143.師匠
「師匠に紹介したい人を連れて来たでち」
アンジュが見知らぬダークエルフの女性を連れて帰って来た、ツクモという名に覚えがあった儂が産まれる少し前にダークエルフを率いて魔王に仕えていた族長の名だ、独身で子供を残してはいなかったと聞くあくまで自分の腕を磨く事に重きを置いて部族の事を顧み無い
魔王の代替わりの後その魔王が気に入らなかった様でエルフに化けて勇者と共に討伐したと噂がある、その時の部族の動きがあまりに不可解だったからだ、それまで魔王に献身的に協力していたが、その魔王には殆ど協力していない勇者もダークエルフには構わなかった
そればかりか「魔導国」の派遣した異世界人達と対立し全滅させている、魔王討伐後に魔王に操られていた彼らを救ったと「法王国」は発表しているが、その後勇者は聖女と共に姿を消し、協力していたエルフの女も行方不明となっている
共に魔法使いとして勇者を助けた女魔法使いは故郷に帰り自分を追放同然に魔王討伐に送り出した兄を魔王討伐の手柄を手に逆に追放して国を奪った、この魔法使いにとっては簒奪では無く正当な権利だと思っているだろうが本来王位系主権は無かったと伝え聞いている
妹を使いこなせなかった兄の自業自得と言えばそれまでだが優秀な魔法使いとは言え追放された女が1人で出来る事とは思えない彼女に手を書いたのかも知れない、今その話の答え合わせをしながら盤を挟んで将棋を指している
「ゲオルグ老はその年で将棋を覚えたのだろう?大したものじゃ」
王手をしながら言ってくる
「チェスは嗜んでいたからの、それでも取った駒を使うルールにはまだ慣れてはおらん」
間駒でしのぎながら言葉を返す
「そうか、確かにその様だな」
自陣に手御入れながら攻防手で儂の勝ち筋を潰して来たところで投了した
その後感想戦をしながら今のダークエルフの現状を嘆く会話に話が進んだ、「最近の若い者はなって居ない」という愚痴だけでは無く改善点を投げかけてくるが異常な精神論が並ぶ、理論武装されているがカオリ様の修行から弟子の安全に対する考慮を無くした修行方法が提示された
「この程度で死ぬならそこまでだ」
と言うがダークエルフはゴブリンやオークの様に増えない
「某が見てやろう、今の族長の娘が魔王の生ま変わりと聞いたが」
儂では止められず、カミラ様に引き合わせた
「若いくせに、何をやり遂げた気で子供に夢を託しているのだ嘆かわしい」
ツクモ様の怒りの矛先がカミラ様に向かい、次いでイザーク殿に向かう
「お前らがそんな調子だから後継者を世界樹に奪われるのだ!」
平気で心の傷をえぐる
「部族を捨てたツクモ様に言われる事ではありません」
カミラ様がついに切れた
「ならばせめて見事に後継者を育てて見せろ、また勇者の息子や娘に奪われない様に気を付けろ」
儂にも刺さる言葉を捨て台詞にして迷宮に引き上げる事となった
「なかなかいい原石だが相手が悪いな、あの勇者と聖女は異常だそして千尋と言う女もそうだ、彼女達が居なければ強引にでも主導権を奪って子供を鍛えるのだがな」
寂しそうにつぶやくのを聞いた
そもそも彼女達が居なければカミラ様も違う道を選んだはずだ、それでも少しでもカオリ様に対抗しようとするツクモ様が眩しかったがツクモ様でも勝算は低いと判断せざるを得ないようだ
「ツクモ様が子供をつくられては?」
という言葉は言えなかった、下手をすれば首が飛ぶだろう
「言いたい事は分かるが相応しい相手は居ない、将来は分からないがダークエルフで探すとすれば尚更だ、ヒルダが成人して魅力的ならばどちらが男かは分からないが可能性が見えるやもしれんな」
その言葉に儂は返事が出来なかった
