30.犬飼千尋
「そう、よかったわ、では初めましてミネアさん香織との関係を教えてもらえるかしら?丁度フェンリルも居ないようだし」
「貴女は何者ですか?」
何とか動揺を抑え香織さんの母親に聞き返す、悟られているだろうが極力表情に出ないようにした、峠道でのダークエルフと対峙した時の事を思い出す
「恐がらなくてもいいのよ、別に取って食おうという訳でないの、間接的にだけれど早太郎とカミラ様から簡単に事情は聞いてるわ、イザーク様を手玉に取った貴女に興味があるのよ」
「こちらから自己紹介しましょう、氷上千尋という女性が貴女の世界に攫われたの「魔導国」の魔術師達にね、彼女と同時期にもう3人が攫われた、4人勇者パーティとして魔王軍に対抗する戦力にされた魔術で魂を縛られた状態でね」
「そこで彼女たちはダークエルフの森に送り込まれカミラ様と戦い彼女だけが奇跡的に魂を縛っていた魔法から解放され生き残った、その後カミラ様のもとで「魔導国」や本当の勇者達と戦った、勇者との戦いで少なくない被害を受けカミラ様は当時勇者だった千秋様と停戦することになった、それまでの戦いの中で彼女はカミラ様と親友の様な関係を築いていた、そして「魔導国」への復讐のため貴女が手にしている短剣のオリジナルの力で自分の魂をカミラ様の娘ヒルダ様として転生することを選ばれた」
「魂の抜けた彼女の身体をカミラ様は自分の魂を移し替えてこの世界にやって来た目的を果たした後親友の身体に彼女と共に戦った3人の魂の残骸にカミラ様の魂を少し分け与えて1人分の魂に仕上げて彼女の記憶を複写してこの世界に残された、それが私、貴女が『魂の交換』した香織の母よ」
「急ぎ足だったけど私の自己紹介はこんな所かしら、ミネアさん貴女の口から香織との事を聞かせてくれないかしら」
彼女からの話しを黙ったまま聞いた、信じられないことだが嘘だとは思えなかった、私も自己紹介をし、香織さんとの出会い、『魂の交換』をするに至った理由、香織さんとの話し合いの内容を話し、促されるまま自らの聖女候補として南神殿に至るまでの事を話した
「解かったわ、貴女の話しと、それまでに私の聞いている話に矛盾はないみたいね、正直に話してくれてありがとう、貴女さえ良ければこの後も私の娘としてこの世界で生きて行って欲しいんだけど嫌じゃないかしら」
「これからよろしく言お願いします、お母さま」
私はその提案を受け入れた、本当なら敵対して当たり前の相手なのに信じることができた、信じたいと思ってしまったのかも知れないがこれは正解だった
「二つほどお願いが有るの一つはお父さんにこの事は秘密にしてほしいの、絶対に気が付かないと思うわ事前に知っていなければ私も気が付かなかったから、もう一つがカイン様の魂を引き取りたいの、貴女の持っている短剣は喰らった魂の能力を利用する為に完全には食い尽くさずに魂の根幹となる部分を捕らえたままにするの、使用者がその能力を完全に自分のものにするまでの間だけどね、貴女がその短剣の主になってからまだ時間が経っていないから残っているはずなのよ」
「カミラ様から短剣のオリジナルを預かっているから魂を移してカミラ様に返して差し上げたいの、もう少ししたら千秋様たちがこの部屋に来るから相談して決めてくれればいいわ、カミラ様との間で話はついていると聞いているから問題ないはずよ」
父に秘密のすることは問題ない香織さんもそう望んでいた母にばれたのがそもそもイレギュラーな事態だ、予想も出来ない理由だから私がどうこう出来ることではない、カインさんの魂は千秋さんの到着待ちだこれまですべてが何かの幻術である可能性も否定できないが千秋様に会えば判るだろう、流石に使徒様の存在まで偽装出来ないだろう、そのレベルの幻術であれば抵抗しても無駄だと割り切るしかない
しばらくすると千秋様と香織さんそしてもう1人初めて見る人間がやって来た
「お待たせしたかしら?予定通りの筈だけど」
「大丈夫です、千秋様、ミネアさんの状況把握が素晴らしくて予想より早く話がまとまりましたので」
「それならよかったわ、頼んでいたものは用意できた?結構手間だったでしょ」
「大丈夫です、偽造じゃなくて本物です、大使館に問い合わされても大丈夫です、目立ちすぎるので外交官扱いではなく観光目的での入国になっています」
お母さまと千秋様の間で話がはずんでいる、パスポートの様だ
「お母さんどうやってこんなもの手に入れたの写真まで完ぺきじゃない」
そう言えば香織さんは私の身体のままだ、女神様からこの世界の姿にしてもらうと聞いていたはずだけど
「海外旅行した時に少しコネとヘソクリが出来ただけよ、たいしたことじゃないわ」
「1人でアフリカ旅行に行って疫病と内戦に巻き込まれて、3か月足止めされた時の事?お父さんと二人でどれだけ心配したか、そこで何してたのよ、お母さんの事をカミラ様やヒルダ姉さんに聞いていてなんとなく予想できるけど怖いから知らないままでいるわ」
実の親子同士で会話が弾む、流石香織さん異世界に来る度胸があるだけのことがある、平気な顔で答えている
「カミラはそのコネでAKを手に入れることが出来たのね、うちの騎士達が素敵な挨拶を受けたんだけどパスポートでチャラにしてあげるわ」
これは千秋様だ、AK?私の故郷になんてもの持ち込んでくれる、それは勇者がチートで魔王軍に使う武器のはずだ、驚きながらも千秋様に確認を取り短剣を実体化させる
