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116.墓穴

カオリ様が貴族への贈り物を用意すると言われて席を立たれた、正直失望した、それでは一時凌ぎのでしかない貴族を調子に乗らせるだけだ


先ほどの自分が魔王になって魔王軍を掌握するのはどうかという発言で感じた直感力と言って良いだろうか?無意識に最善手を選ぶカオリ様の勘に感心していたが所詮子供の思い付きと同じだ、彼女を最高司祭の後継者にしようとしていた自分が恥ずかしい


しばらくするとカオリ様が純白の布を持って戻って来た、今日は次々と心を揺さぶられる、いつの間に「法王国」の伝統を学んでいたのだろうか?


神殿が白い布を下賜する事は神殿に対する奉仕を求める時の作法だ、元々は貴族の家から娘を神官として送り出す際に貴族の家へ下賜され、その布で神官衣を仕立てて持参する、一時的では無く長く神殿で奉仕するという覚悟を示す意味もある


古から続く伝統で今は広く神殿そして「法王国」の為に奉仕を求める際に白い布を下賜される、武力で「法王国」の為に貢献する家では軍旗を仕立てる事もあった、今回不満を漏らしていた貴族にとっては神殿のために領地を差し出した事に対して、事後ではあるが名誉を持って報いた事となる


布を下賜された貴族が伝統を熟知しているのであれば実際に娘を神官として神殿に入れる選択もあるだろう、たとえ神聖魔法の素養が無くとも白い布を下賜されたのであれば出世は約束される、勇者カオリが布を用意して私が、いや最高司祭様の名で下賜されるのだ自領の神殿で修行を積んで望めばその神殿を任せれることになるだろう、また一定期間修行を積んだ後還俗すれば箔が付いて上位の貴族に嫁ぐ事も可能だ適齢期を少し過ぎる事になるが跡取りの妻にと望む家も多い事だろう


不満を漏らしていた後妻が産んだ2人の娘以外に病気でなくなった先妻の産んだ長女もいると聞いているどの様な反応を見せるだろうか楽しみだ、流石に下賜された布をドレスに仕立てるような愚かな事はしないだろうが、そんな了見であれば貴族の位と領地を没収されかねない愚行だ


貴族としての義務を十分に果たしてしないという調査報告も受けている、これが良い試金石となるだろう、私はカオリ様を再度見直していた、幸か不幸か私の過大評価は今後のカオリ様の成長が追い付き、追い越していくのだが私はカオリ様がドレスの為に用意したと気付く事は無かった


この偶然はお互いにとって幸せな奇跡なだが私はカオリ様の努力が起こした必然だと最後まで誤解し続けていく事になる





私が仕える侯爵家に神殿より白い布が下賜された勇者カオリ様が神殿に寄進した物を最高司祭様自らが祝福した物だ、その布をみて奥方様と2人のお嬢様が舞い上がっている、私が家宰として下賜に立ち合い無事に拝領したがその意味を奥方様達は分かっておられない


私は元々先妻が輿入れした際に執事として付き添う形てこの家に仕えることになった、先妻が病気で亡くなり一門から侍女として仕えていた今の奥方様が当主の後妻に収まったのだが、その後に当主も病を患い、先妻の生まれた長女も病弱だ、神殿で治療を受けてもしばらくすると病が再発する、後妻が毒でも盛ったのではと疑いもしたが証拠は見つからない、密かに先妻の実家から薬師を呼んだが毒の形跡は見付からなかった


今ではお嬢様には聖都で療養して貰っている私は「法王国」伝統や作法に詳しいため当家で家宰として仕えている、職務として仕立て屋を呼んでドレスを仕立てようとする奥方様を止めた、この愚かな女にこの家を任せてはおけない、家宰として出過ぎた事で裏切りかも知れないが白い布を下賜された意味を恣意的に伝えた


「奥様、元々は神殿に娘を神官として奉仕にあがる事に対する準備として白い布が下賜されていたのです、その布でドレスを仕立てたりすれば最悪この家が取り潰されるかも知れません」


「セバス、止めてくれて有り難う、頼りにしているわ、それならこの布はどうすれば良いの?」

奥方様が私に意見を述べる様にうながされた


「そうですね、武門の家であれば軍旗に仕立てる事もあったようですが、当家と関わりのある歴代の勇者様や使様の活躍を刺繍してタペストリー等に仕上げて家宝にするなどが宜しいかと」


「何なのそれ?岩塩の鉱脈を奪われただけじゃなく、お金を払ってタペストリーを仕上げないといけないというの!」

次女であるお嬢様が癇癪をお起こした


「お嬢様、落ちついて下さい、当家が今回の件で不満を持っていると知られたためにここの白い布が下賜されたのです、名誉な功績と神殿に認められたのです、当家の名声も上がる事になります」

何とか宥めようと声をかけた


「そのまま手を付けずに家宝として仕舞い込むわけにはいけないのですか?」

これは三女だ姉よりは幾らか理知的だ


「そうですね、恐れ多くて加工できないと言えばいいのですが、その場合実際に神官として神殿へ娘を送り出す事が多い様です」

単に事実だけを話した


その後に出世コースに乗れることや箔が付いて良縁に恵まれる事はあえて黙っておいた


「それじゃ、神殿は不満のある当家から人質代わりに娘を差し出せとでも言ってるの?」

そうすると三女も機嫌が悪くなり癇癪を起す


「私は嫌よお姉さまだってそうでしょ?」

それでも幾らか平静を取り戻り今後の事を考えている様だ


「皆様どうでしょう、当家にはもう一人娘がおります、病弱なため他家に嫁がせる駒としても些か使いにくい方ですが・・・」

最後までは言わないのは、自分の意志で決定した様に思わせたいからだ


「そうだわ、あの子がいたわねどこかの後妻か商家に嫁がせようと思っていたけど、それなら世間体も悪くないわね、貴方もこの家の主人が誰か理解してくれて嬉しいわ」

奥方様が自分の考えた名案に酔い悦に入っている


「それならこの布は私達で好きな色に染め上げてドレスを仕立てましょう、白い布なんて適当に代わりの物を用意してさも大切な家宝として箱にでも入れて蔵にしまえば判らないでしょう」

癇癪を引きずっていた姉も機嫌良さそうに墓穴を掘っている


「そうね、でもそれはあの子を神殿に入れた後よ、一度は当家の名声を高めるために披露しないといけないわ」

奥方様は少しは将来を考えた方法に修正された


だがこれはこれで有り難い、一度披露してしまえは後で入れ替えた事が疑われた時に同等の布を手に入れなくてはならないあれだけの物は簡単には入手出来ないだろう


私はこの3人の母娘に見切りを付けた道連れになるかも知れないが私が仕えた今は無き奥様に報いる絶好チャンスだお嬢様も神殿で幸せを掴むことになるだろう

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