192.熟睡
自称ハイエルフの族長がヒルダ様の前に跪いて頭まで地面に擦り付けて命乞いをしている、自分の命では無く部族の命を助けてくれと言うのが救いではあるが、別の世界とは言え同じハイエルフとして何とも言えない情けなさを感じる
いやこいつ等は古エルフというハイエルフとは別の種族なのだ誇りも無くただ長く生きただけの老廃物だと現実逃避した所で現実は変わらない
「お前が命を捨てて守りたいのは何だ?死んだからと言って自分の判断の誤りが消える訳では無いぞ、責任の取り方はその様な楽な道で無ない、何年も年輪を重ねる様な積み重ねだろうか!」
自分の過去の過ちを思いだしながら叫んでいた
この男は事の責任を自分だけで抱え込もうとしている、私と方向性は逆だが責任と真っすぐに向き合わず逃げようとしている事に違いは無い
私の言葉に反応して頭を上げ呆然としながらこちらを見ている
「お前は今まで誰に生かされて来たのだ?恥を知れ!ここでお前が死んだとしてもアンデットの様な森を穢す化け物に成り果てるだけでしょう、どうせなら魂を世界樹に捧げて結界を維持する精霊力に変換された方がましでは無いですか?」
「何処に私達を信じる根拠が有ると言うのですか?贅沢に無駄死にする余裕がお前たちの何処に残っていると言うのですか?」
予想もしない言葉に男が固まっている
「セシル、止めなさい言葉が過ぎます、彼を縛る重責が狂わせたのでしょう、その首にどれだけの価値が有ると言うのか?それすら分からなくなっているのです、可哀そうでしょう」
ヒルダ様が無自覚に私より残酷な事を言ってのけた
この場合憐みの方が彼の心を傷つけるだろう、事実彼の最後のプライドが砕かれた様だ、ブツブツと何かをつぶやいている
「見なさい、こんなに心を削られているじゃないですか、彼に謝罪しなさい」
待って欲しい
この上私が謝ろうものな彼の精神は崩壊してしまうのではないだろうか?
「眠りなさい彼にはには休息が必要です」
カオリ様が彼を魔法で眠らせてくれた
「セシル、彼が起きたら誠心誠意謝るのですよ」
ヒルダ様が私に言う
それで良いのだろうか?謝るべきなのはヒルダ様では無いだろうか?納得がいかないがカオリ様の神聖魔法で精神も回復しているだろう、私が自分の暴言も含めて彼の心を砕いたヒルダ様の言葉につい謝罪しよう私とヒルダ様で心を砕いたのは間違いない
それぞれの言葉は共に彼を励ます効果もあった筈だがその言葉をかける順序とタイミングが最悪で負の相乗効果を発揮してしまった、言葉の温度差が彼の心にヒビを入れたのだろうカオリ様が眠らせてくれたお陰で最後の止めをささずにすんだ
「困ったわ交渉どころではなくなってしまったかしら?」
カオリ様が苦い顔をしてしている、古エルフの森の結界はまた強く閉ざされてしまった
「いっそのこと結界を壊した方が早そうね、その前に整地を終わらせてこちらで結界を張りましょう、南に隕石を落としてくれたお陰で工期が短縮出来そうだわ、後一週間くらいかしらそれまでに中から接触があればよし、無ければ力技を使うしか無いわね」
今までが穏やかな交渉とでも言いたげな台詞を吐きながらカオリ様が工事を再開した
南の隕石が落ちたクレーターには雨のお陰で水に満たされていた、どう見ても脅し以外の何物でもないだろう、2人のやり方は異常だがそれに付いていけるドライアード異常だ、ある意味この世界のエルフに対して一番厳しい評価を下しているのは彼女だろう
私が守らなくてはいけないのだろうか?私もハイエルフの森を飛び出した異端者に過ぎない、それでもダークエルフに亡ばされるよりは良いだろう、先ほど散々偉そうな事を言った手前放り出す事は出来ない最後まで付き合う事にしよう
気が付けば寝台に寝かされていた不思議な空間だ木々が生い茂り日の光も感じるが少し不自然な精霊力に満ちている、結界で外と隔絶した自らの森に近い雰囲気でもある
「お目覚めになられましたか?主を呼んで参ります」
少女の様な植物の妖精が駆けて行き転移してもいないのに木々の中に消えた
「気分はいかがですか?異世界の世界樹の守護者殿」
すぐにドライアードが現われた
迷いの森の様にどこかで別の場所に繋がっているのであろう、先ほどの妖精が消えた付近から現れた様に見える
「ここは何処なのです、あなた方の森の中でしょうか?」
感謝の言葉を告げた方が良いのかも知れないがどの様に接して良いのか分からない、このドライアードが先ほどの妖精を複数引き連れて儀式魔法を使っていた
精霊魔法と神聖魔法の中間のような術式に感じた、推測でしかないが力を持った魔人や上位精霊あるいは神獣が信仰を集めて神格を得た存在の助力を得る儀式なのだろう
「私どもの世界の女神に導かれた勇者の従魔が創造した迷宮の中です、多少妖魔よりな忌々しい妖精のスキルの効果ですが有用性を認めざるを得ません、忸怩たる思いも有りますがうちの妖精にも再現出来る様にしておりますがここまでの環境を造りだせずにいます」
容易には信じられないが事実なのだろう
言葉に滲む口惜しさも、隠さない嫌悪感も演技とは思えないものだった、そう言えばダークエルフも共に行動していた、一定の協調関係は有るのだろうが完全に融和している訳では無い様だ
正直安堵している、その恐れがあったからこそ私が生贄にされる様に結界の外に出る事になったのだ、その判断を強制したのが目の前にいるドライアードの行使した儀式魔法だ、北部で火山を産み出していた人間の女が勇者なのであろう
彼女が魔王を討伐しエルフとダークエルフの仲立ちした、あるいは双方を支配して世界を女神の名の下で世界を一つに統一まで持っていたのかもしれない、愚かにも私達の世界の魔王がその世界に手を出して返り討ちに有ったと考えれば一応現状の説明が付く
森の再生をしてくれていエルフが勇者の仲間なのだろうかそうであれば我々にとってこの上ない僥倖であろう、そうでも無いと態々別の世界に来てまで死にかけた森の再生などを行ってはくれはしないだろう、フェニックとは言え火の精霊を使役していたのは残念だ
しかしその思い切った選択が魔王に対抗で来た要因でも有るのだろう私達には出来ない選択だった人との共闘もそうだ一部のエルフだけが人間と共闘していたが私達古エルフは人間とも争った事を記憶しており人間など多少文明を知ったゴブリンと認識してる者も居るのだから
「もう少し休養された方が良いようですね落ち着からたら声をおかけください、この者を残しておきますので」
無言で考え込んでしまった私をみて疲労が残っていると判断したのだろう先ほどの妖精を残してドライアードが離れていった
その対応に余裕が見える、結界の中でさえ周囲に気を配り落ち着く事が出来ず蓄積していた疲れが再び私を眠りの中に誘った、不思議と警戒心まで消えていた




