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82.抜き打ちテスト

魔王軍との和平の更新まで一か月を切った、更新と決まった訳では無いが再び戦うメリットは少ないように思う、だが私は異世界から勇者として導かられた、ある意味部外者である、今まで戦い続けてきたこの世界の者達には忘れられない怒りや恨みも積み重なっている事だろう


特に蘇ったとはいえ一度殺された者達にとっては5年近くの和平はどの様な時間なのか?怒りや憎しみを今までの戦いの歴史に向け個人の感情と折り合いをつけて平和な世界を維持する事こそが尊いと言えるものは少ない、その境地に至った聖女ユリアでさえ必要なら魔王カトレアを討つ事を良しとしている


他の和平の継続を望む者達も心の奥底では復讐戦の機会を望んでいるだろう、イザベル達魔王カトレアに呪いをかけられた3人は復讐戦の一番槍を希望し私にクロエに与えた錫杖の様な効果を持つ武器を授けて欲しいと懇願した「蟲毒壺」には十分な素材が蓄積されている、溢れ出したりはしないもののスキルは私がそれに形を与えることを待ち望んでいた、個人的にカトレアさんに恨みがある訳では無い、それどころか親しいくらいであるが弟子たちの願いを断る選択は選べ無かった


可能性は低いが魔王軍から和平の期限前に先制攻撃を仕掛けてくる恐れもある、カトレアさんは多くの冒険者を眷属から解放した、その彼らの吸血鬼化を治療したのは私だが、本当に魔王カトレアへの忠誠を誓って仕える事を選んだ者が残っている、元Sランク冒険者の眷属だ手強い相手となる


馬鹿正直にクロエやイザベル達の相手をする訳がない、対「同盟」戦で魔獣やホムンクルスを活用して対吸血鬼装備の冒険者達を手玉に取った、ダリアさんは神仙であり弟子も加えているこれもSランク冒険者達だ、吸血鬼対策・アンデット対策では効果が無いだろう


もう一つ懸念がある弥生さんの事だ、信託で使徒に加えたいと女神様から直接要望が伝えられている、後を託すために準備が進んでいる私とイライザに神殿を託すと頼まれている、弥生さんの血で育ったアルラウネの卯月を紹介され私と従魔契約も終了した、自分の研究以外の仕事はゴーレムに丸投げだがアンジュが育てているアルラウネ達が彼女をささえることになっている


懸念とは使徒になる話を反故にしてカトレアさん達と世界征服を目指すという事では無い、可能性がゼロでは無いが現実的なのは自分の後を託す者達の力を見るために、実戦に近い訓練を抜き打ちで仕掛ける事だ


高校の部活の合宿でOGの暇人が寝起きに後輩を叩き起こし組手をやらせたことがある、個人の憂さ晴らしの相手に後輩を使った訳だ、組手で勝って機嫌を損ねる事も出来ないし不甲斐ない姿も見せらせない嫌な思い出だ


弥生さんは体育会系では無いが、ユリア達を指導している中でイライザから悪影響を受けている、私もイライザの事を非難できる様な優しい師匠ではなかった2人で何度も半殺しにして半数を脱落させた、弥生さんが安心して卒業出来るように修行の成果を示さなくてはいけない


この事を神殿で弟子たちに話すと皆の表情が変わった、これまでの対魔王軍への威勢のいい声は消え暗い空気が拡がっていった、地獄の修行を思い出しているのだろう、対魔王カトレアと違って切り札もない、手加減しない弥生さんの姿を想像しているのだろう明らかに元気が無くなった


「香織、ネタバラシは止めていくれないかしら!イライザから聞いたの?」

弥生さんが完全装備で現れた、普段は付けない鎧まで装備している


「俺が香織に言う訳ないだろ、次にどちらが子供を産むか分らせる機会にする筈だったんだ」

イライザも神官衣で現れ弥生さんに答える、カムイを早太郎達に任せて来たのだろうが授乳はどうなるのだろう母親の自覚まで置いて来たのか?


