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118.覚めない夢

何とか落ち着ける場所へと退避出来た、比較的宿代の高い防犯的にも質の高い宿だ、裕福な巡礼者向けのものでお嬢様でも大丈夫な部屋だ、庶民向けの相部屋の安宿では別も危険も考慮しないといけなくなるし碌に話し合いも出来ない


朝の勇者や副司祭様の発言の意味を考える、確かに毒殺に備えるために子供の頃か少しずつ毒に慣らしていく家もある隣国の「魔導国」のクルーゲ家などが有名だ、そしてお家騒動の話しだが「法王国」では国王でも一夫多妻は認められてはいない、勿論愛人を囲っている者はいるが戒律も有り大っぴらには出来ない


離婚も禁止されてこそいないが、貴族としては大きな傷となる、人を見る目が無いと見なされ周囲からの目も厳しいものになる、それでもお家騒動は有るが神殿が介入する事は稀だ


「敵が取りたいのであれば自らの力でやり遂げろ、その事で罪を問う事は無い」

という発言とも取れる


怖ろしい話であるが、お嬢様への少しずつ弱らすための毒を毒にへ慣らすためのものといってのけた事の意味を考えると、私の考え過ぎでは無いのかも知れない、あの言葉は私に対してのものでは無いだろうか?主人を守りたいのであれば行動を起こせと言っている


いやそうでは無いだろう勇者の立場でどちらかに肩入れは出来ないが注意喚起はしておこうというのが正解の筈だろう、そう自分の恐ろしい考えを否定したが、心の奥にやられたならやり返せという思いがよぎる、そのつもりなら立ち聞きしていたメイドを逆に買収するか口を封じるべきだった、今更手は出せないだろう悔しい思いと共に安心していた、自らの手を汚さずに済むと


それでも今後の方針を決めないといけない、一日と時間を限られたのは悠長にしているとお嬢様が危険かもしれないという気遣いでもあるだろう、そして逆襲するのであれば早く動けと急かしているのかも知れない、今否定したばかりの考えが蘇ってきた、今から屋敷に戻ればメイドは倒れたままかもしれない


そこで何故あの時にメイドが倒れていたのかとようやく疑問が涌いた、取り乱していたのはお嬢様ではない私も冷静な判断が出来ていなかった、誰かの介入が無ければあんな事にはならない筈だ、急いで1人で屋敷に戻る事にした





目を覚ますとお嬢様の部屋の前で倒れていた、まだ頭がはっきりしないが何があったのか思い出そうとする、朝早くお嬢様は執事のセバスチャンに付き添われ神殿に向かわれた、その後しばらくして2人で深刻な顔をして戻られた、何があったか確認して奥方様に報告しないといけない静かに扉に近付き聞き耳を立てた、私が覚えているのはそこまでだ


お嬢様の部屋は空で執事の姿は無い、急いで自分にあてがわれている部屋に行くと私物を漁られた形跡がある、奥方様からの指示の手紙が無い、一番最近の物を処分出来ていなかった読んだ後にすぐ燃やしておくべきだったのに、天井裏に奥方様からお預かりしている2種類の毒と報酬を約束した書類が隠してある

これは見つかってはいなかった


執事とお嬢様に気付かれたのであれば報酬など手に入らない、下手をすれば口封じに私が消される、奥方様からは勿論執事のセバスチャンからも何をされるか分からない、今すぐ荷物をまとめて逃げ出すか証拠の品を抱えて神殿に駆け込むしかないだろう


幸い毒は使用していない封がされたままの新品だ、無罪放免とはいかないが殺されるよりはましだ、神殿へ駆け込むことに決めて屋敷を出た、間一髪間に合った執事が血相を変えて屋敷に戻って来た服装と髪型を変えた私に気が付いていない様だ


