178.研鑽
「こんな事になる筈じゃなかったんだけどね」
ため息と共に愚痴が出る
「どうしたんでち?」
アンジュが興味深々に聞いて来る
「適当に持たせた魔剣がインテリジェンスウエポンだったせいでシナリオがぶち壊しになったのよ、そろそろ裏ボスの出番とたのしみにしていたのだけど」
「多分あれでち、最近出会った迷宮が創造した魔剣でち」
アンジュが聞き捨てならないな事を言い出した
「意思を持つ迷宮なんてあるのね、長く存在する迷宮が付喪神化したの?」
詳しい事を聞くとなかなかに興味深い
「魔術師が意思と魂を自分の迷宮に封じて永遠の命を手に入れていたでち、あたちが会った時はエルフの子供を器にして対応してくれたでち」
随分思い切った事をするモノだ
ある意味リッチの最高到達点だろうか、神仙になったダリアに近いと言えるかもしれない
「これは魔王討伐と言えるのですか?」
卯月が聞いて来た
イライザや香織・ニブルヘイムと言った強者が連絡を受け魔剣に挑戦する様だ、アンデットは命令を待ち待機したままで私が与えたゴーレムも完全に掌握している、アンジュが会ったという迷宮は元々は高位の錬金術師だったのだろう
「弥生、これどうするの?もう勝負どころじゃないでしょ、一応香織が魔王討伐を達成した事にして終わらせる?」
千秋も呆れて私のところにやって来た
「誰も魔王に追随しなかったね、この程度で釣れる様な馬鹿はもう存在できないみたいね」
「そうね、10年くらい平気で潜伏出来るのでしょうね、我慢強さと実力は比例するだろうからこの程度じゃ釣れないみたいね」
進行する一対一の勝負を見ながら反省会が始まった
アンジュが食事や飲み物を持って来てくれる、反省会は次第に差試合観戦に移行していった
「ニブルヘイム様、私に勝利を捧げて下さいまし」
美咲がオペラの台詞じみた言葉をかけてくる
久しぶりの古巣でもある魔王城だ愛する妃に勝利を捧げたいのは美咲の言葉を聞くまでも無い事なのだが相手が悪かった、魔王クラスの魔人の死体を神聖魔法と暗黒魔法を併用して活性化している様だ、中の魂は人間の様だが魔剣が完全に掌握して身体の性能を100%引き出している
通常はそんな使い方をすれば身体負荷がかかりすぐに使い物にならなくなるのだが、再生能力で無理矢理それを防いでいる、魔人の身体に剣技と知性を維持したバーサーカーだ、振るわれる魔剣も一級品だ、せめて魔王だった頃の力があれば対抗できた可能性もあるががじわじわと追い詰められていきついに私の剣が弾き飛ばされた
その上止めも刺さず魔剣の興味はもう次の対戦相手に向けられている、失望と安堵の混じった目で美咲が我を見つめていた、油断も失策も無かった筈だ、完敗だ再戦した所で勝算など無い、「格付けが済んだ」と言うやつだ、これ以上の屈辱を今まで味わった事は無い
「次は俺の番だ、これが最高の剣だと思っていたが弥生が手を抜いていたのだろう、お前を俺の剣に迎えてやるからな」
私の戦いを見た後に自信満々でイライザ殿が勝負を挑む
最初からフルで身体強化のスキルを発動させている両手や腕に竜の様な鱗も見えた、竜化のスキルだろうか?正面から互いの剣を打ち合わせて激突する、そのまま力比べになりお互いに譲らない
「良いなお前を自分の手で振るう時が楽しみだよ」
そう言うと力を緩めて相手の魔剣を右肩に受けながら筋肉と治癒魔法で傷を塞ぎ抑え込んだ、自由になった自分の剣を魔王の左胸にに付き刺す、心臓の位置だ
「魔剣に籠められているスキルは此方の方が優れているみたいだな」
口から血の泡をと共に言葉を紡ぐ、魔王の動きが止まった
「魂が無ければ身体を動かせないみたいだな、これで俺の勝ちだ」
魔王の手から魔剣が離れた
「香織、悪いがお前の出番は無しだ」
右胸に刺さる魔剣を引き抜いて左手で柄を握る
「俺の身体を支配しようとはしないのだな、香織のかけてくれた精神支配耐性の神聖魔法は要らなかったみたいだ」
「素晴らしい、良いモノを見せて貰った、僕の創造した魔剣を使いこなせる者が存在するとは思いもしなかった、アンジュ殿の強がりと思っていたが世界は広い、いや私の世界が狭かったのだろう」
ゲートを開き自分の自慢の傑作を握る人間を見上げる
僕の魔剣に使われる人形ではなく、魔剣を使いこなせる人間の存在に驚愕した、人に使いこなす事の出来ない魔剣はある意味失敗作だが、作品に自分の技術の全てを込めたいと言うのは僕の我儘なのだろう、錬金術師として間違っている事は自覚しながら持ち主に合わせて手を抜くことは出来なかったのだ
「其方があの妖精の主人かな?私の作品を贈りたいが、己の身体だけで完成していると見える、僕の出る幕は無い様だ」
素晴らしいバランスだが道具を使いこなす余白が無い、人間の形をした神獣と思った方がよさそうだ
「貴女がその魔剣の創造主ですか?」
1人の女が転移して声をかけて来た
この女も錬金術をかじっいるのだろうが専門分野が違うのだろう、そして多くの分野に手を伸ばしている様だ
「総合的には僕を越える魔導士みたいだね、初めての出会いだ、妙なスキルが無ければ共に語り明かしたいのに残念だよ」
「私も残念です、私は器用貧乏で一つの道を究めた方の知見を得たかったのですが」
実力者の余裕を感じる、あまり自分の知識や力を誇示してこないところに知恵も感じる
「突然庭先に足を踏みいれた事を許してほしい?興味が湧いて我慢出来なかっんだよね」
挨拶も済んだし引き揚げようか
「折角だしお互い交流すれば良いでち、ゴーレムか使い魔を介せば弥生様のスキルの発動条件を満たさない筈でち」
僕の迷宮を訪れた妖精も姿を現した
「今は研究対象に困っていなくてね今回は挨拶だけにさせて貰うよ、縁が有ればまた機会もあるだろう、お互い時間には追われていないだろう、私は神では無いがね」
この言葉で何か反応が有るのではと期待したが空振りだった
「私の弟子が貴方の魔道具に興味を持っているわ、交流をしたいなら彼女とやって頂戴、この子と違って私の血だけで育てた子もいるのよ」
あんな妖精がまだいる様だ弟子を育てると言う意味では完敗だ
「良ければ種を分けてくれないか血は与えられないが僕の魔力で育てれば新しい種族が誕生するかも知れないからね」
社交辞令で返事を返した
僕は臆病なのだろう、自分の越えて成長する弟子など怖くて育てる気にはなれない、ただただ自分の力を磨き知識を収集してきた、それでも自分を越える存在が居る事は良い刺激になる、僕はもっと強くななれると教えてくれるのだから、人のままですぐ隣にそんな存在と共に競う事が出来ていれば弟子持ち違う道を歩んで人生を全うしてのかも知れない
それは勇気を持てず、他人を信じる事が出来無いまま機会を逃した僕には眩しすぎる生き方だ、敬意を持ってそれ以上の成果をあげ続けよう、嫉妬を含めて感情は目を曇らせ判断を誤らせると切り捨てて来たのが今の僕だ、正解は一つでは無い、違う頂を目指して歩みを止めずに終わらない山道を登り続けていくのだ




