129.遭遇
「身の程を知らぬオロス国に思い知らせてくれよう」
王が海軍の指揮官を集め号令を発された
私も自らの率いる船団に物資を積み込み船や魔道具の整備を終えこの時を待っていた、私が率いるのは攻撃魔法を魔石に封じて打ち出す魔道具を装備した最新式の帆船で構成された船団だ、王自ら率いる伝統的な手漕ぎのガレー船と違い未だ海軍の中で評価は固まっていない
練度は決して低くは無いのだが乗り込む魔術師に貧弱な者が多く酷い者は肝心な戦闘時に船酔いを起こして魔道具の稼働率が4割を切った事もある、これは古来から改善できない整備が難しい魔道具の弱点と相まって旧来の戦士たちからの嘲笑と非難の的となった
自らが櫂を漕ぎ戦士として敵船に切り込む時代遅れの老害が海軍の中心だからでもある、王も新しい技術や戦術に理解を示しながらも心は戦士としての誇りを尊重している
跡取りである王子が魔術に優れている代わりに泳ぐことも出来ないということが一因で私達に一定の優遇はしてくれているが王子を産んだ妃の影響が大きのだろう、今までの伝統を重んじれば王子や我々が日の目を見る事は無かっただろう
私自身には別の道が用意されていた、王家の遠縁である私の辺境伯家は魔術師の家系で私個人は従魔として強大な鷹を使役し共に空を舞う事が出来る、一門の騎士達も同じように鷹に跨り空を駆ける事が出来る、そんな私に王子との婚約が打診された、同じく魔術を極める者ではあったが父がこの話を嫌がり私も王子を好きになれなかった、もっとも父は私を他人に渡すこと自体を嫌がっていたのかも知れないが
そんな中跡継ぎだった兄が病で死に私が家を継ぐ事になったが父が認める相手が見つからないまま軍で出世してしまった、もう30近い完全な行き遅れ・・いや貰い遅れとでもいえば良いのだろうか、領地は今戦いを準備しているオロス国に隣接している
併合して若い未婚の王を手籠めにして公国として治めないかと王が冗談をいって私をからかう、母が王の妹で王の姪であるからだ下位ではあるが私にも王位継承権もある、冗談のままにして欲しいが変に戦争で勝利すれば現実になる恐れもある
婚約者を奴隷上がりの男に奪われる様な男は御免だ見た事はないがこの国の王子と対して変わらない軟弱者だろう、実際オロス国の実権は母であるモルガンが握っているという噂が聞こえてくるくらいだ
この国の者達もその噂を信じている、それには理由があるこの国には建国当初は女性に王位継承権はなかった、1人の武勇にも魔術にも優れた王女が兄を追い落として王位を奪うまではだが、この王女の代で我が国は最大の版図を獲得した
今以上に扱いにくかった魔道具を使いこなしアンデットの船員も使役して海戦では負け無しだったと伝わっている、息子に王位を譲った後王位の証である王笏と共に姿を消しその後の行方は分からないという話だ、勝利と共に多くの敵もつくってしまっていたから身を引いたのかも知れない、その際に後を継いだ息子は国名を改めている
皮肉な話に隣国がその古い国名を名乗っているのだ、女王の居なくなった隙に独立しその国名を僭称している、それ以来の因縁が今も後を引いているのだ、そしてその因縁もこの戦いの後に終結するだろう
「今日は大漁だったでち」
沈没船を引き揚げそこに眠っていたお宝を選別している
海水が冷たいため船体の劣化も少なく修理すれば再生できるものもあるし、別の船の修理の材料としても十分に使用可能だ、アンデットの素材も多く眠っている、サルベージする海域を拡げていく中で面白いモノを発見した
それは海底遺跡だった、いやダンジョンと言う方が適当だった厳重に支配された水生動物やアンデットそしてゴーレムがそれを守っている
「凄いでち、海中に迷宮を築いていたでち、あたちたち2人でも攻略できるか怪しいでち」
喜んで突撃しそうなアンジュが慎重になっている
確かにヤバい匂いがする一旦引いて準備を整える必要があるだろう
「おや何十年、いいえ何百何も訪れた者の居ないわたくしの迷宮に初めての客人を迎える事が出来ると思ったのにお帰りですか、歓迎しますよ、地上の話を聞かせて下されば土産も進呈しましょう」
頭の中に直接言葉が届いた
「歓迎とはどういう歓迎になるのかな、こちらは手ぶらで挨拶の品も用意していないが構わないかな?」
相手と同様の方法を推測して念話などいくつかの方法でこちらの疑問を伝えた
「言葉の通りの歓迎です、お茶も用意しましょう」
今度は念話で返って来た迷宮の扉が開き周囲の海水を吸い込みだした
アンジュが海藻を一気に成長させ扉を塞ぎ海水の流れをせき止めた、私は自分にかかる重力を制御して海底に足を付ける
「少し強引ではないか?そんなに飢えているのか?お前自身がその迷宮そのもので挑戦者を食らう存在なのではないのか?」
相手が念話に切り替えて来ていたので念話だけで返した
「これは失礼な事をしてしまいました、確かに飢えていたようですわ、その飢えは会話に対するものなのでしょう、わたくしのテリトリーに侵入するのが怖いのでしたらわたくしが訪問しましょう、手ぶらでお邪魔する様な失礼な事は致しませんわ」
嫌味なのだろうか?それとも怖気づかないで入って来いと言う挑発だろうか?
「それならあたちの自慢の船に招待するでち」
アンジュが突然クジラのアンデットを召喚する
そのクジラは周囲の海水ごと迷宮の入り口から中の海水を呑み込んだ、何か周囲に結界を張った存在を吸い込んでいる次いで我とアンジュも口の中に吸い込まれていった
鯨の胃の中とは思えない様明るくに広かった中央に船が浮んでおり大きな四阿がその上に造られている周囲の水は淡水で蓮の花が咲いていた
「随分と乱暴な招待だ事」
水面に立ちながら苦情を言う女がそこにいた
「先にこんな招待をしようしたのはそちらでち、同じような招待をして何がいけないのでち?」
アンジュが水面を歩きながら船に乗り込みながら返す
「良いからリッチのおねえさんも乗るでち、お茶を出すと言っていたのでこちらもお茶を出すでち、性別が分かるくらい肉体が残っているなら楽しめるお茶が有るでち」
アンジュがぬけぬけと言葉を紡ぐ
そのまま四阿にあるテーブルで水差しを出して茶碗に液体を注いでいる
「何だこれは、取っ手すら無い下民の器ではないか、毒でも入っているのか?わたくしにそんなものが効くと思っているのではなかろうな」
そんな事を言いながら自分の余裕を見せつけるためだろうかそれを飲み干す、そして手が止まった
「これは何だ、教えてくれ、褒美をやろうではないか娘よ」
機嫌が良くなっている様だ
「ダリア様から作り方を教わった丹を煎じたお茶でち、それが効くなら原薬も試してみるでち」
アンジュが怪しげな丸薬を取り出して白湯と一緒にテーブル置いている
私も見た事の無い薬だ、普通の人間が飲めば命が無い毒薬にも見える、彼女はそれを指でつまみ興味深そうに見つめていた




