140.一騎打ち
大鷲に乗り今から行なわれる試合の見届け人の一人として空にいる、私は指定された空域から場外に出たか否かの確認を任されている、指定空域の境界を明示する為に飛行出来るゴーレムが浮いている
それぞれがグリフォン・大鷲を駆り対戦相手を海に叩き落とせば勝利だ、騎乗してる従魔による攻撃は禁止さており身体強化以外の魔法も禁止だ、騎士の馬上槍試合に似たようなもので穂先を外した槍を使用する
オロス国とクローシス国の代表同士による一騎打ちの意味合いの試合で戦争の結果に大きな影響を与えると聞いている、試合の中で場外に出れば反則負けになるし、そのルールを利用して騎乗能力を生かし相手を場外に押し出す策も考えられる
あまり誇れる勝ち方では無い上に共に場外に出る事も予想され、明らかな差が無ければ引き分け扱いにして休息を取った後で仕切り直しになると定められた
オロス国の代表はウルリク殿で私がカオリ様から与えられたグリフォンを今回の戦争の為に貸与している、クローシス国の代表はケイシャ殿でクローシス国の辺境伯の娘だそうで今回の戦争に派遣された海軍の現時点での指揮官でもある、それはクローシス国の国王が捕虜になっているためだ、彼女は王位継承権も持っているそうだ
この試合に何が賭けられているかは知らされていないが珊瑚様が最近知り合ったリッチであるケイシャ殿と楽しそうに今回の試合の結果を予想しながら個人的な賭けをしていた、これにクローシス国側の見届け人でもあるエルフのツクモ殿も加わり盛り上がっている
ケイシャ殿はかつてクローシス国の女王として統治していたが300年以上前の話しで、最大の版図を獲得していた彼女の名に因んでケイシャと名付けられたクローシス国の代表もオロス国の代表であるウルリク殿にも彼女の子孫に当たるようで中立の立場でこの試合を仕切ることになった
彼女の持っている王笏がそれを証明してクローシス国側も彼女が試合を仕切ることを認めた、ツクモ殿が彼女の事を保証した事もその要因だ、むしろオロス国側から疑義が出たくらいだった
それまでの会話の中で聞こえてきた言葉に「妃」とか「婿入り」という言葉が含まれている事から、終戦に向けて両国の間で姻戚関係を結ぶ話が進行しているのだと推測される、いわゆる政略結婚だがその当事者同士の試合となる、純粋な観客としてみるのであればこんな楽しい試合はそう無いモノだろう、ツクモ殿も一歩引いた立場の様で悪く言えば野次馬の1人だ、私に肩に見届け人としての責任が重く圧し掛かる
心情的にはグリフォンの騎乗の弟子であるウルリク殿の勝利を願っているしオロス側に肩入れしているのだが騎乗の経験は相手の方が遥かに上だ、騎乗する従魔の力はグリフォンの方が優れている様に見えるが経験の差を埋める事は出来るだろうか?配置に付く前に、野次馬達もそのような事を言いながら盛り上がっていた
試合の場となる空域を挟んで私の反対側には浮かべた杖の上に器用に立ちながらツクモ殿が試合の開始を待っている、試合の場となる空域の外に試合を行う両者が空を駆けながら待機している、試合開始の合図となる火の魔法が空を照らす
ゆっくりとその火が海面に向けて落ちていくその火が海の落ちる前に試合を行う空域に入らなくては失格で負けとなるがお互いに良い位置を取るために牽制しながら周囲を飛翔している
相手もギリギリまでタイミングを測っている、グリフォンに乗って4か月程の経験しか無いと言う話だったが本当だろうか?十分に乗りこなしている、それでも私達の方が上だ、面倒な勝負だ純粋に試合をして勝負を楽しみ勝利したいが政治的なバランスも考えなくてはいけない
一方的に勝利して相手に恥をかかせる訳にはいかない、勿論逆に不甲斐ない勝負も出来ない、そういう意味では相手の技量がある程度の水準を超えているのは歓迎すべきだ、あまりに不自然な手加減をせずにすむだろう
その様な対戦相手を下に見て舐めていた私の慢心は最初の交差で吹き飛んだ、火がギリギリで海面に落ちる前に空域に突入した私の後に突入し、太陽を背に槍を私に向けて構える無駄に槍を動かしもしないただ自分の駆るグリフォンの動きに合わせるだけだ
その槍を私は自分の槍で逸らして回避した、私は従魔を完全にコントロールして自分の手足の様に操っているが相手のそれは私と対極にあった、従魔を信頼し従魔の動き自分をシンクロさせる、優れたグリフォンだ、恐らくこの勝負のルールすら理解して空を駆けている
羨ましいとすら思うが逆の感情が湧いてくる相手はただグリフォンに乗せられているだけだ、自分で空を駆けてはいない未熟者だ、負ける訳にはいかない、慢心も小賢しい政治的なバランス云々は頭の中から消えていた
私があのグリフォンを駆っていたのであれば最初の槍で相手を海に叩き落としていた、いや穂先の無い槍であろうとも相手を仕留めていただろう、相手の未熟さに感謝しつつもそれに助けられた己の油断を悔いていた相手は空を知ってから4か月なのだ、実戦なら果たしてどの様な結果だっただろうか?
手加減などと寝言を言っている余裕などない、この試合の間にも完成に近い私と違い相手は成長していくだろう持てる力を技をもって次で仕留める殺す気で相手をするくらいが相応しい相手なのだ、次は私が太陽を背に槍を繰り出せる相手の防御する槍を弾き胸に槍が向かう
相手は自分の槍を落としながらは鞍からから身体を浮かし私の槍を躱しながら脇に抱え込むように掴んだ、道連れに海に落ちる事で引き分けを狙っている、これ以上成長する機会など与えられない、私の槍を持ったまま一人で海に落ちればいい、槍を手放して二回目の交差が終わった
相手は私の槍を掴みながら海に落ちていく、こんな際どい勝負になるとは思いもしなかった、私が勝利したが妃になってやっても良いだろう私が勝ったのだ拒否などさせない、船の上で見た時は頼りなさそうだった未来の夫が空の上では違って見えた、そんな相手が海に落ちていく姿を自分が狩った獲物の様に眺める
そんな勝利の余韻が消し飛んだ、私の狩った獲物が落下しながら私の槍を頭上に掲げている、その槍をグルフォンの二本の前足のカギ爪がしっかりと掴んだ、その後高度を上げ宙返りをして再びグリフォンの背に跨るその手には私の槍が構えられている
素晴らしい、人は従魔とここまでの絆を築き上げることが出来るのだ、私は大鷲の可能性を私という小さな檻に閉じ込めていたのかも知れない、戦場であればまだ戦っただろう槍を失っても三度目の交差で剣を抜いて勝利を掴もうとするだろうが私は相手の勝利を認め場外へ離脱した
その指示に私の大鷲は何の疑問も抱かず私の翼として従ってくれる、立場が逆ならあのグリフォンは負けを認めて場外に去る事を許すのだろうか?許したとして再び背に乗ることを認めるのだろうか?従魔の差で負けたと言う気はない2人の力に負けたのだ、当たり前だ私は1人で戦っていたのだから、私の大鷲は指示通りに忠実に飛んでいただけに過ぎない




