120.漂流者
珊瑚にいさんと海を満喫していると何か大きな魚の群れが寄って来た別に縄張りを主張する様な感じでは無い、探ってみれば微かにカオリママの魔力を感じる、そう言えばクジラを狩った後シャチという、生き物を従魔にしたと言っていた
シャチの群れのボスもあたちから感じるカオリママの魔力を感じ取って様子を見に来たのだろう、何故か珊瑚にいさんはシャチが気に入らない様で睨みつけている、それでもカオリママの魔力を感じているのだろうその目に魔力を籠めて呪いを発現させるような事はしていない
シャチとキューキューと何か意思疎通が成立している様だ、次第に険悪だった空気が緩んでいく
「アンジュ、一緒にこいつらについていくぞ、漂流している船が有るらしい」
珊瑚にいさんが言う
海藻で浮島を造り彼らの2頭に蔦を巻き付けて引いてもらう事にした
「これじゃノーデンスみたいじゃないか」
快適に海の上を進んでいるのだが珊瑚にいさんが複雑そうにつぶやいている
「ノーデンス?それはなんでち?」
「アンジュは知らなくて良いよ、カオリ様にも内緒にしておいてくれ我が敵対している神の名だ」
珊瑚にいさんが答える
「わかったでち、あたちからはないも言わないでち、でもカオリママならその気になればあたちたちの五感を共有出来るでち、聞かれたくない事は言葉にしない方が良いでち」
あたちが告げ口したと思われると困るので教えてあげた
「まあいい、別にそこまで致命的な話でもないさ、協力を頼む手間が無くなりそうだ」
海岸が微かに見えるくらいの沖合に差し掛かると前方に船が見える
その船にはあるべき帆が無く、船を漕ぐための道具もである櫂も1本すらなかった、船には30人程が乗っているが粗末な服を着て荷物もわずかな水と食料が積まれていた形跡があるがそれも尽きかけている様だった
「これはどういう状況なのかしら?」
珊瑚にいさんが予想した様に一頭のシャチの上にカオリママが転移して来た
儂らは謀反の疑いをかけられ追放される事になった、追放というが実質死刑の様な物だ船に押し込まれ僅かな水と食料だけを与えられ別の船で沖まで曳航された後放置される、儂らの船には帆は外され櫂も無いただ海流に流され漂うだけだ
その後に待つのは緩慢な死か、僅かな水と食料を仲間同士で奪い合う惨めな最後が有るだけだ、5日が経過した時にシャチの群れが船の近くに寄って来た、隣国で神の使いと言われている者達だ、私の仕える姫が僅かに残った食料の内干し肉を海に投げ込み周辺国で信仰される海の神への祈りをささげられた
シャチの内1頭がその肉を食らった後別の1頭を残し我々を置いて東に向かっていった、残った1頭はお礼のつもりだろうか大きな魚を仕留めて起用に背ビレを使って船の上に投げ入れてくれた、そのシャチは我々の船の周りを護衛するかのように回遊している
その後1日程時間が過ぎた時に変な物が近づいてくる、目を凝らすとシャチがその変な物を曳いていた、海藻の塊の上に女性と幼い娘が乗っていた、彼女達が私達の様子を伺っている
次いで彼女達を連れてきたシャチの上にもう一人女性が現われた、神官衣を身にまとっている
「お困りの様ですね、何かお手伝い出来る事は有りますか?」
シャチの上に乗る女性が私達に尋ねてきた
彼女は何者だろうか?海の神の使いであろうか?魔法を封じるための枷を付けられているのに彼女から凄まじい魔力を感じる、枷の影響で私に仕えてくれている者達の魔力を感じる事が出来なくなっていたというのに
「海の神の御使い様とお見受け致します、私はリディア・エリクソン、誇りある海の民の女王に成る筈だった王女です、いえ王女でした叔父の謀反によりこの船で流され死を待つだけのところです、願わくば私の家臣達をお救い下さい、その対価として私は海の神にこの身を捧げましょう」
「お待ちくださいリディアさま、生贄が必要ならば私達がその身を捧げます」
「御使い様、何とかリディアさまだけでもお救い下さい」
長く私に仕えくれた爺が御使い様に懇願した
「待ちなさい、気が早すぎます、私が仕える神は生贄など求めはしません、あなた方の今の状況を詳しく話して下さい、その上で生き延びた場合にどの様な見返りを用意出来るかを伺いましょう」
何れかの神の御使いには違いない様だ、あるいは上位の司祭か巫女だろうか
最早彼女達に頼るより他に生き残る道は無い
「貴女様のお仕えする神をお教えください、もし私達が生き残れたのであれば信仰する神を改めて新天地で慈悲深き神の神殿を建て恩に報いる事でしょう」
私はこの出会いに、手を差し伸べてくれた神にすがる事にした
アンジュと珊瑚が奇縁を繋いでくれたようだ、駆けつけてみたが厄介事でもある、「法王国」で引き取り保護する事は簡単だ、セーラ様に小言を言われるくらいで済むだろう、魔王軍との和平が続いており開拓できる土地には困らない
「私が仕える神は「法王国」を中心として広く信仰を集めている女神様です、望むのであれば「法王国」で受け入れる事は可能ですが貴女達はそれを望みますか?」
「神殿を建立するまでは望みません、今の信仰を捨てろとも言いませんが、「法王国」の民として法と規範に従って貰う事になります、まずは落ち着いて皆で考えられる場所を造りましょう」
「アンジュ、貴女のクジラで私達と彼女達を船ごと呑み込んで外部から隔離して頂戴」
アンジュに指示を出す
リディアと名乗った女性につけられてた枷に魔術的な監視の反応が見える私の解析が間違っていなければ映像しかとらえてはいない筈だ、アンジュの従えるクジラのモンスターのアンデットは海水ごと呑み込み胃の中に収納できる時間停止の能力こそないが生き物も収納出来る便利なコンテナとして使るし内部を魔法で明るくする事も可能だ
鯨で私達を吞み込む寸前に枷を破壊した、その後クジラの胃の中で船の周囲を凍結させで広場を造り以前本神殿で振舞われスーザンが囚人の飯と言って食べる事を拒否した炊き出しの雑炊を提供した、あの後アイテムボックスの肥やしになっていたのだ
アイテムボックスの中で痛んでいないしまだ少しは温かい、船で漂流して食料を節約していたであろう彼女達の胃にも優しくて丁度良いだろう、贅沢を言っては良くないが正直私も進んでは食べたくない物だ滋養は有るのだが身体を鍛えるための食事としてはもっと適した物が有る




