170.後方支援
無事に二度目の和平の継続が決まった、前回の様な問題も起きず安心出来たこの功績を持って私は最高司祭の地位を継いだ、先代は満足して私に後を託して穏やかに天寿を全うした、強引に引き延ばしていたが年齢は重ねていたが身体は美しいままだった、私もこの様に安心して後継者に引き継いでいきたい
「セーラおめでとう、いや重責を抱える君にとってはただ喜ばしい事だけではないかもしれないね」
ユリアン殿が祝辞と労いの言葉をかけてくれた
社交辞令では無い心の籠った祝辞は少なく純粋に嬉しい言葉だった、もう一人純粋に祝福してくれる者がいる
「セーラなら上手くやって行けるよ、ユリアンが支えてくれるなら安心だ」
共に魔王を討伐した勇者である千秋だ
今も使徒として女神様に仕えており、今回は本神殿に降臨してくれている
「弥生様が和平を纏めて下さいましたが、千秋様はどの様な目的で降臨を?私を祝うためだけでは無いのでしょう?」
「様は要らないよ、パーティーを組んでいた時の様に千秋で良いから」
「流石セーラこれから楽しいゲームを弥生とするの、2人はわたし側に立って活躍してもらうからね」
千秋に問うと本当に楽しそうに頭の痛い事を言い出した
「千秋様、詳しい事を説明して下さい、危険な火遊びではないでしょうね?」
ユリアンが千秋に疑問をぶつける、明らかに危機感を感じている
「大丈夫だよ、弥生が適当な噛ませ犬の魔王とその軍団を用意してくれる、訓練みたいなモノだよ」
無邪気に、そして事も無げにとんでもない事を告げられた
「出現から一週間で魔王を討伐できれば私達の勝ちだよ、期限を超過すれば弥生の勝ちだ、勝負に負けても弥生と二人で処理をするから安心していいよ」
迷惑な話だ、現世を何だと思っているのだろうか
「まっておくれよ、勿論現世にもメリットがある、弥生との勝負はついでのお遊びだよ、落ち着いて聞いてくれないか」
私達2人の反応に気付いたのだろう、言い訳をしてくれるらしい
「本当の目的は別にある、まずは燻っている和平に対する反発の解消だ、魔王が出現して人間に攻勢をかければ人間を憎む者は同調するだろう、潜在的な敵を炙り出す事が出来る、殆どの者は大丈夫な筈だが香織が従えている魔物についても踏み絵として活用できるだろう」
「次に法王国内にも不満を抱えている者がいる、ガス抜きにもなるだろうし、討伐の筋書きが出来ている、被害も最小限だ人心が離れる事は無いだろう、そして今回の討伐で次の最高司祭の後継者に武勲を立てさせる事が出来るだろう、才能は間違いないが経歴に傷が有る者が居るだろう?」
千秋は言い訳からはじまりプレゼンを始めた
もう引き返せない状態でもあるし確かにメリットは大きい、事前に相談して欲しいと言うのが本心ではあるが今更言ったところでどうにもならない事だ
「仕方ありません、今回は協力しましょう、今後は先に相談して下さい、ジョアンの時もそうでしたね、三度目は無しで願います」
ユリアンが千秋に釘を刺した
だがジョアンの時とはどういう事だ聞き捨てならない話だ千秋の表情が固まっている、今までの様な楽しそうな空気が消し飛んでいる
「ユリアンどこまで知っているの?」
千秋が顔を凍り付かせたまま尋ねる
「ユリアを通してヒルダ殿から聞きました、安心して下さい、千秋様の知らない朗報もありますので」
ユリアンが聞いたという話を語ってくれた
千秋がダークエルフの族長であったカミラと密約を交わし魔王討伐のパーティの戦士だったジョアンを停戦の見返りとして暗殺させたこと、ヒルダ殿が人間だった時にカミラの指示で暗殺を実行し奪った魂をカミラに奪われていた勇者エレノアン魂と共に彼女の故郷である異世界で解放した事、2人がその世界で人間として転生した事を聞かされた
「そうだったのね」
千秋の目に涙が浮ぶ
喜びなのか安心なのかは分からないが凍り付いていた表情が少し柔らかくなっていた
「ヒルダに対してはカミラと共に貸ししか無いと思っていたのだけれど、知らない内に返されていたみたいね、お釣りを返さないといけないけれどカミラの分でチャラにして貰いましょう、ユリアも奪われているしね」
千秋も苦渋の決断だったのだろう
普段なら口に出さない様な事まで話している、私達を信頼してくれているのだろうと思うが、当時ジョアンが死んだ後の実に楽しそうに魔王を追い詰めていた時の事を思い出して恐ろしさも感じた、千秋は自分を含めて必要な犠牲を払う事を厭わない
悲しみながらも感傷に流されす戦友を犠牲に出来るのだ、それでも明らかに足手まといになっていたジョアンのことも罪として背負っていた事は驚きであり更なる恐怖も感じた、もし私を払うべき犠牲と判断すれば切り捨てるだろう
「命を捨ててくれと言われれば私がお役に立ちますよ」
ユリアンがそんな事を言い出した
彼は千秋に惚れていたのだろうか?驚きと寂しさ、そして嫉妬まで感じた
「だから、セーラを道具にすることは止めて下さい、必要なら私の命を使って下さい」
喜んで良いのだろうか、悲しい事は言わないで欲しい
「信用を失ってしまったのかな、悲しいな、でも大丈夫だよ、2人は生きていた方が役に立つ貴重な人材だからさ、自身も自覚もあるだろう、そもそも私がやったことは許される事では無いよ、自分が一番分かっているさ、楽しんだ分も含めってこの世界に恩返しと罪滅ぼしをしていくよ、更に罪を重ねる事になろうともね」
思い覚悟が込められた言葉が千秋から、いや使徒チアキから宣言された
ある意味でもう私達が共に魔王討伐を成し遂げた勇者では無く女神様の忠実な使徒になってしまったのだと気付いた、今もこの世界のために戦うのは同じだが見ているモノは違うのだろう、魔王討伐のためにパーティの仲間を犠牲にした勇者は、使徒としてどんな生贄を求めるのだろうか?
「心配は要らないよ、弥生が書き上げたシナリオだ必要な犠牲など無いから、弥生との勝負との勝敗にも拘らないし、今回の魔王討伐は安全第一で進行するよ、無傷とは言わないが死者は出すつもりは無いし、出さないために協力してよ」
使徒チアキから千秋に戻って協力を依頼させた
私の考えが読まれたのだろか?顔に出ていたのかも知れない
「最高司祭としての経験は少ないけれど全力を尽くすわ、使徒の力を見せて、そして久しぶりの現世を楽しんで頂戴」
私も楽しめるだろうか?前線に立つことは無いだろう、私を越える若者が何人も居る彼らの支援が私の役目だこの年になっても前線の方が楽だと思ってしまう、最善の準備と支援を行うが手に届かない場所で仲間の無事を祈る事しか出来ない事がもどかしい