「お母さん、いいえ香織さんが一緒なので千尋さんと呼びますね、千尋さんカインさんの魂を回収してください」
と短剣を手渡した、彼女も短剣を取り出し両手に持って乾杯でもするかのように刀身を軽く打ち合わせた、何か不吉なそれでいてな澄んだ音が響いた
「有り難う、確かに回収したわ、ミネアさんは凄いわイザーク様の言う通りね、生まれる種族を間違えてるんじゃないかしら、この短剣をほとんど自分のものにしてるじゃない、記憶を選んで消去出来るのは相当なものよ」
私への称賛の言葉があったお世辞には聞こえない本心の様だ、オリジナルの力なのか私の使用履歴?を読み取れるようでストーカーの記憶を消したことまで知られてしまった、そのあと短剣が返される
短剣の効果で得ていた騎乗能力等が下がっているのがわかる、少しは吸収したのか私が経験したのか短剣無しでも初心者レベル位は残っているようだ、その光景を初対面の女性が真剣な目で見つめていた、何か敵意まで感じる、その敵意は私や千尋さんに対してではなく2本の短剣自体に向いている様だった
彼女はこちらの世界での活動を意識してかTシャツにハーフパンツ・パーカーといったストリートダンスでもしているのが似合う服装だ、千秋様も似たようなスタイルだがより動きやすくスケボーが似合いそうだ、香織さんはラフなワンピースを着ている
「千秋様、そちらの方を紹介していただいても良いですか?」
「私は坂本弥生、千秋の彼女よ最近あっちで運命の出会いをしたの、この世界の出身で、この身体は聖女カーリア様から譲り受けたのよ」
「初めまして、私はミネアです香織さんの身体を譲っていただきました、さっきの短剣に打ち勝ち自分が主人になるためです」
「なるほど、あっちでは魔力も豊富だし親の短剣の影響も受けるからこちらの世界で安全にってことね、ずいぶんと使いこなしているみたいね、カミラと千尋が諦めた「魔導国」の魂の呪縛も解除出来そうに見えるわ」
自己紹介ついでに千尋さんに皮肉を言っている、千秋様の彼女と言っていたけど本当だろうか?
「私も驚いています坂本様の言う様に何度も挑戦しましたが成功しませんでした」
「良ければ2本の短剣を貸してくれないかしら?詳しい事も解かるかもしれない」
「申し訳ありませんが貴女に貸す訳にはいきません、カミラ様から貴女に注意するよう言われています」
「それじゃ仕方ないわね、じゃあ推論だけ教えてあげる、親の短剣の力が強すぎて繊細な作業に不向きに見えるわ、呪縛と一緒に魂を取り込めないのでしょう、だから外部から少しずつ削らないといけない、でも子の短剣は力が押さえられいる代わりに繊細な作業が出来る、子の短剣なら貴女やヒルダでも出来るはずよ、丸太で食事は出来ないでしょう?箸ならそれが出来るってわけ、解かったかしら?」
千尋さんが少し悔しそうにでもそれ以上の嬉しそうにその話を聞いていた
「私なら、短剣の力に頼らず呪縛を解除できるわ、死霊魔術は死者の魂を呪縛して使役するのが専門なの「魔導国」の魂の呪縛も似たようなものだから解除出来るわ、必要なら力を貸せるわ、カミラに伝えておいて」
「それでエルダーリッチはダークエルフを目の敵にしていたんですね?、使い方次第で彼の軍団を制御不能に出来る、このことを教えて大丈夫なんですか?」
「正確にはその短剣を目の敵にしていたが正しいわ、私の軍団はゴーレムに切り替えが終わっているから平気よ人間相手にアンデットを使う時に邪魔はしないでしょう?少なくともカミラやヒルダが私の手柄の邪魔をするために魔王軍の戦力を低下させることはしない、カインだったら判らないけど」
皮肉交じりで険悪になりかねない話だったけれど坂本さんは平気な顔だ、伝えて構わない情報と伝えたい情報だけを選んで話している、坂本さんは魔王側の人間なのだろうか?そんな人がどうして千秋様の彼女なのだろう?
「ミネア、貴女がまだ知らない事が有るから説明するわ、カミラやヒルダと話してヒルダに魔王になって貰うことにしたの、私に喧嘩を売って来た時に返り討ちにしたついでにね、そのうえで和平を結ぶわ、弥生はエルダーリッチの後継者だけれど聖女カーリアとの縁があり和平を維持するために協力してくれるの、香織は2つの世界を越えてヒルダと姉妹の関係だし共にカミラの娘と言ってもいい二人の関係も和平を後押ししてくれるわ」
「弥生が彼女と言うのは本当のことよ、状況次第では5年後に世界をかけての戦いをするかもしれない相手でもあるけどね、だからこそ私の彼女になれるの、私も相当だけど、彼女は私以上に冷徹になれるのよ、世界1つをゲーム盤にしても平気でしょうね、でもそれ以外の方法で付き合っていくつもりでいるから安心してちょうだい」
安心など出来る訳がない、ドン引きだ、香織さんや千尋さんも引いている、のろけ話のように話す千秋様の横で坂本さんがまんざらでもないような顔をしている、この二人に私の故郷を任せなければならないことに恐怖する、この世界から魂を召喚する事の罪深さを理解できた
「痴話げんかは二人だけでして下さいね、世界を巻き込まないでくださいよ」
引きながらもしっかり突っ込みを入れてくれる香織さんが頼もしい、勇者として私の故郷の平和を守って欲しいと願わずにいられない、流石この世界から召喚された魂だと思った、千秋様と坂本さんのようにはならないでください、まともな彼氏と出会わせてあげて下さい、もし駄目ならせめて「法王国」の人間であれば彼女でも構いません女神様お願いします




