193.地下の森
圧力をかけていた事と族長としての重責で相当疲労が蓄積していたのだろう、浅い眠りから一度目を覚ました後には安心して熟睡し古エルフの族長は2日後に目を覚ました
此方の立場と方針を伝えた後自身の森に戻り部族内の意見統一をしたいとの事だったのだが結界内に戻る事すら残して来た同族に拒絶された、洗脳や肉体の乗っ取りを警戒しての事の様だ、魔王やダークエルフが今までに様々な方法で結界を突破しようと試みたのだろう
脅しのため私達がダークエルフの族長であるダフネ殿と会談した事が疑心暗鬼を生じさせてしまったかも知れない、私が思う以上に深い溝が存在する様だダフネ殿が簡単に引き揚げたのはある程度目的を達成したと判断したからでも有るのだろう、会談を成立させる事そのものが目的だったのかも知れない
途中で明らかに会談を決裂させて戦闘に持ち込んで追い返すのが正解だったのだろう、急いでこちらと接触しないといけないと思わせたかったので途中まではうまくいっていたが族長には迷宮で休息させ方が良いと時間を空けたために余計な疑念を生んでしまったのだろう
「ロラン殿申し訳ないのですが、結界内のエルフ達は貴方が既に死亡したか操られていると見なされているようです、可能であれば他の有力者達とも会談したのですが安全に接触する方法に心当たりは無いでしょうか?」
何日ぶりに、いや何年ぶりかの深い睡眠から目を覚ました後に聞かされた話は衝撃であったが最悪を想定すればそう決断されても仕方が無いことであった、別の者を使者に立て私が結界内に残っていたとしてもその疑念に捕らわれただろうと思からだ、族長であれば可能な決断も部下に望むのは酷だったのだ
今私が冷静に考えられるのは一度死んでも仕方ないと生を諦めたからだ、古エルフとして永遠に近い命を持っている故に身近に感じる死の予感は耐えがたい恐怖となって心を蝕んでいた、その命も世界樹の加護があってのモノである
だがその恩恵が得られるのは一部の選ばれたののだけだ、その上結界の維持に世界樹の蓄えた魔力や精霊力を使っているために更に限られた特権となっている、私はまだ自分自身の寿命はまだあるが、長老達は本人の寿命以上の命を享受している
いずれ選ばなくていかない時が来るのだ、次の世代のために引き延ばされた命を手放す時を、それは結界に籠る事を選んだ時には遠い先の話しと思っていた、20年近く前のその時は十分に余裕があると思っていたのだ反撃の機会が有ると
最初に犠牲となったのは結界の外の森だ魔王やダークエルフの手による侵食も原因の一つだが結界の破壊するための攻撃による被害を修復するための力は気付かない内に周囲から力を吸い上げていたのだ、いよいよ限界が近づいた時に彼女達が現われた
もう少し早く接触していればもう少し多くの選択肢が残っていた筈なのに、残念でならないだがまだ手遅れでは無い筈だと解決策を思案するが良い考えが浮ばない、どうしても悲観的な考えがよぎる心の奥に失出来ないという恐怖が刷り込まれている
「外部に結界を張り警戒する必要が無いように安全を確保してからの方が無難でしょう、10日もあれば準備が整います、落ち着かないとは思いますが迷宮の中で過ごして下さい安全は保障いたしますので」
人間の女が言う
この世界の魔王を打ち取った別の世界における勇者なのだと言う、精霊魔法で私を越える使い手に初めて出会った、驚いた事に魔王を倒した者は別に居ると言う、その世界には彼女以外に私以上の力を持つ古エルフの女性が結界の外の森を再生してくれている
「そこまでして頂き、どの様に礼を言って良いか分かりません必ず恩に報いたいと思っています」
不思議な事に好ましく思っていない筈の人間に自然と感謝の言葉を伝えていた
「その恩はこの世界の人間達に返してやってください、それが出来る場を用意いたしますので、勝算のある盤面を整えて見せましょう、賭けをさせるつもりは無いので安心してください」
その言葉に信じても良いと思える力があった
この世界の人間達と何が違うのだろうか?彼女が勝利を疑っていないからだろうか?明らかに私が知るこの世界の勇者とは別の存在だった
弥生様の指示でこの世界への回廊を築くために迷宮を創造していたがあたちにも得るモノがあった、この世界のハイエルフが籠る結界の近くに迷宮を拡げていったが思った以上に素晴らしい立地だった、流石に世界樹の育つ森だけあって霊脈も水脈も太く豊かだった
結界を維持するために多くの魔力や精霊力を吸い上げていたが周囲から流入する事で何とか枯渇する事は無い、カオリママが地形を整えるために地下から大地の礼霊力を引き出したお陰で不足がちだった状況も改善された
地上から生き延びていた植物の苗や種を迷宮内で植樹用に育てるために利用している、迷宮内に魔法で陽光を取り込み、サンプルを採取した害虫に耐性が付くように品種改良もしている、そしてあたちが卯月の花粉で実らせた種から育った苗もこの迷宮に移植した
今や結界の周囲を囲うように迷宮を拡張し円形の迷宮が拡がっている、それにより霊脈水脈の恩恵を最大限に享受できる事が出来るようになった、魔力と精霊力に満ちた素晴らしい環境だ利用しない選択など無い、その効果は抜群で素晴らしい成長を見せてくれている、土から出て来るのが楽しみだ
集めた陽光から光合成して霊脈に魔力を還元しているのでハイエルフの森への魔力や精霊力が減少する心配も無い、むしろ枯れた周囲の森の代わりにハイエルフの森に恩恵を与える事が出来るまでに迷宮内に森が形成されている
植樹するのではなく迷宮ごと地上に露出させればそのまま森に出来そうだ、守護役となる蜂をはじめとする昆虫も順調に育っているこの森を傷つけようとする馬鹿は肥料になるのだ、あたちを良く思っていないドライアード達が驚く顔を見るのが楽しみだ




