48.晩餐
「リーゼロッテ様侵入者です、現在4人の進入を確認しています」
私の母が一族の中から選び共に育った侍女であり、頼りにしている姉弟子のエリザベスが報告してくる
「ご苦労さま、ベス予定の通り一階の食堂に案内して」
30分前に美咲殿から話を聞いている、私がハインリヒ家に対して服従して忠誠を誓い、ヘラルドを「魔導国」の王と認めるようにとの勧告だった、3年前にシュヴァイク家と共に推進していた「異世界転移」で勇者を連れてくる事業への協力から手を引き本来の死霊魔術の研究に集中する様になっている
異世界の女を実質的な妻に迎えた後ハインリヒ家の創造するアンデットの質が格段に向上した、彼女の仲間にそれを手助けした者が居たのだろう、私は事業に積極的には関与していない、あわよくば探しているスキルの保持者がいれば当家の血をより強力にしてくれるのではと期待していたが結局見つかっていない
当家の得たものと言えば戦闘に役立たない彼らの言う外れ勇者を引き取り、料理の腕のある者をその腕前に見合う待遇で召し抱えているだけだ、同じ外れ勇者から連れ合いも世話して良好な関係を維持している
ハインリヒ家の事を貴族でありながら力があるとは言え平民の女を妻にしているとは落ちぶれたものだ、矜持が無いのか等と、他の八大貴族の碌に魔法の研鑽もせず祖先の才能を無駄に腐らせている馬鹿共が笑っていたが、冗談じゃない美咲は素晴らしい力を持っていた
見た目だけで当主を篭絡した、魔王討伐中に奇跡的に魔王の暗黒魔法で魂の呪縛が破れたが、そのままどこかに逃げるかダークエルフに鞍替えしたあの厄介な女の様に魔王軍に寝返って生きればいいものを戻って来た馬鹿な女だと笑っている
こいつらの目は節穴だ、彼女をエスコートする当主の中味が入れ替わっていることすら気が付かない、私は彼女たちが魔王を討伐し力を奪ったうえで呪縛を解除したとみている、攫った異世界人に手をかまれたという意味では落ちぶれたと言えるかもしれない
確かに美咲は美しく頭も回るが魔王を誑かす事は出来たとしても「魔導国」などに来ることはないだろう魔王城で良い暮らしをすればいい、復讐を望むなら忌々しい前例がある、当家もとばっちりで被害を受けたダークエルフに対して攻勢に出ることが出来ず、暗殺に対しての対応は今でも後手に回らされている
「当家と協力して「魔導国」を支配しないか?邪魔な奴らは私の手で毒殺してやる」
と持ち掛けたが断られた、互いに他家に知られたくない秘密をかかえたまま少しずつ協力関係を構築しているところにこれだ、言うに事欠いて私以上の毒の使い手を挨拶に送ると言ってきた、どんな奴か見てやるとしよう
神聖魔法の聖域だろう我が屋敷が外と隔離されている、領地から増援も呼べない、するつもりは無いが他家に連絡も取れない、ベスが客人を食堂まで案内してきた、大人しく案内に従いやってくる、いや大人しくはないようだマナーのかけらもない人狼共が三匹、飯はまだかとベスを威嚇している
その飼い主だろう1人の女が叱りつけおとなしくさせた「静かにしないと御飯はお預けだからね!」お前が一番うるさい、ベスが耳を押さえている、何とか客人が席についてくれた、その女を観察したが美咲の言う様な女に見えない、確かにとんでもない力を持っているが中身は人狼と対して変わらない、毒の使い手とは思えなかった、やる気になればこの屋敷諸共私達を吹き飛ばせるだろうが、私の土俵で戦えるのは有難い
「ようこそ我が館へ、歓迎の食事の前に勝負をしましょう、お互い自慢の毒を相手の紅茶に注ぎ飲み干す、先に意識を失った方が負けです、私が負ければ美咲様との約束の通りに忠誠を誓いましょう、私が勝てばあなたは死体でこの館からお引き取り願います」
「聞いていないのですが、勝負を受けましょう、スーザン達がお腹を空かせたままこちらに来たので気が立っています、料理を運ぶよう指示を出してください」
「良いでしょう、ベス聞きましたね紅茶の準備と料理の手配を」
