈の専門家は東西南北、四方の魔脈点へ。


 バルデスは温度計を持って、隣に控えた。リラエは毛布にくるまり、祭壇の隅に座った。彼女が時計係だった。古い砂時計を、両手で抱えていた。


 深く息を吸った。空気の苦味が、舌に染みた。気にしない。いつもの深夜のカウンターと、同じだ。


 指を、覚星石の結晶に当てた。手のひら越しに、大陸の鼓動が伝わってきた。異常に速い、過抽出の鼓動。それに合わせず、自分の身体の一定のリズムを保った。


「始めます」


 声に出して、言った。


 仲間たちが頷いた。


「東脈、二度、下げる」


「西脈、三度、下げる」


「南脈、現状維持」


「北脈、一度、上げる」


 各方向から、応えの合図が戻ってきた。地脈の温度が、ゆっくり変動した。


 次は流速だった。


「全脈、流速、半分に絞る」


 仲間が水脈の魔導具を調整した。地脈の鼓動が、わずかに落ち着いた。


 頂上の方で、ジョージアの怒鳴り声が微かに聞こえた。


「貴様、邪魔をするなッ」


 聞こえないふりをして、続けた。


「粒度――覚星石の粉砕、四方とも、半段階、粗くする」


「了解」


 各拠点で、覚星石の粉砕度合いが、一斉に変わった。


 大陸全体が、まるで一つの巨大なドリッパーになった。


 俺の指の下で、地脈の鼓動が、ゆっくり〈正しい〉リズムに戻り始めた。


 でも、まだ足りない。ジョージアの過抽出が、上から流れ込んでくる。


 もう一段、踏み込まなければならなかった。


「リラエ、砂時計、止めてください」


「はい」


「全工程、〈ブルーミング〉に戻します。一度、止める」


 バルデスが息を呑んだ。


「樹、それは」


「蒸らしの三十秒を、大陸スケールで、もう一度やります。三百年の毒を、一度、息を吐かせる」


 彼は俺の目を見た。そして頷いた。


「やれ」

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