神殿の門をくぐり懺悔質室を目指したところで2人の女性に声をかけられ神殿の奥にある部屋に連れていかれた、優しい声で付いて来る様にに言われただけなのに何故か断る事は出来なかった、そこで私はそうする事に何の疑問も持たずに自らの罪を聞かれてもいないのに全て話していた


私の選択は正しかっただろうか?飲み物だけでは無く食事も用意されてこの部屋で待つように言われた、監視のために誰かが付いている訳でも無いのに逃げ出しもしないで長い時間祈りながら待ち続けた





異世界転生と言うものだろうか?私が前世の記憶を思い出した時にはほぼ詰んでいた、それでも不幸だった前世よりはいくらかマシだろう、新興宗教二世で親に道具として使い潰された人生だった、まだ最後の選択肢はある神殿に保護されて余生を送る事が出来るみたいだ


まだ16歳だが前世の寿命の続きと思えばまだましだこの世界での記憶をたどれば多少は良い待遇で迎えて貰えそうだ、修道院送りと言う訳でも無い「法王国」では聖職者でも結婚は出来る、穏やかな幸せを手に入れることが出来るかもしれない


もう一つの道はハイリスクハイリターンなイバラの道だ、前世の記憶が戻れば今世の父や母への思いも薄れた、前世での両親への恨みに引きずられているのだろう敵を討つ気も無い訳では無いが執着は無い、神殿からも陰ながら支援を受けて敵討ちをやり遂げれば親の跡目を注いで晴れて貴族の当主になれる


落ちぶれかけとはいえ伯爵家だ母の実家からの支援も受けられるだろうがそこまでの情熱はない、安全な道を歩もう、継母たちのイジメを前世の記憶を持ったまま直に受けなかっただけでも有難い、手に触れただけで蓄積した毒を解毒出来る様な勇者様が保護してくれる、彼女も妊娠している様だった


私も前世で叶わなかった普通の女の幸せを掴めるかもしれない、そう思えば私の異世界転生は詰んでなどいない前世で苦労した私を神様が、いやこの世界では女神様が私を救ってくれたのだセバスチャンが慌てて出かけた後安全のために部屋の戸締りをして、寝台で背伸びをしながらこれからの穏やかな幸せを信じていた


私はこの時すぐに1人で再度神殿に駆け込むべきだったのだ、これまでの疲れで眠ってしまった後に私の運命が決定してしまう事になるなどと思いもしなかった、主人公の様に親の仇を打ち、落ちぶれかけた伯爵家を建て直す、神殿との関係も良好だ、有能な婿も実家の祖父たちが見つけてくれた、周囲から祝福され羨ましがらせる人生を歩むことになる


ただその幸せな人生は脱線しない様な堅固なレールが引かれた一本身道だ自分で選択したと思える事など一つも無い、ただただ物語の主人公として演じきっただけだ、優秀なメイドや執事は勇者のアドバイスに従い健康的で素晴らしいスキルが獲得できるメニューを用意してくれた、そう食事もメニューすら自由は存在しない


それでも継母を裏切り私に忠誠を誓ったメイドは幸せそうだ、執事のセバスチャンも母の墓の前で泣いて私が当主になった事を報告していた、最初に最高司祭様より下賜された布は継母や義姉達がドレスに仕立てて自滅したが再度下賜して頂いた、その布に魔王討伐に参加した勇者達の雄姿を刺繡しながら跡継ぎを育てている、その時なってやっと自分は幸せを掴めたのだと感じられた


勇者と聖女にしごかれた地獄の日々がようやく報われた、これからは少しは自分で選択できるようになるだろう、もし夢なら覚めないで欲しい、地獄の修行の中で悪夢なら早く冷めてくれと願っていた自分を褒めてやろうと思う、よく耐え切ったものだと


跡継ぎには私が勇者と聖女仕込みの修行を付けている、それでも自分の息子だ幾らかは優しいと思うのだが、私の修行を知らない夫やセバスチャンそして解毒されて病が治った父が止めようとする、それでも息子は泣かずに根性を見せてくれる成長が楽しみだ

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