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130.遊戯

久々に迷宮の外に出てみようか、稀人はわたくしの迷宮に恐れをなして中に踏み入る度胸は無い様だ、折角生きた人間を招けるように空気の有る空間も用意している、時間経過を止める箱にしまっている茶葉が出番を待っていただろうに


強引に招こうとしたが海藻を操り出入り口を塞がれた、この出会いを無為に逃したくないと思い重い腰を上げて見れば逆に吸い込まれた、稀人もアンデットを使役出来る様だ、素材としたモンスターも素晴らしい、加えてそのアンデットの腹の中に小さいながらも迷宮を創造していた


しかも幼い娘だ、興味を持って改めて力を探ると人間では無かった植物の妖精種の様だ、共にいる女は邪神の現身ときた、両者は何らかの契約で結ばれているのだろう妖精種から邪神に魔力が供給されている


挨拶も無いまま楼閣を構えた小舟に招かれお茶を振舞われた、備えられた楼閣や家具に比べて余りに貧相な器に水差しの様な魔道具から液体が注がれた、私はリッチだが自分の迷宮が海中にあり、自分で研究し組み上げた術式の効果で人間だった時の姿を保っている、骨だけの姿になるような凡愚とは違うのだ


当然毒が入っていようと問題など無い、その液体から何かの効用がある魔力の痕跡を感じたが、相手の思惑を受け止め圧倒するのも一興と飲み干した、そこで私の身体に変化が起きた


悪い影響では無い、時が緩やかに風化させようとしていたわたくしの身体の僅かな劣化した部分にお茶にふくまれていた何かがしみ込み修復していくのが分かる


「これは何だ、教えてくれるのであれば褒美をやろうではないか娘よ」

思わず自分の口からかつて国を治めていた時の口調で言葉が出ていた


「ダリア様から作り方を教わった丹を煎じたお茶でち、それが効くなら原薬も試してみるでち」

その言葉と共に丸薬とグラスが出され先程の水差しからお湯が注がれた


便利な魔道具だ詳しい原理は直接手に触れて解析しないと分からないが自由に望む液体が注げる様だ、調合も可能だろうか?事前に何種類かの液体を保管する機能が有るのかも知れない


興味深いがまずは丸薬の方が重要だ手に取り眺めて、解析に挑んだ、主な素材はある程度強力な生物の肉体の様だが自然のモノではなさそうだ、専用に培養されたホムンクルスであろう、元々は人間を素材にしたと推測できる、この丸薬には魂までは必要としない様だ


優れた依り代が有れば魂の消耗は避けられる。この丸薬の製法を確立した物もリッチであろうが私以上の力か技術を研鑽しているのであろう、あるいは不死に到るプロセスが似て非なる別の魔術体系をもつ存在かも知れない、非常に興味深い


「製法を教わることは出来ないか?望む褒美を取らせよう」


「技術や知識の対価には同等の技術や知識が欲しいでち、互いに自慢のそれを出し合っていくのでち」

私の言葉にこんな返事が返って来た


面白い、これは戦いだ、対等な敵と認めよう、積み上げて来た研究成果を見せつけあう自分の知らない薬の製法でで殴られたのであれば殴り返してやらなくてはいけない


「わたくしの名はケイシャ貴女の名を聞いていなかったわね」

名乗りをあげて今から戦う敵の名を問う


国を捨てた私に家名は意味を持たない一人の魔術師として楽しい戦いが始まるのだ


「あたちはアンジュでち、師匠と呼ばせてもらうでち、有意義な時間にしたいでち」

無邪気な言葉がわたくしの戦意を受け流してしまった


一騎打ちの場面が子供同士でお菓子を交換するおやつの時間に変えられてしまった、肩の力がぬけて気が付いた時には女の子がお互いの人形やぬいぐるみを見せ合う様にアンデットや従魔の自慢合戦になっていた、その中でわたくしがヨルムンガンドの幼生体を出した時にアンジュが興奮しだした


「凄いでち、あたちに毒を吐きかけて欲しでち」

ヨルムンガンドを抱えあげて踊りながら言うのだ


「アンジュ、それは止めろ!」

今まで事の成り行きを面白そうに眺めていた邪神の現身が叫ぶ


それはそうだろう、ヨルムンガンドの毒に耐えられるものなど存在しない、例えそれが幼生体だとしても、わたくしも止めるのが間に合わなかった、アンジュの顔に毒が履き替えられた、貴重な知識が失われてしまう、仕方がないアンデットにして何とか吸い上げられる分だけも吸・・・


「凄いでち、濃厚でち、最高でち!」

全身に毒を浴びながら大喜びでヨルムンガンドを抱きしめ踊りが激しくなっていく


そのせいで周囲に毒がまき散らされた、邪神が素早く距離を取りそれを避けたが私は回避が遅れた、ヨルムンガンドを使役しているがその毒に耐えられるかは別の話しだ、少しでも飛沫を浴びない様にそのまま回避行動をとったが飛沫は結界が防いでくれていた


「アンジュ、おバカな事しないの!」

そこにいつの間にかもう1人女が現われて言った


「だから止めろと言ったんだ、こんな事になると思ったよ、カオリ様が介入する事になってしまったじゃないか」

邪神がため息交じりにぼやいた


そこで楽しいお遊戯はお開きになってしまった

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