75.捕鯨
午前の奉仕活動が終わると、弥生さんに声をかけられた、昼前に吸血鬼化を治療した冒険者を故郷まで送って、そこにまだカトレアさんの支配に抵抗して先に逃げかえった冒険者がいると言うことだった、吸血の衝動に耐えられず知人の血を吸ってしまい他にも被害が拡大していると
彼女の名前はアストリッドと言い故郷には先に逃がした彼氏のシグルドさんがこれ以上の被害者を出さない様に衝動に耐えがら救いを待っていると言う事だった、シグルドと言うと魔王討伐を果した冒険者の名前と同じだ郷里の英雄に憧れて親が同じ名を名付けたのだろう、私の故郷でもそうだ有名なスポーツ選手の名前をつけたりする
「シグルド同盟」にあるアストリッドさんの屋敷まで弥生さんの用意したスクロールに込められた魔法で転移した、高位の冒険者だけあって城のような大きなお屋敷だった、内部の家具も一流品ばかりだ少し日当たりや採光に問題がある様に思えるが冬の雪や寒さへの備えなのだろうか?
「シグルド、吸血鬼化を解除して人間に戻すことの出来る聖女に来ていただいたわ、大人しく奇跡を受け入れなさい」
アストリッドさんがシグルドさんだろう男性に声をかける
「本当にアストリッドなのか?どうしてそんな姿に?」
「奇跡の福音で若返ったのよ、黙って私のいう事を聞きなさい!」
アストリッドさんの方がカップル間の力が強いようだシグルドさんはアストリッドさんに頭が上がらないみたいだ何も言わすに治療を受け入れてくれた、彼を治した後他に4人の治療を行い無事に全員人間に戻した
お礼に何か送りたいと言うアストリッドさんが言うので物の代わりに「同盟」の観光案内を頼んだ「同盟」には海があると聞いている、この世界で初めての海、そして海産物に期待が膨らむ
「同盟」の自分の邸宅まで勇者カオリを連れて戻った、ヤヨイ様から真祖化するための秘術を伝授され触媒も2人分頂いた、この勇者はヤヨイ様に対する信頼が高いようで私をカトレアに眷属化された冒険者と信じて疑わない、実質的にはヤヨイ様を中心とした「法王国」と魔王軍の共闘関係まで成立している
私を消滅寸前まで追い詰めた杖は彼女が作成したと言う、現魔王対策でもあるのだろうが友好関係や利害関係が複雑で情報を精査しないと迂闊に今後の関係構築も出来ない、落ち着いた後に魔王カトレアとの会談も予定されているヤヨイ様が勇者と魔王をどの様に見ているかだけでも確認したいところだ
それ以前に勇者カオリへの対応を乗り切らないとならない、もしシグルドが勇者を侵入者や自分を討伐に来たと誤解して襲い掛かると最悪消滅まで覚悟しないといけなくなる、女神の勇者らしく良くも悪くも純粋で手加減も苦手だろう私がシグルドを抑えて大人しく治療を受けさせなくてはいけない
人間になり若返っていたがシグルドは私だと分かって大人しく言う事を聞いてくれた、無事召使を含め治療が終わった、流石に手ぶらで返す事も出来ない何かお礼の品でもとカオリ様の望みを聞いたところ「同盟」の観光案内を希望された海の幸を楽しみにしている様だ
丁度召使にしているリーネが港町の出身だ漁港も隣接して存在したはず、案内を彼女に任せることにしたリーネの話ではタラ料理が名物のようだ、カオリ様も期待して喜んでいる様に見えた、この後夕食に200年ぶりの料理を食べる事になるのだが、調理の道具など不要なためすぐには用意できない
カオリ様が空間魔法で保存されていた料理を頂いた毒を抜いたコカトリスの肉料理だと言う、私が産まれたのは「魔導国」のため鶏肉料理として考えれば違和感は無かったが、シグルドをはじめ「同盟」生まれの人間は冬の寒さに備える為脂肪分の少ない料理は物足りないかも知れない、それでも味自体は素晴らしく皆喜んで食べていた
アストリッド様が人間になってお戻りになられた、私もカオリ様に人間に戻して頂いた、そのお礼として「同盟」の観光案内をするようアストリッド様より申し付けられた、今後は人間としてアストリッド様に仕える事になる、主人としては吸血鬼化したこと以外に不満は無かったため有り難いともいえる
同僚は永遠の命が失われた事を残念がっていたが、アストリッド様が真祖となる秘術を身に付けて帰られている、同僚の魔術の腕前だとある程度修行を要するが、この後もアストリッド様に仕えるので有れば伝授してもらえるだろう、今までの様に惰性で仕えていた時と違い目標が出来て良いだろう、彼女達はアストリッド様のため食材や料理の道具の買い出しにかけている
カオリ様を案内して私の故郷の港町に向かった、私が産まれてから200年以上経過している家族も弟がいたが本人は亡くなっている、弟の子孫を探して私が親戚の子孫という事にすれば会えるだろうが私を覚えている者はいない、それでも町並みは多少変われど海は同じ景色で私を迎えてくれた
ただその海に異変が起きていた、巨大なクジラのモンスターが湾に居座り船を出すことが出来ない、カオリ様が楽しみにされていたタラも新鮮なものが市場になく乾物を材料にした料理しかご馳走できなかった、干し鱈で作る煮込み料理もこの国の名物だが内陸部でも楽しめる料理だ、せっかく港町に来た甲斐が無い
カオリ様はクジラのモンスターを狩ると言いだした、退治で無く狩猟だモンスターでは無く獲物と見ている様だ、この国でもクジラ肉は大事な食料だ、脂肪分の多い部位は冬を越すため重宝する食用以外にも用途は多く上手く使えば捨てる所は無いのだかモンスター化したクジラに挑むものはいない、魚などの食料を喰いつくして別の狩場に移動するのを待つの普通の対応だ
カオリ様は精霊魔法で海を凍らせクジラに大きな銛を打ち込みその銛に雷を打ち込んで倒した、氷の上で解体まで終わらせ港町や漁港で皆に肉を振舞い宴会を始めた、船を出せるようになり商人も漁師も大喜びだ漁場が荒らされる事を覚悟していた漁師は海の神の使いだと思っている、カオリ様が女神信仰の神官衣を着ていた事から女神様が遣わした使徒と思う者もいたこれは商人達の中に多い
この後に商業ギルドや冒険者ギルド「同盟」参加国の王城等が魔王カトレアが襲撃した残党を倒し、被害を救援したのが女神様を信仰する神殿の司祭や騎士達だったことから女神の使徒だと言う考えが拡がっていった
カオリ様はシャチを従魔として従えこの港町を含む海の守護者として残された4つ群れが回遊しながらモンスターを狩って食料にし漁師達と獲物被らない様にして下さった、商船の護衛や道先案内もしてくれる、このあとカオリ様がクジラのモンスターを狩った日を記念日として祭りが行われクジラ肉が供えられ港で振舞われる様になった
この祭りではカオリ様の従魔に守られた各港の代表がボートを出し合いレースが開催される、祭りが続いていく内に船の先頭に神官衣を着て立ち銛を持ってオールの漕ぐ音頭を取る事が港町の女性の憧れとなっていった
余談になるが、彼女が魚をさばいて生で食べるのには吸血の経験のある私も驚愕した、私しか知らない事だが彼女の名誉のためアストリッド様にしか伝えていない、カオリ様は大きな魚を吊るして血抜きをされていた、その血が勿体なく、美味しそうに感じたのは吸血鬼だった時間が長かったためだろう




