149.前戯
余りに不思議で夢の様な奇跡だった愛しながらも幸せに出来ないまま先立ってしまった俺が最盛期の力をもった若い肉体で蘇っていた
「シグネ、君なのか?随分と可愛らしくなって」
魔王であり魔人だった愛する女が人間の外見をして目前にいた
魔力でシグネだと分かった、周囲の魔力の濃度が俺が転生し勇者となった世界だと教えてくれた、いや2人で共に別の魔力の存在する世界に転生したのかも知れないシグネが俺を見つけて記憶が戻るまでまっていてくれたのかも知れない
喜び、興奮し、少し混乱もしていただろう、シグネが今の状況と彼女の今までの歩みを教えてくれた、俺は今代の勇者と聖女の娘の力で新しい肉体を手に入れた、素晴らしいスキルで少し切ないスキルでもあった、それは勇者と聖女の歪んだ愛の産物だ
私の恩人でもある赤子が産まれるまでに不毛な戦いが繰り返されたそれを何と感じるかは、価値観によって受け取り方が違うだろうが、千夜は自分の背負うべきカルマの様に感じていた、そこまで重く受け止める様な事では無いと気にしない者も多いだろう、生まれてはいないのだから
スーパーに並ぶ特売の卵やおにぎりの具のタラコ程度のモノととらえる事すら食品と見ている分感傷的だ、当の勇者と聖女はジムで流した汗程度にしか考えていないのではないだろうか?そんな可能性を千夜は流産してしまい生まれる事が出来なかった家族と捉えている
その思いを汲み取って生まれたスキルによって俺の肉体は形作られている、そのせいだろう千夜を慈しみ守るべき妹と感じている、スキルが染め上げた意識であると、生まれたのではなくクローンの様に製造されたのだと理解していながらも俺はその思いを偽物と否定するとは出来なかった
それを偽物と否定すればシグネに対する愛も否定すると考えたのかも知れない、あるいは否定すれば夢の様にこの身体が消えてしまうのではないかと恐れたのかも知れない、開けてはいけない玉手箱の様に感じていた
禁断の箱を開けないためにも日本で果たせなかった事を、そしてこの世界でやり残した事だけを考える事とにした、やりたかった事やれずに終わった事、甘い思い出・苦い思い出などいろいろな事が心を満たす、そんな中意外な思いに囚われていた、俺はシグネと全力で戦った事が無いのだ
それは勇者対魔王としても男と女としても夫と妻としてもだ、聖女のスキル「寛容」が潤滑油として緩衝材として真剣にぶつかり、真の意味でお互いを理解する事から遠ざけていたと、その先に破局が待っていたのかも知れないがお互いが無意識に妥協して夫婦喧嘩すらしないままごとに終始したのではなかったのではないか?
俺たちの睦はシグネの寿命を延ばすための忌むべき行為以上のモノとはならず、2人の子供を残す事は出来なかった、シグネの分身では無く2人の子供を抱きたい2人で本当の子供を育てたいと思った、これは恐らく千夜のスキルの効果でも有るのだろう、産まれなかった家族を望んでいるのだ
同時に寿命を延ばし日本に溶け込むためとは言え俺以外の男をつまみ食いした事が許せないと言う思いも沸いてきた、俺に甲斐性が無かったのが原因の一つではあるがこのまま呑み込む事も出来ない
「ここなら拓真の故郷で出来なかった事も出来るな、不完全燃焼だった夜も存分に楽しもう、魔力も不自由しない本当に愛し合おう、お前が先に行くからお前の面影を求めて代用品で心の隙間を埋めてきたが本物がここに居る我慢など出来ない魔王として勇者を屈服させてやるぞ」
シグネにも同じ思いの様だ
シグネの言葉で俺の中の女々しい思いが消えた、女魔王らしく勇者を誘惑してくる
「その前にやり残した事がある勇者の力を魔王に示そう今まで全力で戦った事は無かった、俺たちに相応しい前戯だろう?」
「良いね!今回はあの厄介でお節介な聖女に邪魔される事は無い、存分にあの時の続きをやろう、惚れ直させてくれよ、不甲斐ない姿を見せられては百年の恋も覚めてしまうからな、2人の関係があの聖女の書き上げたお花畑な夢物語では無いと証明してくれよ!」
俺の提案に乗り、愛の証明として実力を示せと言われた
