39.佐々木聡美
無事見合いが済んで誠二と香織君の婚約が成立した、見合いの後の勝負や千尋さんに思う事もあるが、思った以上に香織君が強かっただけだ彼女の評価が下がった訳では無い、なにより誠二が気にいっている
あの勝負のあと男三人で飲みに行った
香織君の父から私も千尋にプロポーズした時、勝負して勝つことを条件に出されたが結局投げることが出来ずに、痺れを切らした千尋に逆に襲われたことを話してくれた、香織君には勝利して結婚を勝ち取ったと説明しているのでここだけの話にして欲しいと頼まれてもいる、彼女が相手ならその話も納得できる、誠二はどうなってしまうのか心配でもあるがそれでもいいのかも知れない
調べさせた結果も自分の目で見た感想もこの夫婦は幸せだと教えてくれる、従順で私に気を使ってくれる妻のことを思いながら少し苦い酒を飲み干す、私は彼女を幸せにしているだろうか?気づかないうちにプレッシャーを与えていたのではないかと反省する
父として誠二のために出来ることをしてやらなければいけない、私のエゴでもあるが、香織君の芸能活動が気がかりだ、この手の趣味の延長上の活動は下手に反対すると逆効果だ、誠一が高校から大学まで音楽活動にのめり込んだ、下手に反対してしまいのめり込ませた言った方が正しいだろうか、露骨に反対するのではなく望ましい別の事に集中させて自然に距離を取らせる方がいいと学んだ
彼女は大学でも空手を続けているこのおかげで誠二も苦労するだろうが悪い事ではないだろう、彼女の表の空手も素晴らしいコネを使って強化選手に選ばせれば大学の講義と合わせて忙しくなるだろう、一応彼女が声優として参加したアニメの制作会社に圧力をかけておこう、スポンサーに参加すれば少しは口を出せる大きな会社であれば難しいが相手は中堅どころの会社だ何とかなるだろう
「佐々木!例の「犬飼香織」に関係する会社の社長の接待だ、新しいスポンサーで社長は大手広告代理店で人脈を拡げた後に独立して自分の会社を興した男だ、今も多くのコネと影響力を持って居る、失礼の無いようにしろよ、化粧も直して髪も整えておけ!」
「今日の昼食は会社の金で食える感謝しろよ!それにしても、男の影が無いと思っていたが彼女もやるようだ、資金も入ることだし出番を増やしてやれば社長も満足するだろう、お前のような貧相な身体では役に立たんがもう少し綺麗にしておけよ!」
クソ上司が、余計なお世話だそれにしてもおかしな話だ、課長の言うように男の影など無い、そういえば私とファミレスにいった時に高級店に招待されて肩が凝ったと言っていたことを思い出す、もしかして彼女が助けた少女の家族だろうか事故が起こった場所は高級住宅地だ、私も当事者だよく覚えている
「課長、その社長の名前はなんて言うんですか?」
「さっき言ったばかりだろ!「前川大介」さんだ人の話はちゃんと聞いとけ!」
クソが、名前なんて一言も言ってないだろ、自分の言った事くらいちゃんと覚えとけ、口には出さないが心の中で上司を罵倒する、事故でお世話になった弁護士に連絡を取り事故に巻き込まれた少女の事を聞き出した
「前を走っていた車は私のクライアントでは無いのですが資料に有ります、巻き込まれた少女が「前川有紗」少女の父親が「前川誠一」ですね、何かありましたか?」
「直接関係は無いのですが今後会うことが有れば挨拶の必要があるかと思い至りまして、ありがとうございます」
会社のホームページに重役として「前川誠一」の紹介写真が載っている社長の名前と写真も確認した、間違いなさそうだ、念のため犬飼さんに連絡をとり確認する、社長の事をきいたら事故を切っ掛けに出会って気に入られ彼の息子と婚約することになったと聞かされた、犬飼さんも嬉しそうに話してくれた、有難いことに私がなぜ社長の名前を知っているのか詮索されることはなかった