「ダークエルフには寿命という利点がある、勝算が出る迄は耐える時間だ、その間に安易に血を薄めるべきでは無かろう、今の和平が続いているならそれ以外の選択など無かろう、完全勝利を目指すのであればだが」
「師匠!話は終わったでち?次はあたちと指して欲しいでち」
空気を読まない声が掛る
いや重苦しくなり会話が途切れた所を見計らって声をかけたのだろうか?アンジュの迷宮内であり蟻や蜂もそこら中に居るため勝負が付いた所を狙って自分の仕事を止めて出て来たと言うところじゃろう
「折角だから某が相手になろう、手加減は必要か?」
ツクモ殿が相手をしてくれるようだ
「平手でお願いするでち、最近ようやく師匠と互角の勝負が出来るようになったのでち、棋譜並べもして上達しているのでち」
アンジュが背伸びをしているようだ
と思っていたら言葉通りに定石を勉強している様だ、一人前に穴熊を組み上げたが、力戦に持ち込まれて手も足も出無くされた、俗に言う「穴熊の姿焼き」にされていた
「悔しいでち、ツクモのばば様は強いでち、また勉強してくるので相手をしてほしいでち」
この言葉にツクモ殿の表情が変わった
「ばば様とな?いくら400歳を超えているとは言え、ばば様は無いであろう?」
顔を引きつらせてアンジュに言う
「カミラママより何代も前の族長様でち、敬意を込めたつもりだったのでち、気を悪くしたのであれば謝るでち、これからは師匠と呼ぶでち、それで許してほしいでち」
アンジュが謝罪する
「まあ、それでよかろう、師匠と呼ばれるのであれば一つ稽古をつけてやろう、アンジュの獲物は何じゃ?」
ツクモ殿が思いついた様に言いだす、意趣返しに少し痛めつけるつもりだろうか?
「ここで言う獲物とは武器のことでち?それならこれでち」
とアンジュがスコップを取り出した
「何じゃそれは?踏み鋤ではないかそんなものをつかっておるのか?」
「軍用のシャベルでち、カミラママがあたちのために古戦場から掘り出された物を手に入れてくた物でち、カオリママに強化して貰っているのでち」
「塹壕を掘り白兵戦で敵兵の血を吸い、戦死した戦友を埋葬した物なのでち、死霊魔術を使うあたちに相応しい武器なのでち」
「成程の、ではそれて掛って来るがいい腕前を見てやろう」
アンジュの説明で納得した様だ
そこからは意外な光景が見られた、アンジュはシャベルをグレイブの様に使いリーチの差でツクモ殿を刀の間言いに踏み込ませないシャベルの柄は一本の棒状で槍程の長さは無いが2メートル程有り上手く使いこなしていた
「成程、薙刀のように使える訳じゃな、面白い侮っていた様じゃ非礼を詫びよう」
そう言って間合いをとった
再度間合いをつめる出足を払うアンジュのシャベルを刀が地面を叩くのを気にせず振り下ろして止めると、柄を踏みつけながら間合いをつめて刀を振り上げた、それを見たアンジュはシャベルを放し前に倒れ込んで地面に潜ってその一撃を躱した
「あたちの負けでち、とっさに魔術をつかって地下に逃げてしまったでち」
潜ったままアンジュが負けを認めた
「良い戦いだった、ちなみに実戦ならこの後どう出るのじゃ?」
「足場を毒沼に変えてもう近づかないでち、接近戦では勝ち目が薄そうでち」
地面から出て来ながらアンジュがツクモ殿の問いに答える
「そうじゃな、それが正解じゃろうが不測の事態に備えておいて損はない、何時でも稽古をつけてやろう」
「お願いするでち、このまま稽古をつけてもらっても良いでち?」
そう言えばアンジュは自分の成長に対しては真摯だった、良い師匠を得て喜んでいる様だ、この後将棋でも接近戦でも師匠と五分の勝負をする様になっていった




