127.決意
「珊瑚様、どうしたのですか?そんなに不機嫌そうにされて」
アンジュ様が「法王国」からの支援の品を運ん出来た後に部屋に籠り酒をちびちび飲みながら愚痴を吐き出している
「スセリお前も飲むといい、アンジュが届けてくれた蜂蜜酒だ、素晴らしい出来だ」
私の質問を無視して酒を勧められた
見るとアンジュ様が壺に水を満たして肩まで浸かりそこに盃から黄金色の液体を少しずつ垂らしては珊瑚様の話しに相槌を打ち誰かの悪口を言っていた、不機嫌の理由が知りたければこの創造性の無い後ろ向きな酒宴に参加しろと言う訳か
「「法王国」から最新式の軍船や兵器が届きましたウルリク様やモルガン様が部下と共に運用法を学ばれております、隣国にも対応で来ると喜ばれておられました、何がいけないのですか?」
仕方なく席に着き注がれた酒を飲みながら質問する
「そうそれだ、そのせいで我らの出番が無くなってしまったではないか」
「あたちの仕事は輸送だけになってしまったでち、とち狂った卯月が何故かやる気を出してこの島まで自分も出て来やがったでち、あいつのスキルから考えたらデバフがかかるはずなのに調子が良いのは変でち」
「卯月様と言えばアルラウネを抱かれたまま仕事をされている魔術師ですよね?弥生様の秘蔵の弟子だとか」
「あいつもアルラウネでち、弥生様の血を授かったにも関わらず、性根が腐っているのでち、マンドレイクの時から根腐れしていたにちがいないでち」
「そうなのですね、卯月様はあのサクヤ様と言うアルラウネに恋をされておられるのではないでしょうか?」
「あいつに様を付ける必要は無いでち、それにしてもあいつが他人を好きになるとか何か悪い事が起きそうで怖いでち」
「悪い事は今ここで起きているではないかアンジュ、お前と楽しい祭りが出来ると楽しみにしていたのに、何故カオリ様では無くイライザ様が来るのだ?」
「カオリママは子育てに忙しいのでち、それとセーラ様に話が伝わって「カオリ様に任せるとやり過ぎるだろうから今回はイライザ様にお願いします」と止められたのでち」
「あれがやり過ぎじゃないだと?この世界に「大砲」を持ち込んだ馬鹿がいるのだぞ、それに風の精霊魔法で海面を疾走する「ホバークラフト」まで用意しやがった!」
珊瑚様が机に拳を叩きつけて叫ぶ
「卯月の馬鹿の仕業でち、あれでもカオリママが止めて加減されているのでち、今まであのバカは迷宮の地下で魔法を使わない爆発を起こす兵器の実験を成功させて今回それを持ち込もうとしたでち」
「でもあの兵器のお陰て新しい有害物質が生成された事は評価するでち、植物の妖精にとっては進化と急速な成長を促してくれる効果も発見されたのでち」
「残念な事に、カオリママが血相を変えて迷宮にやってきて今後の研究を禁止されていたでち、卯月ザマ~と思いながらも残念でち」
珊瑚様が叫んだあと酒を飲みながら無言になった代わりにアンジュ様が饒舌になり聞いてもいな事を語りだした
2人に仕事は無いが私にはやるべき仕事が残っているのだ、これ以上こんな無駄な事に付き合ってはいられない
「折角自由時間が出来たのです、海底調査でもして沈没船を探し、宝探しとアンデットの補充でも進められては如何でしょうか?折角の美味しいお酒ですし祝杯を上げる時にまた誘って頂ければ嬉しいです」
何とか前向きで建設的な方向に軌道修正しないといくら時間があっても足りない
「スセリ、尤もらしい事を言うが我の酒に付き合いたく無いのではなかろうな?まあいい、折角の良い酒だ祝杯のために残しておこう、ここはそなたの口車に乗ってやる、祝杯には最後まで付き合ってもらうからな」
此方の思惑はバレていたが解放された
イライザ様を交えウルリヒ様・モルガン様と今後の事を話し合わなければならない、危うく約束の時間に遅れるところだった
「素晴らしい、海の無い「法王国」でこれだけの物が用意出来るとは思っておりませんでした」
息子が喜びと興奮を隠しもせずイライザ殿に賞賛の言葉を伝えた
私はそれ以上に恐怖を感じていた、「同盟」は魔王軍との和議に水を差すような行為を続け魔王カトレアから手痛い報復を受けた、それを救援して貸しを作ったのが「法王国」だ今もあれだけの船を建造し支援として送られ運用法までも「同盟」に属する我が国が指導されているのだ
我が国の王城を襲ったクジラの怪物といい魔王軍との和議は共闘すら可能な段階に移行している、表向きは別にして両者の関係は今後も強固になっていくだろう、この船の存在が「法王国」が今後海にまで進出する意思を示しているのではないだろうか?
いや、あの船が「法王国」で建造されたと確認された訳ではない、あの鯨で輸送できるのだ別の友好国から調達した可能性もある、それならそれで恐ろしい、今まで「同盟」内でもこの様な船を見た事は無い、我々が接触した事の無い海洋大国が存在している事になるのだ
「イライザ様この素晴らしい船は「法王国」で建造されたものなのですか?」
なるべく自然な話の流れで情報を聞き出そうと質問を繰り出す
「にわかには信じられない事かもしれませんが、この世界と別の世界が存在するのですよ、女神様の力で勇者としてこの世界に導かれた者から、その世界の知識と技術を学ぶ機会に恵まれました、我が国でそれを再現した物の一つがこの船です」
イライザ殿が答えてくれた
確かに素晴らしい船であったがこの船には魔術的な運用を想定されていないきらいがある、まるで魔法そのものが無いかのようだ、新造されたばかりの船であるにも関わらす不自然に魔法への対策が追加された様な「改装」が見られた
「私の推測でしかないのですが、その別の世界には「魔法」が存在しないのではないですか?」
私の問いにイライザ殿の目に警戒の色が見えた
「失礼ですがモルガン様も別の世界で生きられた記憶をお持ちでしょうか?」
イライザ殿は私の質問に答えず逆に質問をされた
それでもその質問こそが私の問いに対する答えとなっていた、間違いなく別世界が存在しその世界には魔魔法が無いか僅かな力しか発揮できない環境なのだと
「もしかしたら、私もかつてその世界で別の人生を過ごした事が有るのかも知れません、それでもその時の記憶は有りません、この先思い出すのかもしれませんが私はこの国の国母たるモルガンです、それ以上でもそれ以下でもありません」
私はイライザ殿に答え、自分自身にも言い聞かせていた
私はモルガンなのだと、有用な知識が眠っていたのだとしても今は前世の記憶など必要ではない、夢の様な妄想にかける時間はないのだ、現実に向き合い前に進んでいかなくてはいけない、今は避けなければいけないがこの先私やウルリクが「法王国」と敵対する可能性も有るのだ必要以上に情報を渡してはいかない
そう決意した私をイライザ殿が面白そうに見つめてた、もう後には引けないまずは春に隣国の海軍を壊滅させる、その後で我が国が自力でこの船を建造できるように成長させなくてはならないのだ
そして別件だがもう一つ手に入れなくてはいけないモノがある、何とか息子の妃としてスセリ殿を迎えたい、この数日で人となりも実力も分かったこの国に必要な人間だ、息子もそう思っている様だがあの甲斐性無しにそれが出来るのだろうか?
ウルリクの血が残るのであれば私の代以上に王が妃の尻にひかれても構わない、スセリがこの国を導くのであれば「法王国」とも協力体制が維持され引き続きサンゴ様の加護も得られるだろう