「香織の相手はイライザに任せるわ、外でやってね最後に神殿の修理をするのは嫌なのよ、残りは私が相手よ修行の成果を見せてちょうだい」


「イザベル、魔王カトレアに復讐戦をしたいのでしょう?お前が対魔王のパーティを選抜して掛ってきなさい!」


「その結果次第で一か月後の話し合いを内容が変わるかも知れないわ、このままだと少なくとも後5年はお預けよ、まさか香織に貰った魔道具頼りじゃないわよね?素の実力を示しなさい」

弥生さんが宣言したイザベル達の暴走を防ぐ効果も狙っての事の様だ、しっかり先を見据えた訓練なのだろう、後輩の前で威張りたいだけのOGとは違う女神様が使徒に望まれるのも納得だ


「イライザ、私達の勝負は最後のメインイベントにしましょう、クロエ達の戦いをみたいの、構わないでしょう?」


「そうだなみんなの前で、香織が俺の女だと証明してやる事にする」


「カムイを放り出した罰を与えないと駄目みたいね、母親だと思い出させてあげるわ」

そんな話をしている内にイザベルがパーティを編成した、既に決めていたのか即断だった私も魔王役で訓練の相手をしたことがある


イザベルのパーティ編成は、イザベルをパーテイの指揮官に据えてフレデリックとポールにルイーズ・オスカー姉弟を加えた5人だった、今はユリアとセシルがヒルダ姉さんの森にいるため現時点の最高の戦力になるだろうか?


「イザベル!気持ちは分かるけど焦り過ぎよ、もっと広い目線で最高のパーティを組みなさいユリアやセシルは不要なの?回復役は1人で大丈夫?香織やイライザの助けは要らないの?」


「あれは意地悪だろ、俺でもイザベルの立場ならあの編成だ」

イサイザが感想を呟いた


「あの煽りにどう反応するか見たいんじゃない?厚かましく助言と受け止めて再編制する位の余裕が無いと弥生さんは本気でイザベルの心を折りに行くんじゃないかしら」

私がイライザに返す


「俺と香織の2人なら弥生様に勝てるか?」

「今なら隠している手札で勝算があるけど見せる時じゃ無いわ、勝利は弥生さんに譲るのが正解じゃないかしら?」

「いつからそんなお利口な女になったんだ?いつでも正々堂々と勝負するのが俺が好きな香織なんだが」

「良い師匠がいるもの、イライザを乗りこなさないといけないしこれは成長よ」

楽しい会話はここまでだった


「弥生様、後出しの挑発には乗りませんよ、修行の成果を見せてあげます」

イザベル達が連携した動きを見せルイーズ・オスカー姉弟が先制の魔法を放ち、その魔法をで視界を隠してフレデリックとポールの2人が一気に距離を詰める彼らの剣は弥生さんの身体を貫いていた、次いで剣に切り替えた姉弟も距離を詰め弥生さんの首に剣を突きつける


「どうです弥生様、合格でしょう?直ぐに傷を癒しましょう」


「不合格だ次は5年後だ!何故血が出ない事にすら気が付かない?」

弥生様の身体が形を変えミスリルに変わった、その後スライムの様に四人に絡み付き拘束した、イザベルの背後から剣をで身体を突貫いた弥生さんが姿を現す


「イザベル、右胸を貫いた、致命傷ではないだろう傷は自分で直せ、魔王や魔王城の留守をしていた敵の手口を冒険者達から聞き出していないのか?戦う以前の問題だ!」


「ルイーズ、オスカー何故剣を止めた?ぬるい事をするな!」


「フレデリック、ポール手応えでゴーレムと気付いた時点でパーティに情報を共有しろ、爆発魔法が仕込まれていれば仲間を道連れだ!」


「文句は無いでしょう?いつでも再戦は受けてあげるわ!不意打ちでも構わないらよ楽しみに

言葉の途中でイライザが弥生さんの言葉の通りに不意打ちで一撃を見舞った


「ちっ、これもゴーレムかよ、いい性格してやがる」

良い性格なのはイライザも同じだ、心臓では無く正確にゴーレムの核を狙った一撃を放っている、正体を見抜いていたのにこの台詞だ


「良い動きね、安心して後を任せられそうで良かったわ」

ドレス姿で弥生さんが現れた隣に弥生さんそっくりな女性がいる頭に芥子の花飾りが見えた


「紹介するわ、今のゴーレムを操っていたアルラウネの卯月よ私の血で育てたの、香織には紹介したけどこの姿は初めて見るでしょ?」

イライザの言う通りいい性格をしている本気でイザベル達の心を折りに来ていた様だ


「弥生様よ、折角この後に香織と勝負するつもりだったのにそんな空気じゃ無くなったじゃねぇか、香織、勝負は使徒の立ち合いでやろう」


「逃げるんだ、次もイライザが子供を産みたいのね?」


「香織も今やる気は無いだろ、弥生様の意地の悪いところを真似るのは止めろ、カムイに授乳の時間だ」

そのまま神殿を後にするイライザを無言で見送ったが血がたぎるのを感じていた


イライザはゴーレムを吹き飛ばして発散しておいてお預けは酷い話だ、お陰でクロエの戦いも見れなかった、使徒の前で分からせてやろうその時が楽しみだ

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