146.帰郷
「如月、首尾は如何であった?」
師匠の九十九様から今回の里帰りの結果を聞かれた
「目的は果たして参りました、全て問題なしです」
「ならば敵の首を見事に取ったという事で良いのだな?」
私の返事に本気なのか冗談なのか分からない質問が返される
「自分の墓前に首を供える事はしておりませんが死ぬより辛い裁きを受ける様に追い込んできました」
「そうか、其方がそれで満足したので有ればそれも良かろうて、見事であった我が弟子よ」
合格点を頂いた様だ
出発前に「敵を取るまで帰参はまかりならん」と言われていたので、機嫌を損ねるかと思って怖かったが安心した
「ではこの後はこの迷宮で仕事を覚えて貰おう、米を作れ」
妙な事を言われた
「何と言ったかのう、スローライフじゃったか、親は豪農なのだろう、転生したとは言え、世界は違えど親の仕事を継ぐのは最大の孝行であろう」
豪農?確かに父は北陸で農場法人を造って米作りをしている
だからといって米作りが出来る訳では無い、兄が跡を継ぐ予定だ、私の役目ではない、立派な仕事だと思うが自分に米作りの経験は無い
「九十九様、申し訳ないのですが私に米作りの経験は有りません、父の跡は兄が継ぐのです、私は東京に、九十九様の時代で言うと江戸に出て奉公に出る為の勉学を修めていたのです」
「そうじゃったのか?男に現を抜かして死んだのではなかったのか?そうであろう、この世界で戦いに身を置くには些か覚悟が足らぬように思うのじゃがどうじゃ?」
痛い所を付かれた
もし物理的に敵を討てば別の道が有っあのだろうか?確かに剣や魔法について指導してもらったが覚悟が有るかと言えば自信を持って返事は出来ない
「大丈夫でち、如月には「迷宮管理」と「ビーストテイマー」のスキルが有るでち、家畜に耕して貰えるし、卯月から錬金術の才能を受け継いでいるからゴーレムを作成して指示を出すだけで済むでち、慣れれば余裕も出来るから平和に果物を育てたりポーションや魔道具を作成して暮らせばいいでち」
アンジュ様が言って下さった
確かに平和な田舎暮らしが私には合っているのかもかも知れない、背伸びして上京した挙句に情けない最後を晒してしまったのが私の前世だ、香織様のお陰て親に謝り別れを言う機会も頂いた前世の事を忘れる訳では無いがこの世界で自分の居場所を造り上げていこう
「初めまして、犬飼千尋と申します、お願いが有ってまいりました」
私の住むログハウスを訪ねる者がいた
有り得ない、人間風情がここに来れる筈がない、この世界にも力を持った者が居るが基本的に魔力が無い世界で私の結界を破れる程の物が居る訳がない、それどころかこの女は結界をすり抜けてインターフォンを鳴らすまで私が気付かせなかった
それならばこの女は同郷の者かあるいは別の世界から来たものだろう、もしかすればこの世界が魔力のあった時代が存在していてその時から生き残っている神に近い者だ、前の所有者が残していった食器が有るので自分用の茶で歓迎するか、この茶を飲めるか否かで実力も把握できる筈だ
歓迎すると返事をして招き入れた、この客は普通の人間が飲めば最悪死もあり得る茶を平気な顔で飲み干した
「順番が逆になっしまいましたが挨拶の品をお持ちしました、お納めください」
漆塗りの箱に入ったガラスの小瓶を渡された
さっき迄何も持っていなかった、招き入れる際に確認している、空間魔法か次元系のスキルだろう、魔力を感じなかった事を考慮すると後者か、面倒だ聖女の力で結ばれた勇者もアイテムボックスと言うスキルを持っていた
私が最後まで看取った最初で最後の男だその勇者との間に自分自身を産んでこの世界で身体を変化させないでに暮らせる肉体を手に入れた魔力の無い世界で変身を維持するのは困難だったからだ、共に暮らすにはお互いの寿命が違い過ぎた、私が人間の精気を集めて勇者に与えれば延命も可能だったがそれを勇者は認めなかった、こんな結末を迎えるのであれば共にこの世界に来るべきでは無かった
愚かな自殺者の戸籍を手に入れ惚れた男の面影を求めて子供を産み男の力を吸い上げた、そしてその子供の力を奪って生き永らえた、もう十分だ今度は娘に私の力を託してこの命にしがみつくのを止めよう未練がましく縛っている勇者の魂と共この世界で生まれ変わるの事を願う様になっていた
「さて、ここまで辿り着ける者がどの様な願いが有るのか聞かせて下さい」
正直対して興味は無い聞くだけ聞いてみようかと言う所だった
「シグネ様、貴女のお嬢様の力をお貸りしたいのです」
何故私の魔王時代名を知っているのだ
いや、そうか今の魔王の使いか、それならば有り得ない事ではない勇者や女神に対抗する戦力が必要なのだろう
「おかしなことを言うではないか、あの娘は未熟者だこの世界に馴染み過ぎて大した戦力にならない、このままでは5年後に私の糧となるだろう、条件次第ではあるが私が手を貸そう、心残りではあるのだ勇者をこの手で倒し損ねている」
良い事を思いついた
思い人を怒らせるかも知れないが相応しい肉体を手に入れられるかもしれない、勇者の魂を食らい残った身体を有効友好利用できる、こんな所まで来て戦力を集めているのであれば良い地位を得られるだろう
「誤解させてしまったようですね。私が欲しいのはお嬢様のこの世界での能力です、弁護士としてのお嬢様をスカウトしたいと思っておりまして許可を頂きに参りました」
「先ほどの土産のポーションでお嬢様を吸収せずとも肉体と魂の寿命を延ばすことが事が出来る筈です30年程貸して頂きたい」
面白い話だ
5年では届かないだろうが30年の時間があれば娘が私を殺せる力を得ているかも知れない
「条件が有る、その30年の間に娘を育てて欲しい、逆に私を吸収出来るようにしてくれれば良い」
「良いでしょう育てて見せましょう、ただしその望み以上の成長をさせるかも知れませんよ、例えば貴女や貴女の勇者の魂を産み直せるところまでとか」
大言壮語を言うではないか
「そうか楽しみに待つことにしよう、出来るモノならやって見せろ、失敗したとて娘の味が良くなるだけだ、対価は確かに受け取った、確認したが大したポーションの様だ」
持参されたポーションを飲み干す
力が満ち寿命が延びるのを感じた、頭も冴えていた
「そうだ、私を元の世界に連れて帰る事は出来ないか?自分で私の勇者に相応しい肉体を探してやりたい、それならばレンタルなどとケチな事は言わないお前に娘を任せよう」
「構いませんが今の魔王は「法王国」と和平を結んでおりまして勇者を送り込んでは来ませんが問題無いですか?」
意外な事を聞かされた
「それならそれで良かろう、情けない魔王と思わなくも無いがな、それでも男に釣られて良いように追放された私に比べれば利口な魔王だ、そうだなあちらであれば魔法で肉体を錬成も出来るであろう、やり様は幾らでもある、案内してくれ、この小屋も好きにしてくれて構わない」
有難い話だ
そして私は故郷に帰還した、濃密な魔力に満ちた空気が私を迎えてくれた、もう少し待ってくれこの世界でもう一度お前と暮らそう50年程度では満足していないのだから