彼女が後押しを頼んだろうか?彼女からそういった反応は無かった、それならば社長の独断だろうかお礼に彼女の活動を応援してサプライズプレゼントにしたいのか?それならば問題は無い、頭がピンクの馬鹿上司が社長を怒らせてしまうだけだ、私がフォローすれば恩を売れるし、社長からの印象も良くなるだろう
問題となるのは息子の婚約者が声優をしていることを面白くないと思っているパターンだ、今彼女の所属事務所を探しているところだアニメのPRも手伝って貰って評判もいい、ここで彼女を失うのは私も痛い、社長の意向を尊重しつつ声優として活躍できる方向に持って行かなければならない、社長が我慢できる売る出し方をプレゼンしないと今までの努力が無駄になる
準備を整え接待の昼食に向かう化粧も髪型も清潔感のある仕事の出来そうな女に見えるように整えた、本当ならスーツに着替えたいが流石に時間が無い私服で仕事が出来る会社なので動きやすい服装だが落ち着いたデザインだそれ程悪印象はあたえないだろう
「これは社長、ようこそおいで下さいました、しかし社長もお若い、美人の彼女がいるのが羨ましいですよ」
「課長、いつの時代の話しですか?下品な冗談はやめて下さい!前川社長や犬飼さんに失礼です、これからクリーンな会社にしていくところです、それじゃ老害と言われても仕方ないですよ!」
これは賭けだが、勝算の高い賭けだクソ上司を助けることにもなるが、社長を先に怒らせては話が出来なくなる、賭けに勝ったようだ、一瞬怒りかけた社長の表情が戻り私の方を値踏みする様に見ている
「失礼しました、事前にしっかり準備しておくべきでした、私が犬飼さんを担当しています佐々木と申します」
謝罪と挨拶をして名刺を渡す
「不愉快な冗談だが佐々木君に免じて我慢しよう、次は無いと思ってくれ」
社長が私にだけ名刺をくれた、正直後が怖いがもう後には引けない
「君の会社の事は調べさせてもらっている、君はクリーンな会社にしていくと言ったが隣にいる男の様なものたちの力が強い会社と報告を受けている、今回の広告料は息子の婚約者から手を引いてもらうための手切れ金だ、佐々木君も諦めてくれ、代わりと言っては何だが君をうちの会社で雇ってやろう、香織君との関係も良いと聞いている、こんな会社に居れば君も隣の男のようになるか食い物にされるのがオチだ、悪い話ではないだろう?」
「前川社長、申し訳ないですが私はアニメ制作が好きなのです、こんな会社ですが私を育ててくれました、給料も頂いています、裏切ることは出来ません、犬飼さんにお願いしたアフレコも終わっています、これ以上キャンペーンに出て貰うことも諦めます、彼女の芸名をアニメのエンドロールに入れることは認めて下さい」
どうして断ったのだろう、社長の誘いにのればいいのに昔の情熱が返ってきてこんなことを言っていた
「面白い、朝倉課長、広告費を倍だそう、佐々木君を売ってくれ、狭い業界だと聞いている同業の会社に移っても変な嫌がらせは無しにしてもらおう」
「佐々木君、君はどの会社でアニメの制作がしたい?私が口を利いてやろう、香織君の仕事も君に任せようじゃないか、今担当しているアニメの仕事を終わらせ、しっかり仕事を引き継いでからなら裏切りにはならないだろう」
想像もしていない最高の提案だ
「朝倉課長、すいません、前川社長の提案を受けても構いませんか?」
「お前の様な役立たずが高く売れるなら文句はない、広告費を倍にした手柄は私が貰う、私が捨ててしまったものを次の会社で役に立てろ、お前の様な役立たずに出来るものならやってみせてくれ」
私はこの時はじめてこのクソ上司に感謝した、朝倉課長が私の送別会の幹事を務めてくれた、はじめてこのクソ上司と飲む酒を心から美味しいと感じた
それでも「お前の様な役立たず」と二回も言った事は忘れない、次の職場での仕事で見返し今度は私が酒を奢ろう、このクソ上司に私が飲まされていた良い酒なのに不味い酒を呑ませてやる




