151.包囲
移築した庭の手入れをして庭木の剪定も終わった、某自身にも変化がある、落ち着いたところで男になる決断をした、カオリ殿が調合したポーションは素晴らしいものだった、男になっても前世と比べダークエルフの肉体が人間と比較して少ない事に違いは無いが肉体強化で十分に補える
そして今日も2人の弟子に剣を教えている、アンジュと如月が某の弟子だ、しかし残念な事に今日1人を破門する、間違いなく強くなった、某から一本取ることも出来るまで成長したがもう教える事は無い、だがアンジュはついに刀を使いこなせかった、いや某が諦めた、一定の技を身に付けたがアンジュの適性は刀に無かった
そのままじっくり鍛えれば一流に届いただろうがアンジュはシャベルを持った方が遥かに強かった、二本のショベルを両手に持ち独楽のように回転し精霊魔法と併用して真空波を飛ばしてくる、いくら回転しても目を回さないし正確に投擲も出来る、下手をすれば某より強いがあんなものは断じて剣術ではない
同じ事を刀の二刀流でも再現して見せたが刀に対する冒涜だ、刀である必要もは無い、魔王城や付近の戦場から折れた魔剣や聖剣を回収して死霊魔術で剣のアンデットとして蘇らせた、届かなかった一撃を叩き込為に折れ錆びついた剣が往時の力以上の鋭さをもってアンジュの手で花開く
共に倒れていった勇者や魔王の無念を糧にして本懐を遂げる迄は彼らの持っていた技までも使いこなす、そんな化け物に剣術は不要だ、下手をすれば相棒となった刀を折られてそんな剣の仲間入りさせることになる、アンジュは手加減が苦手だ、基本となる円運動が邪魔をして寸止めなど不可能だ、間合いを外そうにも発生を止められない真空波が伴ってる
それでも某の可愛い弟子でもある、免許皆伝と言って取り繕う事も考えたが私にも前世で剣を教えてくれた師がいる、その名を穢す事は出来なかった、正直某は師の腕前を越えているが弟子を鍛える師匠としては超える事はまだ出来ない様だ、如月を鍛えて師を超えて見せよう、アンジュにシャベルを与えたカミラが憎い私がもう少し早く出会っていれば違う結果になった筈であろうに無念だ
「仕方ないでち、師匠は将棋でも繋がっているから今後も師匠と呼ぶでち」
私の破門の宣告にあっけらかんと答え
「他流試合の出稽古の相手をしてもらうでち、師匠、板と筆そして墨も用意するから看板を用意するでち」
何処で仕入れた知識だろうか不思議な事を言い出した
「たわけが、師匠相手に道場破りをする馬鹿が何処にいる?」
「それなら破門を解くでち、刀は刀で学びたいでち」
小賢しいことを言う、やはり可愛い弟子だ、アンジュの破門は3分で終わった
「アンジュ、これからは如月を姉弟子と呼ぶのだ、剣術だけなら如月が上だもう一度一から鍛え直してやろう」
アンジュが愕然として落ち込んでいる
「アンジュ様、私にアンジュ様の技を教えてください、私も一度破門となればアンジュ様が今まで通り姉弟子ですから」
何と言う茶番劇だ呆れるのを通り越して笑いが込み上げて来た
「そんな事を言う奴は望み通り破門にしてやろう、アンジュの技を習わないと誓うなら再び弟子に向かえよう」
某も茶番劇を演じる羽目になってしまった
折角鍛えた技が邪流に汚されては堪らない、某もアンジュの技を破る技を編み出さなけれならない様だ、このままでは弟子に胸を張って指導も出来ない、そんなやり取りも楽しいと思えるとは、身体はポーションの効果もあり若い状態を保っているが心は随分年を取ってしまった様だ
この世界の実力者や権力を握る組織を探らせている、配下に施した呪術を通して並べた水晶玉に画像が映されている10人の手練れを連れて来た、内半数は目的を果たしこの廃城に帰還しているが1人は画像を写しながら館に侵入したあと逆探知されすぐに反応が消えた
明らかに異常な場所だった周囲の平地で人狼が牧場を造り食料を生産している、牧畜を営む人狼など初めて見た、そこではオークが野豚に種付けをしていた、そういえばこの世界にオークの姿を見ない、あの忌々しい生き物を見ないのが不思議だったが絶滅危惧種の様に扱われていようだ
滑稽で笑える、同格の将軍にこの様子を見せてやりたい、楽しそうに腰を振る姿は哀れですらあったがこちらに視線を向けた様な気がしたが勘違いだろう、その後近くの森の中に見えた館に向かいこの世界で初めての未帰還者が出る事になった、嘆かわしい未熟者とキリ捨てるにはいかない異変だった
想定外の化け物が潜んでいるのかも知れない記録の前半だけを提出して先のオークの惨めな姿を晒そう、気に入らない馬鹿がこの場所を担当すると言い出すだろう
少し離れた場所にダークエルフの森もあったこの世界の同族が弓を捨て妙な武器を使用していた接近した部下が警告にこちらの射程外から弓の弦を切断されたため内部まで調査出来ていない、そして世界樹の若木を育てている森もあったこちらはこちらで魔術的な結界が強く調査どころではない
まあいい、報告しなくて魔王も細かい事と気にもしないだろう、重要な任務はこの世界の魔王の動向だ存在しているのか否か、いないなら討伐されたのか?それともこの世界を掌握しているのかだ、討伐されたのであれば討伐した者の正体を調査しなければならない
この北に神殿があり恐らく神権国家の軍事的な拠点が築かれている軍勢の数は対した事は無いが質が異常だった、私達の世界で言えば勇者を務められる者が20人は認められた、このに神殿を境にして魔王の支配領域と人間の国が存在しているが双方の間に交流が有ることが分かった
どうやら魔王は人間の女魔術師で女神を信仰する人間の国と共存する道を選んだようだ、ダークエルフの族長もこの城に滞在して呑気に子供を育てている、調査の結果和平を締結して10年が近付いている、戦いを忘れるにはまだ早いが平和ボケして気が緩みかけていると見える
次の狩場として相応しい世界の様だ、途中で少し豚共が痛い目にあえば面白い、人間の国家の中で最大の戦力を抱える神権国家の中心も侵入こそできなかったが気の緩みが目についた、予定の調査時間は観光気分で息抜きをしようと私までこの世界の温さに気が緩んだ所にこの廃城が包囲されていた
殆ど仕事を終わらせ1人の真面目な部下が辺境の森で細々とダークエルフが暮らしている場所を発見した、この世界の同族の中で和平を快く思わない者だろうか?その中に私から見ても強力で魅力的な男が鍛錬をしている、その映像を送って来ていた部下の反応が消失した2人目の未帰還者だ
引き際と見るべきか追加の調査をするべきか悩んだまま他の部下に帰還を指示し集結した所を狙われた、明らかに一網打尽にして1人も逃がさないという意図が見て取れた、見落としが有ったのだろうか?最初の未帰還者が生きていて口を割らされたか?
私らしくないミスだが魔王からは禁じられていた狩りを楽しむ理由が出来る、こんな事が出来る相手だ楽しませてくれるだろう