直ぐに紅茶が注がれる、私が小瓶から毒を注ぎ彼女にカップを差し出す、意外なことにカノジョはマナー違反もせず紅茶を飲み干した
「折角の茶葉が台無しですね、香りや味、舌触りまで変わっていますよ、これが自慢の毒なんですか?」
「いってくれますね、毒の効果を最優先したこれを呑んで喋れるとは驚きです、その生意気な口がいつまで動くか見ものですね」
「さて私の番ですね、私の自慢の毒を味わって貰いましょう、貴女の毒と違って紅茶の香りも味も損ないませんから」
彼女の右腕に刺青の様なものが浮き上がり艶めかしく動き手の中で短剣の形を取った、その刃から透明な液体が滴り一滴の雫がテイーカップに中央に落ちる、短剣が消え刺青が腕に戻りそして見えなくなった、その美しい光景自体が何かの呪いの様にも見えた
気押されながらも表情には出さず相手と同じ様に飲み干した、子憎たらしいセリフで言う様に香も味も変化はない暗殺用に使う毒の様だ、そんなものが私に通用すると思っているのか?笑わせてくれる
「素晴らしいわ、完全に無色透明で無味、カップの毒検知も反応しないこれが本当に毒なら貴女が欲しいわ、魔法で娘しか生んでいない母のせいで兄も弟もいないの嫁には来てもらえないのが残念ね、あらいけないわ、もうすぐ貴女は死ぬのだから無理な話でしたわね」
代々毒に親しみ、自ら調合した毒を少しずつ身体に取り込み鍛えている、今回は毒に対抗する魔道具まで装備しているのだ、その余裕から勝利を確信していた、そんな私の手足の指が痺れ硬直し石に変化していくその効果が身体の中央に向けて拡がっていった
「何これ?どうなっているの?」
解毒の為魔法を使おうとしても魔力が集まらない、呪文は唱えられるのに発動しない
「私の練り上げた石化毒です一時間ほどかけて全身が石になります、下手に魔法を使おうとすれば石化が早まるだけです、肺が石化するまでは会話も出来ます、そのまま私が死ぬのを待ちますか?無駄な時間だと言っておきますが」
「折角の料理が冷めてしまいますし、スーザン達が待つのも限界です、ベスさんでよかったかしら?料理を運んでください、何が入っていても気にしませんから、ただし私の料理は脂肪分の少ない料理をお願いしますね」
私の侍女に勝手に指示を出している、毒を仕込むつもりなのだろうエリザベスが厨房に走っていく
運ばれた料理を三匹の人狼がすごい勢いで片付けていく
「彼女たちのマナーがなっていなくて申し訳ありませんね、せめて私だけでも静かにいただきます」
エリザベスの手によって色まで変わったを料理を平気な顔で食べていく、その内表情が少し曇った、やっと毒が回って来たかと思ったが、肉の脂身が気になるようでナイフで切り分け皿の隅に除けている
毒は平気なのに脂肪は気になるのかこの女は、それでも私が完全に石になるまで時間はある、祈りながら彼女が倒れるのをまった
「ごめんなさい、太りたくないものでマナー違反をご容赦下さい」
それなのに30分経っても彼女は申し訳なさそうな顔でデザートに手を付けずにエリザベスの注いだ毒入りの紅茶を楽しんでいる、そんな中人狼共が量が少ないと文句を言いだした、その声が石化した手足に響く、エリザベスが疲れ切った顔で再び厨房に走っていった
「姉御、残している肉とデザートを貰っていいか?」
「仕方がないわね、貴族はスーザンみたいに量を食べないのよ、行儀が悪いからおかわりが来るまでこれを食べていなさい」
アイテムボックスから何かの丸焼きが出てきた、足が8本生えている大型の爬虫類のようだ、私の記憶で当てはまるのはバジリスクしかない、3匹の人狼が奪いあい見る間に骨だけになっていく、それを残念そうに見つめている彼女を見て嫌なことに気付いた、マナー違反をとがめる目ではない、マナーを気にして自分も食べたいのに食べられないことを悲しんでいる、あんなものを常時食っているのか?
「わたしの負けです、ハインリヒ家に忠誠を誓います」
両手両足が石になり、肩や腰までそれ拡がった所で私の心が折れた