余計な事も思い出した聖女として勇者になれと俺を迎えに来て、恋心を利用して魔王討伐に誘い出したくせに肌に触れる事も許さず、最終的に俺を魔王を懐柔するための生贄にした女だ、聖女としも強い力を持っていたがやる事は魔女のそれだった
人々を扇動し戦いに巻き込んだ、魔王軍の結束にヒビをいれて幹部同士の仲間割れを起こして見せた、勇者パーティの仲間を癒すだけでは無く権力闘争に敗れた敵を癒して仲間に引き入れ、仲間だけでは無く敵の心を掴み思い通りに操っていた、シグネが厄介と言うのが分かる
シグネ様とタクマ様が暴れて大丈夫な場所が無いかと聞かれイライザ様とカオリ様の寝室?に案内した今では使わなくなり訓練で使用している闘技場だ、正しい使用法で活用されていると言って良いだろう
「カチュア有り難う、良い場所だわ拓真と遊ぶから審判をお願いするわ、貴方もそれなりに出来るでしょう?戦えなくても私達を目で追う事くらいは出来ると思うの」
シグネ様の言う様に千夜様の世話をする様になってから成長している
「いい場所だな、俺のスキルが使いやすいで場所で有難い」
タクマ様がいいスキルの効果だろう闘技場に水が満ち水面がうねり波となるタクマ様は細長い板の上に立ち水面に立っていた
「そんなスキルを持っていたのね海と言うのよね、日本で連れて行ってくれたわねサーフィンだったかしら?あなたがこの世界に迷い込んだ原因でも有るのでしょう?」
「そうだ、台風の影響で良い波が来ていたからな、そこで俺は自然に負けて輪廻の輪に帰りこの世界に流れ着いた、そのおかげて今は波は俺の仲間だ、溺れた後で人口呼吸で起こしてやるから安心しろ」
それで良いのかしら?2人の関係ではあの言葉が愛を深めるのだろか、正直子持ち悪い
「悪趣味ね、自分の死因で相手を倒すのだから、幻滅したわ、あの女も聖女もらしくなかったけど拓真も勇者らしくない戦い方だこと」
「そういうなよ、単純な戦闘力ならシグネに勝てる訳がないだろ、戦場くらい俺の有利な場所で構わないだろう」
そう言うと魔力で水を操り波を起こし板で波に乗りシグネ様との距離を詰めるいつの間にか手に三叉の銛がが握られている
「侮られたものだな、その程度のハンデなど無意味だ」
無詠唱で竜巻が怒りシグネ様が空に舞い上がる
それでもここは地下のため天井がある波の力で飛び上がり板を回してその側面で切りつける板の端に魔力で刃を形成している様だ
「甘いな空の高さに限界が有ってもやり様がある」
天井に足を付け大剣を出して板に向けて叩きつける
バランスが崩れるのを嫌って縦の様に板を両足で支えその一撃を受け流して距離を取り着水しまた波に乗ると天井に逆さまに立って構えるシグネ様と間合いを測る、重力を操作している様だが水も操作された重力に引かれてシグネ様の足場を悪くする
「うっとおしい!」
炎の魔法でまとわりつく水を蒸発させながらタクマ様を襲うが波を起こして炎は打ち消される
「楽しいな、そしてその姿も美しい」
魔力が切れたのか闘技場を満たしていた水が消えた、地面に着地して今度は剣を構えた
「次は近くで君の姿を見たい降りて来てくれないか?」
剣の戦いで仕切り直したいのだろう、魔力の総量では不利な上に今までのスキルの発動のために消費が激しいのだろう
「今まで水が邪魔でタクマの姿を見辛かった華麗なステップでも見せて貰おう」
天井から魔法を連射して回避する事しか許さない
時折魔法を剣で打ち返すが防御一辺倒で攻撃が出来ないでいたがシグネ様の魔力も無限では無い
「良い踊りだったな、だがこれくらいで息が乱れてはこの後の本番が楽しめないだろう、そろそろ前戯は終わりにしよう、カチュア、申し訳ないが空いている部屋は無いか?」
シグネ様の問いに私は倉庫にしまってある天幕を出して対応した
「ベットは俺が用意するよ」
タクマ様がと水で寝台を造っている
私は引き揚げて後は2人だけにした、イライザ様とカオリ様と比べれば静かな前戯だ床に傷も付いていないが本番中に興奮した2人に巻き込まれたくはない




