117.囮捜査
「ジャンヌお嬢様、遅くとも今月中に神官見習いとして神殿に入って頂く事となりました、奥方様の決定です」
執事のセバスチャンが領地より聖都のロレーヌ家の館にやって来て私に告げた、正直驚いた妹に家督を継がせたいという意思は感じていたし、最悪殺されるかも知れないと覚悟もしていた
領地で継母と暮らしていた時は少しずつ体調が悪くなっていく事を感じ、父も同じように体調を崩し寝室から出る事も少なくなった、セバスチャンが療養のためと聖都に構えている当家の館に移った後は完治はしないものの少しずつ体調もよくなっているが、現状維持である事にして自分の身を守る事にしていた
その効果が出たのかその後は私の事など忘れた様に放置されていた、その内どこかに売られる様に継母の都合の良い相手に嫁がされるだろうと思っていたのに
今年で私は16歳になったばかりだ神殿に入り修行を始めるには少し遅い、追い出すので有ればもう少し早くしてくれれば良かったのにという恨み言は飲み込んだ、この館で私を世話してくれている者達はセバスチャンが手配をしくれた者達だが継母の息がかかっている者がいるかも知れないし買収されているかも知れない
「セバス、知らせてくれて有り難う、喜んで神殿に向かいロレーヌ家の名を穢さないよう努めると伝えて下さい」
無難な返事をした
「ジャンヌ様、女神様の加護がお嬢様にあらん事をお祈りしております」
セバスチャンが答える
その日のうちに準備を整えた、持ち込む私物はのは母の形見の聖印だけだ宝石なども残してくれたのだが成人まで預かると継母に取り上げれたままで、どうなったのかは分からないままだ
翌朝セバスチャンに付き添われて本神殿に向かった、副司祭であるセーラ様と名高い勇者カオリ様に出迎えて頂いたカオリ様に手を取れてた時に身体が軽くなった
「貴女がジャンヌさんね、間違った処方ね、私が正しい毒を処方して一からいいえゼロから鍛えてあげるわ」
何を言っているのだろう
私は長い間継母の手で少しずつ毒を盛られて来たのだ、身体に毒が蓄積した事が判ったのであればどうしてあの魔女を裁いてはくれないのか?勇者では無いのか
「ロレーヌ家は間違った修行法を伝えていたのでしょう、私がこの子を鍛えます一月も有れば毒耐性を取得出来るでしょう」
鍛えるとはどういうことなの?この勇者はわたしの味方なの?違うの?
「神殿はロレーヌ家の内部にまで干渉する気は有りません、自浄能力が無い役立たずに貴族である価値は有りませんそうでしょう?ただ救われるのを待つだけの者に女神様は救いを与える事は無いのです」
セーラ様が宣言をした
「ジャンヌ、私達の同志となるのであれば、貴女を救う事は勇者の名にかけて約束しましょう、そして覚えておいてください私が救うのはジャンヌ・ド・ロレーヌ嬢ではありません」
カオリ様が言われた
「悪を裁くのが勇者様の役目では無いの?」
涙を流しながら叫んでいた
「ジャンヌお嬢様」
セバスチャンが私の口を塞いだ
「副司祭様、勇者様申し訳ありません、ジャンヌ様がご無礼を」
セバスチャンが私の頭を地面につけて謝罪する
「悪を裁くための力を手にする機会を捨てるというのなら好きにしなさい貴女の自由です、まだ女神様に仕える覚悟も準備も出来てはいないようですね、カオリ様は明日までは本神殿におられます出直して来なさい」
セーラ様にも突き放された
「ジャンヌ様、一旦館に戻りましょう、落ち着かれましたら今後の目的を話し合いましょう」
私はセバスチャンに促され館に戻った
「申し訳ありません、説明不足でした、建前として神前は貴族家の内部に干渉しません、実際介入する事は稀ですが神殿に入ればお嬢様を保護し身の安全も保障してくれるでしょう、ですが当家の問題に口を出す事は無いでしょう」
「ならどうすれば母の敵を討てるの?」
また涙があふれて来た
その時部屋の外から物音がした、セバスチャンが扉を開けるとメイドの一人が倒れていた
「セバス、これはどういう事なの?」
セバスチャンが倒れていたメイドに与えている個室に向かった
「お嬢様、すぐに館を出ましょう」
大急ぎでセバスチャンに連れられ巡礼者向けの宿に移動した
あのメイドは継母の息のかかったスパイだという事らしい個室から継母からと思われる指示の手紙を発見したという、証拠としてその手紙をセバスチャンがもってきた
私は覚悟を決めないといけない、力を付けて味方を増やして敵を討つのか、一人の神官として母の冥福を祈りながら父を見捨てて余生を送るのかを
「セーラ様、これで良かったのですか?何も言わず彼女を助けてあげたら良いじゃないですか?」
罪悪感を感じながら質問する
「カオリ様、最初に説明したでしょう、ただ救われただけではいずれ他の誰かの食い物にされてしまいます、彼女はスセリの様に神官の修行を続けていた訳では無いのです」
「カオリ様の優しさは解かりますが彼女には覚悟が必要です、覚悟をして貴女の修行を受けた者ですら半分が脱落したのですよ」
確かにそうだがあれはイライザがやり過ぎたからだ、いや今はそんな事はどうでもいい、自分で選んだ道でなければ引き返したくなるのはその通りだ、私は今できる事をやろう
「彼女がどちらの道を選ぶにしても私は彼女の力になります、まずは彼女の安全を守りましょう」
支配下に置いている蜂を彼女に護衛に派遣した
心配した通り内通者が紛れ込んでいる部屋の外で聞き耳を立てている、そのメイドを麻痺毒で眠らせた、神殿までジャンヌさんに付き添っていた執事が主人である彼女を連れて館を脱出した、メイドを捕らえて口を割らせ証人とする気は無い様だ、敵が1人だけなのか分からない以上安全策を取るのは正解だが見ていて歯痒い
それは私が蜂を使い館全体を見張れるからだ、それでも自分の身分を守るためにジャンヌを裏切らない彼の行動は評価出来る、彼の忠義が報われて欲しいがそれはジャンヌという彼の主人の役目だ私は彼女の手助けしか出来ないしするべきでは無いだろう、セーラ様からも言われているがそれがもどかしい
彼女の選択がどちらかは分からないが母の敵を取るというのなら協力できる様に私の出来る事をやり切る、まずは彼女から得た毒の特定そして可能ならその毒の入手ルートを探る、これは私の意志でありセーラ様からの指示でもある、手段を選ばないでやり遂げようセーラ様にばれない様に
必要なら証拠の捏造だってやってやる、いや流石にそれはまずいか、私には「蟲毒壺」がある十分に証拠は手に入るはずだ
蜂による護衛も数を増やし強化した、館の外にまだスパイがいて刺客が送られれば有力な証拠になるだろう、彼女を囮にするようで気が進まないが、動けないまま寝ているメイドを解毒して泳がせる事にした、領地や私邸の外で手を出せば介入する理由が出来る
あの執事もそいう思っているのだろうか?それならば期待に応えないといけない、存在しないスパイからの報告を継母に届けるという誘惑に耐えるのは大変だった、おとり捜査まがいの事だけでも不味いのだ、犯罪教唆は止めておこう見込みはほとんど無いがあのメイドもここから会心するかもしれない




