44.自由への道
「弥生様、見て頂きたいものがあります」
面会の準備中にカトレアが鏡の様な魔道具を持って来た
「何かしら、化粧は出発前に香織の生活魔法でするから大丈夫よ」
冗談を返しながら初めて見る魔道具に警戒する、カトレアが今になって私に対して何かを仕掛けるとは思えないが厳重に保管してあったもののようだ、魔道具自体が意思を持っておりカトレアを支配している可能性もある、何か魂のかけらが宿っている様だ
「これは、アシュノット様より弥生様に、いえ「エア様」に残されたものです」
記憶が戻られた後か、重大な決断をする前にお見せするよう託されたものです
その説明を聞きながらカトレアの精神の状態や魔道具の解析をおこなう
「有り難う、メッセージを聞かせてちょうだい」
カトレアが何かに支配されている様子は無い、彼女の説明と私の解析の結果からエルダーリッチからのメッセージだと判断した、メッセージを聞かなくても内容は予想できる、私が勇者香織の前で語り、千秋が魔王ヒルダの前で説明したカバーストーリーは「嘘から出たまこと」であったようだ
「エア!これをお前が見ているの時には、私の魂はお前の糧となり私の力を使いこなしていることだろう、直接お前の成長を見届け私の口で語りたいのだが私の魂は暗黒神に縛られている、聖女カーリア殿に協力して頂きお前に私の魂と力を託すことにした、記憶が戻っているのであれば最高だが、そうでなくとも今後の決断の前に知らせておきたい、私の様に誰かの道具になり下がるのではなく自由に生きて欲しい」
「私を騙した魔王に復讐する必要はない、その魔王は勇者が討伐を終えている、最後に一つだけ頼みがある聖女カーリア殿に改めてエアから感謝を伝えておくれ、共に聞いているのであれば最後に私から感謝を伝えさせてほしい、有り難う貴女のおかげで娘を蘇らせることが出来た、勇者を倒す前に話が出来ていればもっと良い方法があったのかも知れない、私の罪の後始末を押し付けてすまないが娘の事を頼む」
メッセージが再生された後魔道具に宿っていた父の魂が私の魂に吸い込まれていった、その魂は父の魂を喰らった私の魂の中に溶けていった
そのメッセージを聞きながら少しの感傷に浸りながらも冷静な、いや冷淡で冷酷な自分がそれを過去のものにしようとする、これをきっかけに記憶も戻ったが、5年分の幼い娘の記憶だ、前世での18年、この世界に来てからカーリアと過ごした20年近くとその後の2年に比べれば、あまりに実感のない記憶だ自分の記憶とは思えないし、思いたくもない
自分の記憶であると認めることを「坂本弥生」が拒否しているのだ、それでも私は「エルダーリッチの娘エア」なのだろう、目から涙が流れてくる、この涙が止まり乾くまでは父の為に泣こう、そして父の魂を喰らった罪はこれからも背負っていく
自由に生きる前に復讐も成し遂げる、父は不要とメッセージを残したが、娘の為に父の魂を犠牲にさせた暗黒神に礼をしなくてはいけないこれは最低限のケジメだ、カーリアに胸を張って報告し父の分まで感謝を伝えるためでもある
早ければ明日にも魔王と面会する、まずは暗黒神から魔王を奪う、カミラの短剣を解析して自らの為に魔剣と魔槍を作成している、暗黒神の頸木を外したうえで力を譲らせるか奪ってやろう、その力をヒルダに渡してもいいし私自身が「魔王アシュノット」となっても良いだろう
「ニブルヘイム様、弥生様より面会を希望すると使い魔を通して連絡がありました」
「美咲か、彼女には借りがある、歓迎すると伝えてくれ、我にも別の頸木が存在するが、お前達の魂の鎖を外してくれたのはエルダーリッチの娘である彼女だ、記憶が戻ったのかも知れん」
「彼女なら我を復讐の対象には選ばない、我が仕える暗黒神が対象になるだろう、父を救わなかった女神に対しても復讐するかもしれんな、女神の使徒と仲がいいようだ、女神から使徒を奪えば良い復讐となるだろう」
私の妃である「井上美咲」の報告に回答した、この回答から愛する妃は我の真意を察してくれるだろう、自分から頸木を外したいとは言えない、裏切を防ぐだけではなく発言にも制約があり縛られている、それでも抜け道はある、美咲と弥生は前にも2人で大きな仕事をしている、その仕事で私を罠に嵌めてくれた
美咲は「魔導国」が送り込んだ勇者たちの一人だった、私を倒す力など持っていなかったが、彼女の美貌が私に興味をもたせ、小賢しくもあったが私を騙した手管を気に入っている、美咲を魔法で拘束しエルダーリッチに彼女の魂を縛る鎖を外す協力を求めた、そのときにはじめて弥生にあった、聖女の身体を奪いエルダーリッチの力を十全に使いこなす、その力は見事に美咲を自由にした、迷宮に引き上げようとする彼女に美咲が話しかけた
「弥生様、私の仲間だった者の魂も解放して貰えないでしょうか?」
「必要ない私への忠誠の証に彼らを処分しろ」
「もちろんそのつもりです、旅の途であいつらの目がどれだけ気持ち悪かったか、下手をすれば魔王様に私を綺麗なまま捧げることが出来なくなるところでした、魂が解放され、喜ぶ彼らを地獄に突き落として見せましょう、あいつらの処分は私にお任せください」
氷漬けになっているため聞こえないままのでいる共に旅した仲間を冷たく生贄に差し出すだけではなく自分の恨みを晴らそうとする美咲を気に入り任せることにした
面白そうに会話を聞きながら弥生が3人の魂を縛る魔法を解除した
「彼らには「魔導国」への復讐に向かってもらいます、その道半ばで死のうがそれを達成しようが彼らの才覚次第です、新たな呪いをかけてやって下さい今後は死ぬまで「魔導国」と戦って貰いましょう」
これが本当の目的か、見事に騙された訳だ、私が認めるかもしれない方法で仲間を助けようとしている、確かに嘘は無い、いずれ「魔導国」に始末されるだろう、それでも僅かではあるが助かる可能性もある
「魔王様、私と賭けをしませんか彼らが復讐に失敗すれば、私は貴女の妃だろうと奴隷だろうと好きにして構いません、彼らが復讐を成し遂げれば魔王様が私の男になるという賭けです」
「面白い、復讐の成功の条件を出そう「魔導国」は8つの名門貴族がそれぞれの魔術の研究成果を競いながら権力争いをしつつ国を運営をしている、その当主を1人仕留めれば成功と認めよう」
美咲を逃がさないために魔術契約も結んだ
その復讐を彼らはやり遂げた、少しは美咲の願いを聞いて武器を与えたが、それに加えて弥生が彼らを支援した、ほとんど弥生がやり遂げた事ではあるが我が求めた復讐の成功となる条件を満たしていた、魂を解放する時に面白そうにしていたのはここまで見えていたからだろうか?、死霊魔法を得意とする貴族の勢力を他の貴族に気付かせることも無く内側から乗っ取り、彼らの魔法の研究や技術を奪って見せた、そして力を奪いゾンビにした当主を戦利品として持って来た
「私の男になって私の復讐を手伝って下さい」
という美咲に、我は賭けに負けた対価を支払うため、当主の姿に化けて「魔導国」にいる、魔術契約が私を縛る結果になった、弥生の力で我の魂が暗黒神の頸木から解放されれば本当の意味で私は美咲の男になれる、契約が無くても私は美咲の男であり続けるだろう、弥生と協力すれば国ごと「魔導国」を乗っ取ることも出来るだろう




